第24話 提案

 モンスターの大規模襲撃からしばらく。


 瓦礫の撤去や春先の仕事の準備を終え、今はもう冬が明けるのを待つばかりだ。


 俺とリーシャとレイナは、いつものように地下室で模擬戦をして遊んでいた。


「やぁああああっ!!」

「ウィンドカッター」

「おっと」


 二人は襲撃からより鍛錬に力を入れている。


 最後まで自分たちで倒しきれなかったのが悔しかったのかもしれない。最近さらに力を伸ばしている。


 トカゲオオカミの死体は無事に守護者たちが発見したようだ。実際の名前はエルドラフというらしい。


 一体いれば街が壊滅するという恐ろしいモンスターなんだとか。よく倒せたと思う。


 次に会った時のために、瞬殺できるようになっておきたい。


「三人ともちょっと来なさーい」

『はーい』


 ママンに呼ばれ、俺たちは模擬戦をやめて家に上がった。


「どうしたの、ママ」

「さっき使いの人が来てね。村長の家に来るようにって言われたの」

「そっか」


 何事かと思ったけど、ついにこの時が来たらしい。


 俺たちは大規模襲撃の時に魔法を使い、守護者や村人たちに見られてしまった。


 一般人は魔法が使えない。そのはずなのに俺たちは使った。使えてしまった。異質な俺たちが守護者に目をつけられるのは当然の話だ。


 全然呼ばれないので、あわよくば何かの間違いで済んだらいいなと思っていたけど、時間が掛かったのは後始末に時間が掛かったからだろう。


 リーシャたちは準備をするために一度家に帰っていった。


 身支度を済ませ、リーシャたちと合流して村長の家に向かう。


 村長の家は居住区の中央に位置する神殿の裏側にあった。鉄でできた柵で囲まれていて、まるで貴族の屋敷のようだ。


 入り口の門には二人の門番が立っていた。


 世界の状況もあってか、煌びやかな装飾などがない簡素な造りになっている。


 村長と言えば、多少大きな家に住んでいて、村のまとめ役をしている老人のイメージだ。


 でも、イーデクス様はまるで違う。


 戦士として屈強な体躯を持ち、甲冑を着ている姿は村長というよりもはや騎士団長だ。どちらかといえば、領主という言葉が似合う。


「話は聞いている。ついてこい」


 門番の一人が門を開け、俺たちは門番の先導で屋敷へと足を踏み入れた。屋敷内もやはり調度品などはほとんどなく、実用性が重視されている。


 門番の案内に従って歩いていくと、奥にひと際重厚な両開きの扉が見えてきた。


 あれは……!?


 途中で侍女とすれ違った。


 この世界にもメイドさんがいるんだな!!


 初めて見るメイド服に大興奮。まさかこんなところでお目にかかれるとは思わなかった。


 興奮冷めやらぬ中、扉の前に到着。


 ――コンコンッ


 門番がノックして返事を待つ。


「入れ」


 イーデクス様の声が聞こえると、門番が扉を開いて俺たちに中に入るように促した。


 部屋の奥に重厚な執務机が置いてあり、イーデクス様が座っている。その隣には三十代ほどの青年が立っていた。イーデクス様によく似ている。親族だろう。


「お前は下がっておれ」

「はっ」


 門番が下がり、扉を閉じる。


「さて、君たちかね、魔法が使える子どもというのは……」


 イーデクス様が重々しく口を開き、両親に挟まれている俺たちに視線を向けた。


 両親が警戒するような面持ちで俺たちを庇うように前に立つ。


「お前たち……」


 青年が両親たちを睨みつけた。


 おおん、やるのか? ママンたちに何かしようとしたら全面戦争だぞ?


 俺も逆に青年を睨みつけた。


「やめよ……すまんな、警戒させてしまったか。そんなに構えなくてもいい。お前たちが魔法を使えることを黙っていたことを咎めるつもりも、悪く扱うつもりもない。むしろお前たちのおかげで村人たちが助かった。礼を言う」


 青年とは違い、イーデクス様は優しい笑みを浮かべる。その様子を見て両親はホッとため息を吐いて警戒を解いた。


 実験動物にされたり、虐げられたりする可能性も考えていたから拍子抜けだ。最悪、両親たちを連れて村から出ることも考えていた。


 パパンが代表してイーデクス様に尋ねる。


「それではどのようなお話でしょうか」

「うむ。お前たちの子をワシらに預けんか?」

「え?」


 両親たちが怪訝な顔をした。


「もちろん、引き離すつもりはない。冬明けから守護者の子どもたちと一緒生活させてみんか、ということだ」

「なるほど」

「お前たちの子どもはすでにモンスターを倒す力がある。将来、守護者としてこの村を守ってもらうことになるだろう。それを考えれば、今の内から一緒に過ごさせた方がよかろう?」


 イーデクス様の言うことは尤もな話だ。


 戦える力がある者を他に回す余裕はない。それなら最初から同じ立場の人間と関わっていた方がいい。


 それに、これまでずっと独学で魔法を使ってきた。ここで一度、この世界における魔法の常識を知っておくのは悪いことじゃないだろう。


 俺に視線を向けるパパンとママンに頷いた。


 リーシャとレイナの両親とも頷き合ってパパンが返事をする。


「そうですね、お世話になってもよろしいでしょうか」

「あぁ、もちろんだ。冬が明け次第、そちらに移ってもらう」

「分かりました」

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