第27話 改革の一歩
「それでは、これからの予定について説明する。私の前に横一列に並ぶように」
リオさんが俺たちの前に立ち、教官らしい振舞いで指示を出す。
俺たちはリオさんの前に並んだ。
「主に今年からこのクラスに入った三歳組に対する説明になる。守護者の子供諸君は二歳までとはまるで違うから覚悟しておくように。一般人のお前たちはすでに相当戦えるようだが、座学もやっていくことを覚えておけ」
『はい!!』
リオさんの説明の後に守護者組が声を揃えて返事をした。
すでに慣れている反応だ。二歳までにある程度訓練を受けていたのかもしれない。
「は、はい」
「はーい」
「はい」
一方、慣れていない俺たちの返事はたどたどしい。
「慣れていないだろうが、揃えて返事するように。練習だ。せーの」
『はい』
「うむっ。それでいい」
練習してすぐに合わせられるようになった。
「午前中は三歳組は座学で、四歳組は今まで通り魔力操作のトレーニングを行う。しばらくは自分たちでやっておくように」
『はい!!』
「三歳組は部屋の端から椅子を持ってきて私の前に集まれ」
『はい!!』
スオルとロドリーは四歳で、ハロルドとメアが三歳だそうだ。
俺たちは部屋の端にあった臼みたいな椅子を持ってきて、リオさんの前に座る。
「それでは今日は魔法について説明するぞ」
リオさんは手慣れた様子で、身振り手振りや実際に実演をしながら分かりやすく丁寧に説明してくれた。
やはり詠唱は必須で、杖や剣などの触媒がないと安定的に発動できない、というのが常識だった。
一般人の場合生まれた時から魔力量は変わらない。守護者も年齢を重ねるにつれて枯渇させて増える量が減っていき、十八歳を超える頃には相当増やすのが大変になるらしい。
魔法には基本の火、水、風、土、光、闇の六属性があり、複合属性以外でそれらに含まれないものは無属性に分類されている。ただ、種類が多岐に渡りすぎていて、無属性というより雑多属性、という感じだった。
色々聞いたけど、どうも合っている部分と間違っている部分が混在している。
「と、まぁ、ここまで説明してきたが、その常識では測れない存在が発見された」
リオさんが苦笑しながら俺たちの方を向いた。
俺たちは一般人でありながら魔法は使えるし、詠唱も杖もいらない。まさに常識外の存在だ。大人たちの困惑は察するに余りある。
「現在この説明がどこまで正しいか分からなくなっている。頭に入れておくように」
『はい!!』
この間違った常識をどうにかしたい。俺だけでは守れない命がある。
正しい知識が広まれば、それだけ皆が強くなれる。最終的に、村人全員が戦えるようになれば、村の安全度が格段に高まるだろう。
それに、まだ教わっていないけど、この村以外にも集落はあるに違いない。戦力を整えれば交流も容易になるし、血の濃さによる病気なども避けられるはず。
もちろん戦力の格差による支配構造が揺らぐことになるので、その辺りは考えないといけないだろうけどね。
村全体の戦力の強化。それをこれからの目標の一つにしよう。
でも、今の俺はたった三歳の子供。ただの子供の戯言なんて大人は耳を貸さないだろう。まずは実績が必要だ。
「それでは、座学はここまで。復習しながら午後まで休んでおけ」
『はい!!』
お昼近くになって魔法についての座学が終わった。
だけど、給食はないらしい。
「兄貴!!」
元気になったスオルが、戻ってくるなりおかしなことを言う。
「なんだよ、兄貴って」
「トールは俺より強いから兄貴だ!!」
「俺は年下だよ?」
スオルは四歳で、俺は三歳だ。兄貴と呼ぶのはおかしい。
「関係ねぇ。強ければ兄貴だ」
「はぁ……まぁいいや」
しかし、スオルは脳筋っぽいので、いくら言ったところで変える気はないだろう。
俺はやめさせるのを諦めた。
「なぁ、どうしたら兄貴みたいに強くなれるんだ?」
スオルが神妙な顔で口を開く。
「ひたすら鍛錬に決まってる」
「それなら、俺に鍛錬の仕方を教えてくれ! 頼む!!」
スオルが俺に向かって直角に頭を下げた。
その姿からは小さいながら強い意志を感じさせる。何か思うところがあるのかもしれない。
実績が欲しいと思っていた俺にとってまさに渡りに船。断る理由はない。
「分かったよ」
「本当か!?」
「うん」
「よっしゃっ!!」
スオルがひと際嬉しそうにガッツポーズをすると、他の三人も混ざってきた。
「あの、俺たちも頼む」
「俺も!!」
「あ、あの、私も!!」
どうやらここにいる全員が強くなりたいらしい。
ほっほっほっ、やる気があってよろしい。これなら遠慮しなくても良さそうだな。
俺は内心で口端を吊り上げた。
「言っておくけど、辛い修行になるよ? その覚悟があるの?」
「あぁ。強くなれるならどんなことだってやってみせる」
スオルの言葉に同意するように三人も頷く。
「いい覚悟だね。でも、なんで俺なの? それこそ大人の守護者でもいいよね?」
スオルたちの親は守護者だ。教えてもらおうと思えば教えてもらえるはずだ。俺を選ぶ必要はない。
「詠唱も杖も無しに魔法を使うやつなんて初めてみた。父さんや母さんはもちろん、他の守護者にだってそんなことできない。兄貴には普通の守護者にはない強さがある。俺はもっと強くなりたい、もう誰も死なせずに済むように」
先ほどと同じように三人が頷いた。
是非もなし。
「よろしい。それじゃあ、早速始めようか」
「おうっ」
さぁ、まずは魔脈の完全開通だ!!
「リーシャさん、レイナさん、やってしまいなさい」
「うん!!」
「任せて」
俺たち三人は顔を見合わせた後、手をワキワキさせながらスオルたちに迫る。
『ひぎゃあああああっ!!』
室内に複数の悲鳴が響き渡った。
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