第9話はじめの一歩

「よし」

「じゃあ、出発するよ」

「うん。楽しみだねえ」

「はい、しゅっぱぁーつ!」

「なんだ?その声は」

シーニーは間抜けな声を出し、玄関の扉を開ける。そこにあるのは、いつも見ている風景だ。右側には青い海、左側には十軒じっけんほどの家。すべて、この村の住民のものだ。

「この村も、ちょっとばかし留守にすることになるな。」

「ちょっとで済ますな」

「いや実際ちょっとだからしょうがねえだろ」

「お前の時間感覚じかんかんかくは一生理解できん」

「俺だって人間の血が多い奴のことはわからん」

「うちもわかんないよお。」

「なにが?」

「二人が何の話してるのかがねえ」

(何もわかっとらんな!)

本当に何も理解していない。まあ、チョウラは場の雰囲気ふんいきなごますのがうまいので、喧嘩したときに約三十秒で止めてくれるのは感謝しかない。ただし空気が読めない、というおまけ付きだが。

「ねえねえ、何の話してたのお?」

「人間似の耳隠しのエルフのことはわからんって話」

「人間似の耳隠しのエルフって、長い名前だねえ」

(名前じゃねえ!)

「声出てんぞ」

「あー。うん。聞かなかったことにしといて、うん。」

「わかったよお!」

(お前じゃねえ!)

今のはホワスに向かって言ったんだが、もうなんかどうでもいい気がしてきた。早めにあきらめといた方が、絶対楽だ。

「で、こっからはまずは南に行くんだよな?」

「うん。あとついでに、買い出しもしないと。食糧ゼロのまま行くのは無理でしょ」

「どこで買うんだ?」

「隣の町」

「ちょっと遠くないか?この村じゃダメなのかよ」

(この村、、、、、)

この村と言われても、ここにあるのは十軒の家のみだ。

「なんか不機嫌な小父おじさんとことか、金払えばくれるだろ。野菜くらいなら」

「そう上手くいくもんかねえ」

「とにかく行こうよお。日が暮れちゃうよお。」

「まだ午前十時な」

「隣町行くよ。それに、ちょっとなら食べ物はあるでしょ」

「、、、わかった」

「ん」

 隣町はなかなか遠いが、まあ一日あれば着く。今の手持ちの食糧で何とかなるだろう。 それに、不機嫌な小父さんは先日チョウラがブチギレさせたばかりなので話すのは気が引ける。「野菜をもらいたい」なんて言ったら、まあ怖い怖い。

「じゃあ、まず一番目の目的地は隣町ってことで、行くよ」

そういって、隣町に向かって歩き出した。

              ◇◆◇◆◇◆◇

「疲れた。眠い。」

「寝たら?」

「寝る」

「「、、、、、、、、、、。」」

「寝てないじゃん」

「じろじろ見られてる中で寝れるか!」

邪魔じゃま!どけ!)

本音ほんねは心の中にとどめておくのが、ホワスだ。本人の目の前で言う訳がない。今言ったらシーニーに耳根みみねっこつかまれて痛い目に合う。

 というのが本音だ。

「ま、無事ついてよかったわ」

「そうだな」

 あの後はいろいろあった。出発してしばらくはよかったが、どうにも天気が悪かったらしく、山の近くの道が土砂崩れでとても通れる道ではなかった。故に、超遠回りをした。その結果がこれだ。

「まさか着くのが夜中になるなんて、面白いね」

「どこがだよ。ただ遠回りになっただけだろ。疲れるだけ」

「はいはい、もう寝な。私とチョウラ右の部屋だから。」

「ん」

シーニーは一瞬窓の方を見て、そのまま出て行ってしまった。

(なんで振り向いたんだ?)

そう思って窓の方を見たが、当然ながら何もない。人なんているわけがない。ここは宿屋の三階だ。幽霊とかは信じないたちなので、気にせず寝た。

 この理由を知ったのは、一週間後だった。


「ねえねえ、あそこ行こおよお。」

そういいながらチョウラがさしたところは、なぜか鳥がむらがっているところだった。

「ええ?寄り道するの?」

「いいけど無駄な労力使いたくないぞ。」

「あそこに一匹だけ色の違う鳥さんがいるんだよお」

「色の違う鳥?」

「うん。ほら!」

指のされた先にあるのは一見ただのからすだが、よく見るとその首元に何か機械のようなものがついている。その機械はカラスの色に合わせて漆黒しっこくに塗りつぶされていた。なお、何の機械かはわからない。

