エルフ✖️魂

@nikora2013

第1話 序話

(あーやだ)

 木漏こもれれ日の照りつける質素しっそな部屋のソファーで目の前にいる女の話を聞きながら、シーニーはそう思った。その『目の前にいる女』は、そんなシーニーのことも気にせずうすっぺらい笑みを浮かべながら淡々たんたんと話をすすめる。

いや態度たいどだ。

シーニーは、この女のことを『クソぎつね女』と言っている。こう言っている理由は、色々ある。

(見るだけでイライラする)

 そもそもシーニーは、隣にいる二人と一緒にクソぎつね女に耳隠みみがくしのエルフとして集められた三人の内の一人。エルフ自体珍めずらしいから、耳隠みみがくしのエルフなんてすごく珍しい。

(多分それもあって私たちが集められたんだと思うけど)

でも、集めといて色々やらせるのは気に入らない。クソぎつね女にクソをつけるのもそれが理由だ。やらなかったら名前をそのまま言うか、きつね女と言うか、だっただろう。

 ちなみに名前はルーラ・フォックスらしいが口にはしたくない。

シーニーがそんな事を考えていた時、クソぎつね女からすごい言葉が発された。

「それで、魂石たましいせきを、ヒルアスへ持って来て欲しいの。」

 その言葉を聞いた瞬間しゅんかん、シーニーは机を叩きそうになる。と同時に、右隣にいるホワスがすごい声を出した。

何と言っているかは分からなかったが、シーニーにはとにかくすごい声に聞こえた。  ついでに左隣にいるチョウラがドン引きしている。大体温厚で通されているホワスがあんな声を出したのだから、無理もない。

そしてそのすごい声を出した本人と言えば、「何言ってんだ無理に決まってる」という目をクソぎつね女へ向けていた。

 周りの目線は気にしていないようだ。

まあでも、しょうがない。魂石たましいせきは、この国で最も希少きしょう鉱物こうぶつなのだから。そんなものを持って来いだなんて、いくら何でも無理がある。

 その後、さっきの言葉に追い打ちをかけるようにクソぎつね女が言う。

「出来れば10から20年くらいでやって欲しいわ。」

凛としてかつずっしりとした声ですごいことを言ってのけた。

シーニーは、心の中でこう思った。(いやいや、もっと無理!10年とか、マジで無理やって)

今度はシーニーも「何言ってんだ無理に決まってる」という目をクソぎつね女に向けた。

 その隣でただ一人、チョウラだけは好奇心溢こうきしんあふれる目を向けていた。このカラフルな羽を付けたツインテールの人は理解力が低すぎる。というか地理とかまるで頭に入っていない。

チョウラはシーニーより200歳くらい年上なのに、一緒に暮らしていると妹に見えてくる。年上なのに。

後で地図を見せて説明してあげよう。そうすれば分かるだろう。いかに無理な依頼いらいをされたかが。そんなことを考えた後、クソぎつね女を見ると、

「そうね、報酬ほうしゅうはこれくらいでどうかしら。」

 クソぎつね女が、いきなり言い出す。いきなりすぎると思いながらクソぎつね女を見る。その手元には、何百万単位なんびゃんまんたんいもの金が置かれていた。

(こんな大金が渡せるなら魂石くらい手に入るだろ)

心の中で出てきた言葉はこれである。クソぎつね女の耳が動いた気がしたので、思わず口をふさいだ。変な目で見られてしまった。

そして思う。(うちらは何でも屋じゃないっつーの)

「だから報酬を渡すのよ」

考えていたことが口に出ていたのか、普通に答えられてしまった。

だが、いろいろ言われなかったことには拍手しよう。今まで心の声が出るたびにいろいろ言われていたのだから、今回何も言われなかったのは素晴らしい。

そして、クソぎつね女が続けていった。

「いい返事をまっているわ。また三日後によろしくね。」

有無うむを言わせないというのはこのことであろうか。何も言い返せない。

「あっそうそう、旅費は出せないけど、必要なものは用意してあるわ。」

言うだけ言うと、クソぎつね女は部屋を出て行った。

 行く前提ぜんていで言われているなと思いながら、シーニーはため息をついた。














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る