第10話

「…それで、そのままここまで戻ってきちゃったの?」

「うん……」

「ええーーーアリッサヘタレすぎだよーーー」

「うるさいうるさい!あんなの初めてでびっくりしちゃったんだから仕方ないじゃん!」


ノーレッドとのダンスを1回経験しただけで、完全に心をかき乱されてしまったアリッサ。

彼女はノーレッドと別れた直後、自分を送り迎えしてくれるフルデントのところまで急いで駆け戻り、今すぐに自分の家まで送ってもらえないかと頼み込んだ。

まだ舞踏会は途中であったため、最後まで楽しんできてはどうかと説得を図るフルデントだったものの、アリッサは家にいる動物たちにご飯を上げないといけない時間だからと言い、最終的にフルデントを説き伏せた。


そうして自分の家まで戻ってきたアリッサはたった今、外の空気を感じられるテラスのイスに腰かけ、ルアンとともに夜風に当たりながら会話を行っているのだった。

ちなみにルアンはアリッサの膝の上で丸くなって半分眠っているため、今アリッサの話の相手をしているのは、アライグマのような見た目をしているエリスである。


「いい雰囲気だったのに帰るなんてもったいないなーい。もしかしたらどこかのすごーく偉い人だったかもしれないのにー」

「エ、エリスってなんだか現実的だよね…。さすが女の子…」

「ねーねー、相手の人ってどんな人だったのー?かっこよかったー?」

「さぁ…。会場はうす暗い雰囲気だったし、仮面であんまり顔は見えないし…。そもそも、相手がどこの誰かなんてこともさっぱり分からないから…」

「えー!つーまーんなーい!」

バシッ!

「こ、こらっ!」


アリッサの言葉を聞いたエリスは、自身の尻尾を彼女の左腕に軽く打ち付け、駄々をこねる気持ちをアピールする。

…しかし、アリッサの言葉も仕方のないものではあった。

彼女とて、まさか自分が仮面舞踏会でたった一人ダンスをした相手が、この国中の女性からの注目を集め、女性が大の苦手であるノーレッド第一王子であったなどとは、夢にも思っていなかったのだから…。


「だめでしょエリス!」

「むぅぅー」

「なんだようるさいなぁ…。人がせっかくのんびり寝てたっていうのに…」


二人の会話によって眠りを解かれたルアンは、普段と変わらぬけだるそうな口調でこう言葉を続ける。


「別にどうでもいいじゃないの…。物事は深く考えずに、適当にやり過ごすのが一番だと思うよぉ…」

「もーー!あんたはいっつもそんな感じなんだから!よくそれで自然界で生きていけるよね!」

「なんだよエリス、今日はやけにイライラしてるな…。なにか気に入らない事でもあったのか?」

「あるよ!!今!!目の前で!!」


エリスはルアンに対して大きな声でそう言葉を返すと、今度はアリッサに向けて抗議の声を上げ始める。


「ずーーっと膝の上にいるのルアンじゃん!!そろそろ変わってよ!アリッサもいつまでルアンの言う事聞いてるの!!」

「え、えっと…。ルアン、変わってもいい?」

「zzz…」

「!!!!!!」


エリスの言葉に答えることなく、再び体を丸くして眠りにつく準備を取り始めるルアン。

そんな彼に対し、エリスはいよいよ実力行使に出ることとした。


「それならその上から乗ってやるわ!どうせ寝てるんなら関係ないもんね!」

ドスッ!!!

「ごはぁっ!!!」


エリスは宣告通り、その体をハイジャンプさせてアリッサの膝の上、さらに言えばルアンの体の上に自らの体を着地させる。

二人の体に挟まれる形となったルアンは苦悶くもんの声をあげたものの、相変わらずその場を譲る様子は見せない。


「もう十分でしょ!!次にそこに座るのは私なんだから!」

「ま、まだ交代の時間じゃないだろうが!どけどけどけ!」

「ちょ、ちょっと二人とも!あんまり暴れたら毛が!!毛がすっごく散ってくるから!!」


アリッサの制止の声などどこ吹く風、二人は彼女の膝の上をリングとし、熱いキャットファイトを繰り広げ始めるのだった…。


――――


「(はぁ…。やっと静かになった…)」


それからしばらくの時間が経過し、戦いが終戦を迎えた時、二人は結局仲良く一緒にアリッサの膝の上で横になり、安心したような表情で眠りについていた。

とはいっても、その場所はそれほど広い場所ではないため、アリッサが二人の体を両手で支えることで二人が安定して眠りにつく体制が維持されているのみであり、彼女が手を離したら二人とも膝の上から落ちてしまう状況だった。

が、二人はアリッサの事を完全に信頼しているようで、どこか甘えているような雰囲気を醸し出していた。


「(さて…。私はいつまでこうしていればいいんだろうか…)」


心地よさそうに眠る二人の表情を見つめながら、やれやれといった表情を浮かべるアリッサ。

彼女の両足が自由を取り戻せるまでには、もう少し時間がかかりそうだった。

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