第23話 間一髪

「これ、どうしようかな」


 トカゲオオカミの死体を見ながら呟く。


 硬い鱗を武器や防具として加工できそうだし、魔石は杖や魔道具に使えそうだ。せっかく倒したのにモンスターの餌になってしまうのはもったいない。


 俺に知識はないので、風魔法で運んで村の側に置いておくことにした。


 守護者たちが見つけて上手く利用してくれるだろう。


 村の側まで戻ってくると、守護者たちがモンスターの残党狩りに勤しんでいた。


 ただ、守護者たちの魔力が少なくなっていて時間が掛かっている様子。負けはしないだろうけど、殲滅するまで時間がかかりそうだ。


 俺はママンたちの安否を確認するため、急いで防壁を飛び越えた。


 村の中は多数のモンスターの足跡で踏み荒らされている。これが作物の収穫時期だったら、畑が台無しになっていたかもしれない。


 そうなっていたら、本当に村の存続が危ぶまれていただろう。冬明け直前に襲撃があったのは不幸中の幸いだった。


 居住区までやってくると、あちらこちらの建物が崩壊し、侵入したモンスターと守護者たちが戦っている。


 思った以上に多くのモンスターが侵入してしまっていた。


 パップスならリーシャやレイナでも問題ないけど、それ以外のモンスターでは一抹の不安が残る。


 俺はいっそう速度を上げて走った。


「これは……急がないと!!」


 神殿へたどり着くと、いたるところが崩壊していて、厳かな雰囲気が台無しになっている。


 モンスターがここまで来ている証拠だ。


 俺はママンたちの魔力を探る。


「あっちか」


 幸い誰一人欠けることなく、感知できた。


 別の場所に移動しているようだ。


 元の避難部屋は他の部屋よりも損傷が激しく、壁と天井が崩れ落ちていた。この状況で生きているってことはおそらくリーシャとレイナが魔法を使ったんだろうな。


 ――ドンッ!!


 すぐそばで爆発音が聞こえた。


 誰かが戦っている。ママンたちの魔力がある方角だ。その傍には複数のモンスターの魔力反応があった。


 俺は瓦礫を飛び越えて上からショートカット。ママンたちの許へと駆け抜ける。


「見えた!!」


 俺たちの部屋にいた避難民たちの周りを数十体のモンスターが取り囲んでいた。


 リーシャとレイナと守護者が一人応戦している。二人は苦しそうな顔をしていた。


 まだあれだけの数がいるとなると、リーシャたちでも魔力が持たないだろう。


「きゃぁああああっ!!」

「うっ……」

「危ない!!」


 案の定、身体強化が不得意なレイナが隙を突かれ、リーシャは魔力切れをしたところを襲われた。


 俺は即座に火の玉の魔法――ファイヤーボールを放つ。


「グギャアアアアッ!?」

「グォオオオオオッ!?」


 二体のモンスターは炎に包まれ、一瞬で消し炭になった。


 どうやらギリギリ間に合ったみたいだな。


「いったいなんなんだ!? まだ魔法が使える子どもがいたのか!?」


 突然の俺の登場に、守護者は驚愕して固まってしまった。


「トール!!」

「トール」


 リーシャとレイナが俺に駆け寄ってギュウギュウと抱き着いてくる。


 二人に抱き着かれながらも襲い掛かってくるモンスターを焼いた。


「やっぱりぶじだった」

「トールならとうぜん」

「ほらほらっ、戦闘中なんだから後にして」


 二人は俺が無事だとは思いつつも、なんだかんだ心配してくれたようだ。それに不安だったのだろう。


 二人を宥めながらの背中をポンポンと叩く。


 モンスターはまだ残っている。感動の再会をしている場合じゃない。


『はーい』


 俺は次々とモンスターを燃やしていく。あっという間にその数を減らしていった。


 そして、俺が加わったことで戦闘はあっさりと終えた。


「トール……!!」

「うわっぷ」


 ママンが俺の顔を見るなり近づいてきてギュッと抱きしめた。布が落ちて土人形が見えてしまいそうになったので消しておく。


 俺はあくまで元々ここにいたていだからな。


 ママンの豊満な胸に埋もれて窒息しそうだ。


「大丈夫? けがはない?」


 ママンが俺の顔を挟み、目線を合わせる。


 俺は力こぶを作ってどこにも怪我がないことをアピール。


「うん、大丈夫だよ」

「はぁっ、本当に良かったわ……」


 ママンは俺から体を離してへたり込み、ホッと安堵の表情を浮かべた。


 目の端には玉のような涙が浮かんでいる。


 心配をかけて申し訳ない気持ちでいっぱいだ。でも、そうしなかったらかなりヤバい状況だったので許してほしい。


「トール、そとは?」

「もう大丈夫」

「そう、よかったぁ」


 リーシャは感知がそんなに得意じゃないから外の状況が分からなかったのだろう。大丈夫だと分かって安心していた。


「えぇ!? いったい何がどうなってんだよ!? わけが分からない!!」


 側にいた守護者が百面相をしていたけど、気を取り直して村民たちは地下のシェルターに移動し、モンスターが完全に殲滅されるまでそこで過ごすことに。


 俺は家族と外での出来事について話をした。


 そして、しばらくしてモンスターの襲撃は終息。


「君たちかね、魔法が使える子どもというのは……」


 村が落ち着いた頃、俺とリーシャとレイナの三人は、イーデクス様の前に立っていた。

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