第44話 眼中になし
「ギュオオオオオオッ!?」
虚無は不快な鳴き声を上げ、頭を地面に打ち付ける。
まるでゴムを殴ったような感触だ。
それよりもこいつデカすぎんだろ!! 俺が豆粒みたいだ。よく殴って頭を吹っ飛ばせたな。
俺はまるでゾウに挑む子リスだ。声もデカすぎて鼓膜が破れそう。大きい。ただそれだけで脅威だ。
人間と虫の関係を考えれば分かりやすい。虫は人間に叩き落とされたり、踏みつぶされたりしただけで死ぬ。虚無と俺には生物として歴然とした差がある。
とはいえ、この世界には魔力がある。それだけで勝ち負けが決まる訳じゃない。
「フレア!!」
俺は畳み掛けるように火属性魔法の中でも最大火力の爆発魔法を連発。
一つの魔法が発動し、連鎖的に大爆発を引き起こす。
昔は複数の魔法を操るのも大変だったけど、今では余裕でいくつもの魔法を並列で使えるようになった。
今の魔法も一つ一つが周囲を百メートル規模で吹っ飛ばすだけの威力がある。
虚無を包み込むほどの煙が立ち昇り、爆風で自分の前に造った壁と後ろに造った壁にヒビが入り、ガラガラと崩れ落ちた。
自分の周囲の温度を水魔法で下げてなかったら俺も熱さでダメージを負っていただろう。
「ギョギョギョギョギョオオオオオオッ!!」
大きな鳴き声とともに煙を吹き飛ばし、虚無が姿を現した。
「あれで無傷とかどうなってんだよ!?」
体表から煙を上げているものの、どこにも傷らしいものが見当たらない。
完全に受け切られてしまった。
フレアは、俺が使える魔法の中でも一番広範囲に効果をもたらす魔法だ。俺と虚無ではサイズが違いすぎるためこの魔法を使ったけど、ほとんどノーダメージだとは思わなかった。
でも、これで俺に意識を向けるだろ。
「なっ、嘘だろ!?」
そう思ったけど、虚無は俺に見向きもせず、逃げた村人を追いかけようとした。
「くそっ!!」
俺はすぐにマジックバレルを展開。
昔は二つ操るだけで限界だったけど、今では二十門まで操れるようになった。
「お前の相手は俺だぁああああっ!!」
──ドドドドドドドドドドッ!!
仰け反る虚無の横っ面目掛けて魔力の圧縮弾を乱れ撃ち。
巨体ゆえに動きが遅いので全てが着弾する。
「ギョギョギョギョオオオオオオッ!!」
虚無は大きく横に仰け反り、いくつもの血飛沫をあげた。
マジックバレルは貫通力だけで言えば、他の魔法よりも群を抜いている。これなら虚無の防御力も突破できそうだ。
「ギョギョギョギョギョッ」
しかし、ダメージを受けてなお俺に意識を向けようとしない。
おそらくそれほどダメージを与えられてないからだ。
俺が脅威じゃないと思ってんのか? それともたくさんの生命反応がある方を無意識に追ってんのか?
どっちにしてもいい状況じゃない。
とりあえず、モンスターの大規模侵攻の時に戦ったトカゲオオカミのように賢くはなさそうなのが唯一の救いだ。
あくまで本能に従って生きているだけのように見える。これで頭まで良かったら本当に太刀打ちできなかったはずだ。
とにかく一刻も早くこいつの動きを止めなければならない。
「くらぇえええええっ!!」
俺は極限まで研ぎ澄まされた剣を作り出し、思い切り振り下ろす。
――ズバァアアアアアッ!!
風断ちの効果が付与された剣は虚無の体を切り裂いた。
しかし、完全に分断するつもりで斬ったのに、数メートルの切り傷をつけた程度。全長一キロを超える体を持つ虚無にとっては微々たるもの。それでは足りない。
「はぁあああああっ!!」
俺は縦横無尽に動き回り、虚無の体を何度も斬りつける。
「ピギャアアアアアアアッ!!」
斬った場所から血が噴き出し、虚無は顔を天に向けて体を震わせる。
さすがにこれだけ斬れば虚無も無視はできないはずだ。
「なに!?」
しかし、それでもなお虚無は皆の方を追おうとする。
くっそっ、なんでこれだけダメージを受けておいて俺の方を向かないんだ? とにかくできるだけ虚無の邪魔をして皆を逃がすしかない。
「うぉおおおおおおおっ!!」
俺は何度も何度も斬りつけながら、虚無の体の周りの土を固めて動きを封じる。
しかし、俺の魔法の拘束なんてものともせずに皆を追いかけ始めた。
「止まれって言ってんだろ!!」
俺は剣を限界まで巨大化し、魔力で操作して振り下ろした。
「ピギャアアアアアアアッ!!」
さしもの虚無もこの攻撃は効いたようで、動きを止め、つんざくような叫び声をあげた。
「はぁ……はぁ……これだけやってようやくかよ……」
後先考えずがむしゃらに攻撃していたからさすがに疲れてきた。しかし、最初に付けた傷からの血はすでに止まっていて、一番最後の傷の血も止まりつある。
頑丈さだけじゃなくて、治癒能力も高いってか……嫌になるな……。
そして、虚無は俺に見向きもせずにまた皆を追いかけ始めた。
今のままではどうしようもなさそうだ。
こうなったら──
「はぁ……まだ未完成だから使いたくなかったんだけどな……」
俺はまだ使っていなかった切り札を切ることにした。
「
―――
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