第46話 戦いの行方
細い糸のような線が虚無の体を通り抜ける。
俺は
「はぁ……はぁ……」
「ギョギョギョォオオオオオッ!!」
虚無は何事もなかったように止まらずに俺に迫ってくる。
このままでは俺は何もできずに虚無に飲み込まれてしまうだろう。ただ、もう指一本動かせそうにない。
俺は身動きができないまま、近づいてくる虚無の姿をなす術なく見つめる。
「ギョギョ――」
しかし、あとたった数メートルまで虚無が接近した時、奴の声が途切れた。
その直後、虚無の体に縦に線が入り、その線を境に体が上下にズレる。
――ズシャアアアアッ!!
勢いが止まらないまま虚無の体が俺を避けるように左右に割れ、目と鼻の先を掠めるように地面を擦りながら通り過ぎていった。
「ふぅ……」
確かに手ごたえはあったけど、虚無をきちんと斬れていたことを実感し、ホッと胸を撫でおろす。
――ドガァアアアアアンッ!!
さらに、虚無の後方に見えていた山が消し飛び、地鳴りとともに地面を揺らした。
目の前には山を越えてもなお続く、深い深い亀裂ができあがっていた。もはや何キロメートルも続く崖と言っても過言じゃない。
今まであまりに威力が高すぎて一度も本気で放ったことはなかった。だから、ここまでの威力になるなんて俺も想定外だ。
しばらく体を休めていると、少しずつ体が楽になってくる。改めて辺りを見回すとひどい有様になっていた。
虚無が通った場所がめちゃくちゃになり、村の出入り口の側で天斬を放った影響で、その先にあったものが全て天斬に切り裂かれて消滅している。
復興には時間がかかるに違いない。
ただ、幸いこれから冬に入るし、それ以外の場所は無事。食料の備蓄も残っているはずなので、こと食事において問題なさそうなのが救いだ。
亀裂を埋めて防壁や建物を直せば、また以前と同じように過ごせるはず。
「グギョ、グギョッ」
虚無の声ならない声が聞こえてくる。
体を真っ二つに切断されて尚、まだ生きているようだ。体が大きいだけあって凄まじい生命力を持っている。
体がビクビクと痙攣しているが、体がくっついて再生するようなそぶりはない。高い再生能力を持つ虚無でも真っ二つにされた体は元には戻せないらしい。
勝負は俺の勝ちだ。
さすがにここで体が治ったら手に負えない。もちろん、もしそうなっても、虚無が俺を敵として認識した以上、気を引きながら逃げれば村は助けられるだろうけど。
「疲っかれたぁ~……」
とにかくこのまま横になってぐっすり休みたい……ただ、そうも言ってられない。
逃がした村人たちの安否が気になるし、虚無の死体もこのまま放ってはおけない。
俺は重い体を動かして立ち上がる。
まずは皆の安否の確認だ。魔力感知で周囲の魔力を感じ取る。しかし、感知範囲内には村人たちの反応はなかった。
死んだとは思えないし、思いたくない。おそらく感知範囲外にいるのだろう。
「とりあえず、あとを追いかけてみるか……」
俺は皆が逃げた方角に向かって走り始める。
「ギョギョギョギョ△●■×?~!」
しかし、その直後、虚無が訳の分からない叫び声をあげた。
すると、突然周囲の地面一帯が闇に染まる。
「うあっ」
そして、足がいきなりその暗闇の中に沈み込んだ。まるで沼にハマったかのような感触。次第に引きずり込まれるように足が抜けなくなっていく。
抜け出そうとするけど、身体強化をしてもどうにもならない。あっという間に俺の体は闇の中に沈んでいった。
足が底につく感触もないので、底なし沼のようなものかもしれない。虚無の体も同じように闇の中に沈み始めている。
虚無のやつ、まだ何かをする余力が残ってるのか!? 信じられない……もしかして、自分が死ぬなら俺も道連れってことか!?
もう倒したと思って完全に油断していた。周りに俺を助けてくれそうな気配はいないし、完全に詰みだ。
まだたった五歳だっていうのに、俺はこんなところで死ぬのか? ……嫌だ。やりたいことだってまだまだいっぱいある。それに、俺が死ねばパパンとママン、そしてリーシャたちを悲しませてしまう。
そんなことは認められない。
「諦めてたまるかよ!! うぉおおおおおっ!!」
俺は残った魔力を絞り出し、再び神纏を展開して必死に体を動かす。
しかし、いくら体を動かしても、まるですり抜けるように空回りして抜け出すことができなかった。
こっちの攻撃だけすり抜ける実体のない幽霊のような敵と戦っているみたいだ。
そうこうしている間に俺の体は頭を残して闇に沈んでしまった。
「リーシャ!! レイナ!! シャロ!!」
最後の悪あがきも意味をなさず、助けを求めるように皆の名前を呼ぶ。
その後すぐに完全に闇に呑み込まれた。
何も見えない。何も聞こえない。息もできない。こんなところで俺は終わるのか……もうホントになんともならないのか!?
そう思っていると、急に暗闇に光が差した。
ハッとして無意識に瞑っていた目を開ける。
そして、俺は思わず呟いた。
「ここ、どこだよ……」
―――
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