第26話 はじめが肝心
そして、ついに冬が明けた。
「それでは、トールをよろしくお願いします」
「リーシャをよろしくお願いします」
「レイナをよろしくお願いします」
「分かっている」
今日から俺たちは、親が仕事の間、守護者の子供と一緒に過ごすことになっている。イーデクス様が自ら案内してくれるそうだ。
親たちが頭を下げると同時に俺も頭を下げた。リーシャとレイナも真似をする。
偉い、偉い。
当然といえば当然だけど、守護者の子供も普段は神殿に預けられていた。別の場所にいたら守るのに効率が悪いからな。
ただ、俺たちの部屋とは反対側にあり、出入り口からして分けられていた。
守護者は支配者階級として、時には非情な選択をしなければならない時もある。
その時に思考が鈍らないように、あまり馴れ合わないようにしているのかな。まかり間違って一般人と守護者で恋仲にならないようにしている可能性もあるかも。
「こっちだ。ついてきなさい」
「はい」
俺たちはイーデクス様のあとについていく。
「まずはこれに着替えなさい」
別室に通されると、黒い服を渡された。
「これは?」
「守護者の子供は皆同じ服を着て過ごしているんだよ」
「そうなんだ」
どうやらこの服は制服らしい。
同じ服を着せることで仲間意識が芽生えさせたり、集団行動を意識させやすくしたりすると聞いたことがある。
大人になったら一緒に戦うことになる。小さい頃から慣れさせておくのだろう。
俺たちはそそくさと着替えた。
「トール、どう?」
「にあう?」
二人は深い青い色のセーラー服みたいな上着と同じ色のスカートを履いている。
スカートの端を持って動いてみたり、クルリと一回転してみたりしてアピール。
「可愛いね。よく似合ってるよ」
「うふふっ、やったぁ!!」
「トールもいちころ」
まだ三歳なのにませてるなぁ。
男はスカートの代わりにハーフパンツだ。
「トールもカッコいいね」
「にあってる」
「ありがとう」
三歳と言えど、女の子に褒められるのは悪い気はしないな。
着替えを終えた俺たちは改めて守護者の子供がいる部屋に向かう。
さて、どんな子供たちが待っているのかな。こういうのは初めが肝心だ。舐められないようにしないと。
イーデクス様がとある扉の前で止まり、中に入っていく。俺たちもあとに続いた。
「はい、ちゅうもく」
イーデクス様が室内にいる若い女性の守護者と話したあと、子供たちの前に立って手をパンパンと叩く。
子どもたちが俺たちの方を向いた。
「今日から君たちと一緒に過ごすことになった子を紹介しよう。自己紹介してくれ」
「はい、トールです。よろしくお願いします」
「リーシャだよ。よろしくね!!」
「レイナ。よろしく」
俺たちは挨拶をして軽く頭を下げた。
「よくできたな。ということでトール、リーシャ、レイナの三人がこのクラスに加わる。今度は君たちの自己紹介をしてもらおう」
今度は守護者側の子供たちが自己紹介を行う。
全員で四人しかいない。少なっ!!
勝気そうな短髪の赤い髪の男の子がスオル、スオルの腰ぎんちゃくみたいな緑色の髪の男の子のハロルド、もう一人の腰ぎんちゃくのオレンジ色っぽい男の子ロドリー、そして最後に黒髪の女の子メアの四人。
もう一人女の子がいるらしいけど、病弱で出てこれないらしい。
とはいえ、現役の守護者が村の中で百人程度であることを考えると、このくらいになるのは当たり前か。
「リオだ、三人ともよろしくな」
そして、若い守護者の女の人はこの子どもたちの教育係でリオさん。ブロンドヘアーをポニーテールにまとめている、凛とした雰囲気のお姉さまだ。
二つの母性が服の上からでも一目で分かるくらい主張している。大変素晴らしい。
「イーデクス様」
自己紹介を終えると、スオルが手を挙げる。
「なんだね、スオル君」
「そいつらが杖も詠唱もなしに魔法を使えるって本当ですか?」
「どうかね?」
イーデクス様が「やってみてくれんか?」という顔で見てくる。
「これでいい?」
俺たちはお互いに顔を見合わせると、全員手の上に火の玉を作ってみせる。
室内が騒然となる。イーデクス様もリオさんも目を見開いていた。
やっぱり守護者たちは杖と詠唱を使うのが普通らしい。
「は、はんっ、どうせ、見掛け倒しだろ。俺だってもう身体強化できるんだからな」
「さすがスオル!!」
「スオル、カッコいいっ!!」
スオルが強がって、取り巻きの二人が追従する。
典型的なガキ大将って感じだな。
メアはアワアワした様子で俺たちを見ている。
「俺もできるよ」
「わたしも!!」
「わたしも」
「なんだと!? ふんっ、こうなったらどっちが強いか勝負だ!!」
引くに引けなくなったスオルが俺に指を突きつけた。
とはいえ、ここでコテンパンにしちゃってもいいのか分からない。
俺はイーデクス様にお伺いを立てる。
「あの~、やっちゃっても?」
「う、うむっ、すまんな。よければ付き合ってくれぬか」
「分かりました」
よし、許可は出た。
この組ではスオルがリーダーっぽい。ここで一発ガツンとかましておけば今後いじめられることはないだろう。
部屋はそれなりに広いので他の人たちが壁の側まで下がる。
「かかってきなよ」
「いくぞ!! はぁっ!!」
スオルが身体強化をして殴り掛かってきた。
おっそっ!!
これじゃあ、リーシャやレイナはおろかパップスにも勝てない。
これが守護者の幼児の実力か。
俺は軽く頭をずらすだけで回避する。
「な!?」
躱されると思わなかったのか、スオルは目を大きく見開いた。
「そんなものなのか?」
「そんなわけあるか!! うぉおおおおっ!!」
挑発したら、パンチを連打してくる。
簡単に挑発に乗ってしまうあたり、精神面はリーシャやレイナよりも幼い気がする。
パンチやケリを回避しながらしばらく動きを観察する。
なるほど、なるほど。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……くそ、なんで……当たらねぇんだ……」
しばらく攻撃を避け続けていたら、スオルが息切れして動きを止めた。
ある程度分かったし、そろそろいいかな。
「それじゃあ、今度はこっちから行くよ。ていっ」
「ぷぎゃっ!!」
最弱のチョップをしたら、スオルは泡を吹いて気を失ってしまった。
「そこまで。このようにトールはかなり強い。皆も見習って鍛錬に励むように。スオルは医務室に連れていく。後はリオに任せよう」
「承知しました」
そう言って、スオルを抱き上げてイーデクス様は外に出ていった。
「トールってつよいんだな!!」
「トールくんすごい!!」
その直後、皆が俺に駆け寄ってくる。
リーシャとレイナが俺の前に立ってブロックしようとする姿は微笑ましかった。
守護者クラスのデビューは、まぁ上手くいったと思う。
そして、数時間後。
「兄貴!!」
スオルがわけの分からないことを言い始めた。
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