第34話 治療

 まずシャルロットに身体強化を掛ける。


 策、というのは、シャルロットの体の強度を上げることだ。


 シャルロットの体は魔力が流れていない。その分、他の人間よりも体の強度が弱い。


 だから、外から魔力を流して体の頑丈さを上げる。魔力が抜ける時の反動をできるだけ抑えるためだ。


 ただ、他人に身体強化を掛ける、という魔法は今まで使ったことがない。


 上手くできるか分からないけど、シャルロットの全身に魔力を流し込んでいく。


 丹田の出入り口以外の魔脈の詰まりをちょっと強引に破壊して通りを良くしていく。


「ぐっ」


 ちょっと大きな詰まりを貫くたびにシャルロットからくぐもった声が漏れ出た。


 本来なら痛みが出ないようにゆっくり溶かすイメージで魔力を流していくんだけど、今は時間がない。


 シャルロットには申し訳ないけど、痛みは我慢してもらう。


 そして、あっという間に全身の詰まりを解消し、魔脈の隅々まで魔力を流し込んで、シャルロットの体の強度を上げる。


「ふぅ……」


 どうにか無事に全身に魔力をいきわたらせて身体強化させることに成功した。


 ただ、これだけじゃ足りない可能性がある。万全を期して、流した魔力を鎧として全力密度を上げて具現化していく。


「ぼうぐ!?」

「すごい……」

「なんだこれは……」


 周りの声が耳を通り抜けていく。


 魔装は今まで他人に見せたことがない。誰も使っていないことから知られていない技術だと思っていたからだ。


 魔装は防具に見えるけど、実際は身体強化の延長線上にある技術だ。防御面は勿論、身体能力や頑丈さも飛躍的に向上させる。


 これでシャルロットの体は相当頑丈さが上がったはず。残すところは丹田の出入り口だけだ。


 シャルロットの出入り口は、一般人の赤ん坊と同様に閉じきっている。


 これをこじ開けた時、俺と同じ痛みが彼女を襲う可能性がある。それに、詰まりに大きな穴を開けてしまうと、一気に魔力が外に溢れ出し、爆発してしまうかもしれない。


 ほんの少しだけ、ほんの少しだけ、この詰まりに穴を開ける。ここからはより慎重にやらなければならない。


 自分の魔力を圧縮して強度を下げずに、細く、細く、細く、伸ばしていく。


 しかし、ただの針では速度を上げて突き刺すより力を引き出す方法がない。そこで細いながらも螺旋構造を描くように形を変える。


 圧縮して圧縮して、細いながらも圧倒的な強度を持つ魔力のドリルを作り上げた。


「はぁ……」


 ここからが本番だ。


 精神力を使ってかなり疲れてきているけど、泣き言なんて言っていられない。


 俺は慎重に魔力の詰まりの中央にドリルを当てて高速で回転させる。


「うっ……」


 かなり強めにスリープを掛けたはずなのにシャルロットの顔が苦痛に歪んだ。


 それだけ丹田の出入り口の詰まりは敏感で、繊細な部分だということだ。


 それでも止めるわけにはいかない。


「シャロ……」


 リオさんがシャルロットに駆け寄り、反対側の手を握る。


 少しずつ少しずつ慎重に詰まりに穴を開けていく。できるだけシャルロットに負担を掛けないようにしながらも最大限の速度で進めた。


 このままいけば無事に終わる。


 その時だった。


「あぁああああああああっ!!」


 シャルロットが突然奇声を上げた。


「きゃああああっ!!」

「うっ」

「うわぁあああっ!!」


 その途端、シャルロットから膨大な魔力が放出され、俺以外のみんなが吹き飛ばされた。


 そう。


 詰まりがあと少しで開通できる、というまで来たところで、内部の魔力の圧力に耐え切れず、貫通する前に詰まりの全てをふっとばしてしまったんだ。


 ――バァアアアアアンッ!!


 室内に膨大な魔力の暴風が吹き溢れ、その部屋の天井を吹き飛ばし、壁を破壊する。


 その魔力の大きさは今まで俺が会った人間の中でもトップクラスだ。


 ――ピシピシッ


 俺の魔装にヒビが入る。それだけの力がシャルロットには溜め込まれていた。


 みんなのことは心配だけど、目の前のシャルロットに集中しなければならない。


 このまま放置すればシャルロットの体がもたない。全力で魔力を込め直して修復しながら、シャルロットの魔力を抑え込む。


 そこで、もう一つの策を使った。


 自分の手からシャルロットの魔力を体内に吸い込んでいく。


 今まで試したことがなかったけど、魔力を流し込めるなら、吸い込めるはずだ。


 それは予想通りでシャルロットの魔力が自分に流れ込んでくる。


「くっ」


 ただ、予想以上だったのは、その量と勢い。自分の魔脈の中を魔力が暴れまわり、全身に刺すような痛みが襲いかかった。


 しかし、シャルロットの痛みはこの比じゃないはず。シャルロットが頑張っているのに、俺が負けるわけにはいかない。


「うぉおおおおっ!!」


 俺は必死になって魔力を抑え込むように取り込んでいく。


「トール、わたしたちもてつだう!!」

「まかせて」


 俺のやっていることが分かったのか、背中にリーシャとレイナの手の温かさを感じた。


 二人はひとまず無事だ。俺は心の中で安堵する。


 溢れ出る魔力を二人に少し分ける。


 そのおかげでだいぶ楽になった。


 しばらくすると、シャルロットから溢れ出る魔力が落ち着き、ようやく魔力の暴風が吹きやむ。


「はぁ……はぁ……」


 俺は疲労困憊になっていた。


 それでも体を動かしてシャルロットの安否を確認する。


 体は弾けとばなかった。後は体がもったかどうかだ。俺はシャルロットに掛けていた魔装を解いて呼吸を確認するために顔を近づける。


 リオさんが待ちきれなかったのか、息を飲んで口を開いた。


「ど、どうなんだ……?」

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