「ん、、、あれ、烏の足に文様もんようがついてないか?」

「いわれてみればそうかもしれない、、、、ん?あれってさ、カロスさんの首についてた文様もんようじゃない?」

「よくそこ見てたな!」

「人間観察しちゃうタイプなんだよね」

「、、、、、なるほど?」

(捕まえればなんかわかるかもしれないな)

と思っていたが。

「?こっち来た」

「は?、、、、って、うわ!なんで俺んとこくるんだこいつ」

「一番乗りやすかったんじゃない?背低いし」

「なんだよそれ!」

実に失礼なことを言ってくれる。しょうがないじゃないか、てか、背が低いのは関係がないだろう。

「二人ともお。鳥さんの鞄に手紙が入ってたよお」

「鞄?手紙?ちょっと、読んでみて」

「読めないよお」

「貸せ」

半ば強引にチョウラから手紙を受け取った。

 手紙にはこう書いてあった。

-- -・--・ ---・・ --・-・・・ 

・-- ・・-・・・・ ・・-- ・・- ・・・

モールス信号というやつだ。そして当然これを読めというのは、

「無理だわ!」

「なんて書いてあったのお」

「見せて」

「ほい」

そう言ってシーニーに渡した。シーニーも一瞬しかめっ面をした後、机をトントン叩き始めた。

「モールス信号だね、これ」

「そうっぽいな。読めるか?」

「えーっとね、たぶん行ける。待ってね。、、、、、、、、、、、」

色々つぶやき始めた。

「わかった」

「マジか。なんて書いてあったんだ」

「よ る 8 じ 

や ど の う ら」

「夜八時に宿の裏?そこに来いってことか。」

「多分ね。行こ」

「宿の裏だから、外出なきゃだよな。宿主が間謀スパイだったりしないか」

 ホワスは心配性というか、慎重というか、疑り深いというか、まあとにかくそんなところがある。これは、自分でもわかっている。だが性格はなかなか変えられないわけで、時折こんな吹っ飛んだことを言い出す。

「そんなこと心配してても始まらん」

「ホワスは疑り深いねえ」

「なんだよ二人そろって」

 なぜこんな時だけこんなことになるのだろう。なんかさっきからシーニーにいじられまくっている気がしてやまない。そして何より、チョウラが理解していたというのは理解できない。しかも、正確にその言葉を扱っている。本当に、理解不能である。


「お前らは馬鹿か?それとも馬か?鹿か?」

 約束の『宿の裏』にいたのは二十歳くらいの、ひとみは青く、青い髪を高い所で団子にしている人だった。そして会って早々、出てきたのは、お叱りの言葉である。早すぎて、何のことに怒っているのかすらわからない。とにかくホワスは馬でも鹿でもなく、耳隠しのエルフとトラである。馬ではなく耳隠しのエルフ、鹿ではなくトラだ。そこだけは訂正しておく。

貴方あなたは一体誰ですか。何処どこから何の為にどの様な事をしにここへやって来ましたか」

シーニーが冷静に滅茶苦茶めちゃくちゃ棒読みの敬語で質問をした。

「馬でいいか?」

「早く質問に答えて下さい」

「馬なら用済みだ」

「いいから答えて下さい」

「鹿でも用済みだがな」

「そういうの良いですから」

「馬鹿でも用済みだ」

「殴りますよ?」

会話が全くかみ合っていない。ついでに、シーニーと誰かさんの間にくっきりはっきり火花が見える。どうも幻覚には見えない。なお、誰かさんの殺気はホワスとチョウラにも向いているので、他人事ではない。無いには無いが、

「馬鹿と馬と鹿の質問に答えても何にもなんねぇな」

「馬鹿と馬と鹿しか言わない人も何にもなりません」

(滅茶苦茶しょうもないことで喧嘩してんなぁ)

 あくまで態度は他人事である。ほぼ第三者だ。だが、こんな感じのホワスとは裏腹に、チョウラはそわそわしていた。何と言うか、好奇心に満ち溢れている感じがする。そして、

「ねえねえ二人ともお。喧嘩しないでよお。」

「「、、、、、、、、、、、。」」

綺麗に喧嘩を止めた。あっぱれである。ついでに止められた当人たちは、仲良く沈黙している。やっと我に返ったようだ。はて、という顔ををしている。

「、、、、、、、分かった。要件を話そう」

(ここ?)

意外にもあっさり話を始めた。

「今、人探しをしているんだ。俺と    、あと、     と一緒に探しているんだがな。どうにも見つからんもんで、になっちまった。という訳で、この辺を探してほしいんだ。ああ後、」

そういいながら目を伏せてこう言った。

「一週間前、俺はお前らと会っているからな。宿

ホワスはとりあえず、一週間前シーニーが見たものはこの人だと思うことにした。

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