第21話 真冬の出会い
帰りも行きと同様、数多くのセキュリティを越えなければ外へは出られない。ただひたすらボタンを押しまくる面倒な作業だ。
公共交通機関の時間遅延よりも悪質な遅延といえるだろう。
「さむ…」
やっとの思いで外へ出ると、突然寒風に襲われる。4月下旬とはいえ夜はまだまだ寒い。冬と勘違いしてしまいそうな冷たい風が翔雲の鳥肌を立たせる。
一瞬で冷えた手に息を当てて温めていると、背後から突然マフラーを首に巻かれた。
何事かと思い振り向くと、そこには人がいなかった。いや正確にいうと人はいた。だが見えなかった。
「え?」
「あっ、す、すすす、すみません!つい!」
するととても小さな女の子が翔雲にマフラーを一生懸命巻いているのが見えた。
寒いからか、雪のように白い肌が若干赤くなっており、暗い群青色の髪は腰あたりまで伸びている。ボサボサの癖っ毛だらけでまともに手入れをしていないようだ。
幼い印象が受けられるくりっとした大きな目には翔雲の顔がいっぱいに映っており、翔雲もその美しいサファイアのような瞳を見つめていた。
「………迷子か?」
「ち、違います!迷子じゃなくて、そのマンションに住んでる者です!」
「あー……ここの子か……ぅ」
先程翔雲が出てきたマンションを指差して必死な様子で変な誤解を解こうとする少女。
見た目だけで判断すれば小学5年生か4年生辺りだろうか、それでも顔立ちは中学生と言われてもおかしくはない美貌だ。
「でももう夜だよな……なんで一人でマンションの外にいるんだ?お母さんとかお父さんは一緒じゃないのか?」
「こ、子供扱いしないでください!これでも私、高校生ですよ!」
「え」
翔雲は固まってしまった。親睦会の集合時間をとっくに過ぎていることなんて考えもせずに、ただひたすら驚愕の事実も前に固まってしまった。
「こ、高校生?嘘だろ」
「嘘じゃありません!」
「小学生かと……まさか2年生だったりしないよな?」
「1年生です。今年から」
「流石に1年生か……ってか同い年かよ。この身なりで」
「え、ちょ、ちょっと待ってください!まさかあなたも高校1年生、ですか!?」
「え?うん。そうだよ」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!!??」
少女は驚いてその場に尻もちついてしまった。あまりのオーバーリアクションに芸人味を感じる。
「逆に何年生に見えた?」
「大学2年生ほどに見えてました」
「身長だけで人を判断するなっ」
「お互い様です」
翔雲はいつまでも尻もちついて立たない少女の両脇を掴んでひょいっと持ち上げ立たせてあげる。
少女は少し気恥ずかしそうに赤い頬を膨らませた。
「で、なんで俺にマフラーを?」
「あ、それは本当にすみませんでした。私、弟が二人いて、二人とも私より身長が高いんですけど、すっごく甘えん坊さんなんですよ。だから寒そうにしていたあなたを見ていたらなんだかいつの間にかマフラーを巻いてあげたくなっちゃってて…」
こんな小さい子に甘える弟たちも大概だが、この少女はかなり母性溢れるタイプの子なのだろう。
「なるほどな。でも俺がこれ巻いてたら寒いだろ?返すよ」
「あ、いえ良かったらそれ使ってください」
「え?」
「私の家、もうすぐそこですし、あなた凄く寒そうにしてたから」
「いやでも…」
「いいですから!ね?」
マフラーを解こうとすると少女は頑張って背伸びして翔雲の手を押さえながら解くのを止める。
少し力を入れて解こうとすれば簡単に解けるが、頑張って翔雲の手を押さえている彼女を見ているとそんな強引なことしようという気持ちには到底なれなかった。
「………分かった。でも必ず返すから、名前教えてくれないか?」
「私のですか?
「氷川……覚えた。俺は柊翔雲。 高校は?ここら辺に住んでるなら俺と同じ浜海高校か?」
「はい、1年B組です」
「隣のクラスじゃん……明日返すわ。ありがと」
「はい!また明日会いましょう」
そう言って翔雲は巻いてもらった青色のマフラーで顔の半分を覆って焼肉屋へと向かった。
笑顔で手を振りながら別れを告げる氷依だが、後に明日返ってきたマフラーが煙臭いことになるとは考えもしなかった。
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