第45話 神纏

 ――ゴォオオオオオッ!!


 俺を中心に暴風が吹き荒れ、キラキラとした青い燐光が辺りに舞い飛ぶ。俺の魔装が青く染め上がり、炎のように揺らめき始めた。


「ファイヤーボール」


 俺は手のひらを虚無に向け、ただの火球を放つ魔法を放つ。


 手のひらの前に、蒼い、ただひらすらに蒼いバスケットボール大の火の玉が現れ、ゆっくりと、それでいて虚無の速度に負けないスピードで飛翔していった。


 そのまま吸い込まれるように虚無の体表に着弾する。


 ――フッ


 そして、なんのダメージも与えずに消えた。


「ギョギョギョギョ!!」


 虚無は何事もなかったように村人たちを追いかける。


「燃えろ」


 しかし、俺の言葉と同時に、当たった場所から青い炎が燃え上がり、虚無の体に纏わりついて焼いていく。


「ピギャアアアアアアッ!!」


 さっきまで俺に見向きもしなかった虚無が、村人を追うのを完全に止め、その場でのたうち回った。


 虚無が頭を地面に打ち付ける振動で、辺りがまるで震度七を超える地震のように揺れ、地面が盛り上がって割れていく。


 しかし、俺の周囲には何も起こらず、微動だにせずにその場に立っていた。


「はぁああああああっ!!」


 俺はジャンプして、虚無の頭を思い切り蹴り飛ばした。


 勢いに引きずられて地面の下に埋まっていた虚無の体も飛び出す。神話の通り、その体は一キロメートルを超える巨体だった。


 ――ズガガガガガガガガッ!!


 虚無は村の防壁を破壊し、森の木々をなぎ倒しながら吹き飛んでいく。


 さっきまでの攻撃とはけた違いの威力だ。


「ふぅ……」


 俺はずっと考えていた。


 もっと強くなるためにはどうしたらいいのかと。


 魔力を圧縮するだけでは限界がある。


 ここ数年は風断ち以上に新しい何かを生み出せず、ずっと足踏みをしていた。


 じゃあ、より強い力を引き出すためにはどうしたらいいのか。


 それを考えていた時、ふと閃いた。


 魔力からより純粋な力だけを抽出すればいいんじゃないかって。


 ただ、その試みは困難を極めた。


 毎日どうにかできないかと試行錯誤したけど、どうにも突破口が開けない。


 魔力を圧縮するというのはなんとなくイメージできる。単純に魔力をおにぎりを握るようにギュッと押し固めるだけだ。


 しかし、すでに魔力としてそれだけで完成しているものから、力だけを取り出すというイメージができなかった。


 そもそも魔力とはなんなのか、魔力の中の力とはなんなのか分からない。


 そこで改めて魔力を観察するところから始めた。


 今までよりもずっと深く魔力というものを理解し、その本質を見極める。


 瞑想しながら自分の内に意識を向け、自分の中にある魔力と対話する。


 最初は全く何も分からなかった。


 でも、一週間、一カ月、一年と対話をし続けている内に、少しずつ少しずつ魔力の中にもいくつかの構成要素、そして粒子があることが分かってくる。


 ただ、それが分かっても未だにその抽出方法が分からなかった。


『あぁ~!! 上手くいかねぇ!!』


 あまりにどうにもならなくて一旦考えるのを止め、しばらく考えずにリーシャたちと訓練したり、モンスターを間引きながら過ごした。


 そして、焚き火をしている時、火をぼんやりと見ていてふと閃く。


 魔力を燃やせばいいんじゃないか、と。


 もちろん魔力は物のように燃やせるわけじゃない。でも、魔力の粒子をぶつけ合うことによって燃焼状態を引き起こすことはできそうな気がした。


 俺は早速丹田の中の試してみる。


『やったぞ!!』


 すると、イメージ通りに魔力の燃焼状態を作ることができた。


 不純物が燐光になって体外に排出され、丹田に純粋なエネルギーが残る。


 そのエネルギーは通常の魔力とは違い、純粋な青色をしていて、ほんの少しでも魔力とは比べ物にならないくらいの力を秘めていた。


 俺はそれをハイ・エーテルと名付けた。


 ただ、ハイ・エーテルを魔装化しておくのは非常に大変な上に、魔力の燃焼状態を維持するのも消耗が激しくて、今はほんの数分しか持たない。


 それに現状は維持するのに精いっぱいで、簡単な魔法しか使えなくなってしまう。


「はぁああああああっ!!」


 俺は時間も無駄にしないため、ハイ・エーテルで作り上げた剣で虚無へと切りかかった。


「グギャアアアアアアアッ!!」


 さっきまで数メートルほどの切り傷をつけるだけで精いっぱいだったのに、今は十メートル以上深々と切り裂くことに成功。


 悲鳴を上げ、傷から血が派手に噴き出す。


 立て続けに剣を振り、体中を切りつけると、虚無は全身からおびただしい量の血を流し、ぐったりと横たわった。


「はぁ……はぁ……」


 俺は一度距離をとって、剣を支えに膝をつく。


 さっきとは違い、傷が深いせいか、すぐ治癒する様子はない。どくどくと流れ出す血は止まらなかった。


「ウギギギギギギギギッ」


 虚無はぐったりした様子で鎌首をもたげる。


 その顔は確実に俺の方を向いた。


 やっと俺を敵として認識してくれたようだ。


「はぁ……はぁ……それじゃあ、決着といこうぜ」


 俺は立ち上がり、手でくいくいと動かして、かかってこいと挑発する。


「ギョギョギョォオオオオオッ!!」


 見えたかどうか知らないけど、虚無は俺に向かって突進してきた。


「はぁ……はぁ……ふぅ」


 俺は呼吸を落ち着け、剣を上段に構え、魔装化していたハイ・エーテルを全て剣に集中させていく。


「ギョギョオオオオッ!!」


 虚無はそのまま俺を飲み込むつもりらしい。


 俺は目を閉じて不要な情報をシャットアウトし、虚無だけに全てを集中する。


 そして、その時を待った。





 今だ!!


 力が最大まで溜まり、ギリギリまで虚無を引き付けたところで、目をカッと見開いて剣を振り下ろす。


 同時に、全てのエネルギーを解き放った。


「天斬!!」

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