第3話
――その時、天界での出来事――
「え??私死んじゃったんですか??」
「いかにも。まぁ実感もあまりないだろうがね」
気づいた時、私は雲の上のような不思議な空間にいた。
そこには私以外にもう一人、仙人のような人がいて、机を挟んで私の向かい側に座っている。
一応この世界の神様、らしい…。
自分で言っているだけだから、本当かどうかなんて私には分からないけれど…。
「(えっと…。私、なにしてたんだっけ…?)」
自分がついさっきまで何をしていたのか、あまり思い出せない…。
確か、高校に行くまでのいつも通りの道を走ってた気がするんだけれど…。
「思い出せないのも無理はないさ。君は高校に行く途中の道で、背後から通り魔に襲われてしまったんだ」
「と、通り魔…?」
私とは無縁だとばかり思っていたその単語が告げられ、私は少し自分の中に驚きを隠せない。
「女子高生ばかり狙うろくでもない男でなぁ。背後から刃物を突き立てて心臓を一突きで死なせて、その快感に打ちひしがれているようじゃった」
「なにそれ。ほんと、ろくでもないですね…」
「??」
私の言葉を聞いた神様は、その頭上に?マークを浮かべて見せる。
「不思議じゃな…。そんなことをされたら普通、そいつの事が憎たらしいとか、悔しくてたまらないとかいう感情が出てくるものなのだが…。君はなにか違うことを思っているようだ」
「…分かります?」
そう、神様の言った通り、私は別にあの人生にこだわりはあまり感じていなかった。
私の両親は二人とも、私が知る限り本当にひどい人間だった。
父親は女遊びに借金を繰り返し、気に入らないことがあれば私を殴りつける毎日。
母親もそんな父から私をかばうことはなく、それどころか自分だけ逃げるように外に何人も男を作って遊び明かし、母親らしいところを見せたところなんて一度もなかった。
結局私は知り合いのお店で仕事をさせてもらいながらバイトをして、そのお金で学校に通う毎日だった。
…正直、そんな人生が終わったことに憎しみや悲しみを感じろと言われても、そっちの方が無理な話だった。
「君はいろいろと苦労してきたようだな…。実はこうして私が直接出向いてきたのは、君と今後の相談をしようと思ったためだよ」
「そ、相談…?」
「そう。来世の事についてのね」
来世……漫画やドラマの中でしか見てこなかったけれど、まさか自分がその立場になるだなんて…。
「何か希望は?」
「え、えっと…」
「どこかのお姫様に生まれたい?王子様と結婚して幸せになる人生はどう?」
「いや、過去に色々とあったので、あまり人と関わらないほうがいいかな…」
「なるほど…。とすると……自然に囲まれて悠々自適なスローライフを送るとか?」
「そうですね、そういうのがいいかな…」
「そ、そう?それじゃあ……こんなのはどう?」
神様はそう言いながら、私の前に一枚の紙を差し出した。
「転生はどうかな?君の体や記憶をそのまま引き継いで、全く別の場所で生きていくっていうのは」
「転生?」
「転生なら新しい親も存在しないし、一人だけでも生きていける。そして君が転生するにあたって、自然界の中でも一人でのんびり生きているように、『豊穣の加護』をプレゼントしようと思う」
「豊穣の加護?」
全く聞きなれないその言葉に、私の頭の中は少しこんがらがってくる。
「豊穣の加護を受けていれば、動物や植物と会話ができたり、あとはお金の周りが良くなったりする。君は別に人やモンスターと戦うわけじゃないから、君にピッタリの能力だと思うよ?」
「動物たちと会話…!」
可愛らしい動物たちと会話ができるなんて、まるで夢みたいな能力…。
私はそこに大きな魅力を感じ、神様が提示してくれた案を即決することにした。
「そ、それじゃあそれで…!」
「よし、決まりだ!君からすれば異世界だけれど、言葉は通じるから心配はいらないよ。君はその若さで、人一倍の苦労と絶望を味わったんだ。これからはのんびり、まったり、君らしく自由に生きていけばいい」
「は、はい!ありがとうございます!」
「それじゃあ、君の幸運を」
神様の発したその言葉とともに、私の体はまばゆい光に囲まれていき、最後には目を開けていられないほどの光に包まれながら、私は体から意識を手放したのだった。
――――
「ここが、私の第二の人生の場所…」
次に気が付いた時、私は綺麗なお花畑の真ん中にいた。
その場には私以外には誰もおらず、ただただ静かで心地よい風が肌に感じられる。
一面に広がるカラフルなお花たちの姿は、前の人生で見たどんな綺麗な景色や遊園地にも負けないほどに、私の心を躍らせてくれる。
そしてそれだけでなく、その周囲には綺麗な木の実や果実がなっており、なんだか絵本の中の世界に入り込んだかのような光景が広がっていた。
…残念なのは、まだかわいい動物たちがどこにもいないこと。
でもそれはこれからのお楽しみだと思うことにする。
「…よし、がんばるぞ!」
私は前世も含めて、生まれて初めてそんなことを思ったかもしれなかった。
この場でまったり自由に生きていくことを決意し、この世界における最初の一歩を踏み出したのだった。
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