第20話 クララ・メフィと血に塗れた純愛
胡桃の家から例の毒薬を入手した翔雲は一旦自身の家に帰ろうとしたが、クララがそれを許さなかった。
「あの」
「何でしょうお客様」
「俺今、何させられてるんすか」
「何、とはどういう意味でしょうかお客様。そのままの事をさせているだけですよ」
「あ、はいそうですか」
翔雲は大きな段ボールを部屋から部屋へと移動させていた。
どうやら引越しの荷物を移動させる手伝いを半強制的にやらされているらしい。
鍛えている翔雲からしたらあまり重いとは感じないが、やりたくもないような事をやらされている時の子供のようなやさぐれた顔をしている。
「そう嫌な顔をしないでくださいお客様。有沙様のためだと考慮すればこんな荷物すぐに片付けれますよ」
「あなたは俺を何だと思っているんすか」
「そ、それは……あ、有沙様の……ぅぅ」
クララはまた顔を紅くしながらごもる。変な勘違いをされていて良い迷惑だ。
「私から言わせないでください!」
「はいはいすみません」
本来であれば翔雲にとってクララは殺しの対象に入っているはずだ。賞金がかかっていないとはいえ組織dirtyの一員であり犯罪に手を加えている共犯者的な扱いに相当する。
殺せばお金はもらえなくとも何か利益となって帰ってくる可能性が高い。
しかし翔雲は手を出さない状況にある。
それは胡桃有沙がすぐそこにいるからではない。クララと翔雲には圧倒的とはいわないがかなりの実力差があるからだ。
翔雲も賞金稼ぎの間では中の上くらいの実力はある。自分よりも格上か格下かなんて見れば分かるのだ。
もし仮に翔雲がこの場でお得意のカラムビット奇襲を仕掛けても容易にかわされるだろう。
「よし、こっちは全部運び終わりましたよ」
「分かりました。ありがとうございます」
翔雲は任された場所にあった荷物を運び終え、リビングにあるドデカいソファーで一息つく。
ふと隣に目を向けるとそこにもう一つ段ボールが置いてあるのを見つけた。
「こんなところにまで段ボールが…一応運ぶか」
その段ボールを手に持った瞬間、圧倒的に他の段ボールと比べて明らかに違う点が存在した。
「なんだこれ…軽。こんなに軽いのになんで段ボールに詰めてるんだ…?」
翔雲は不思議に思い、段ボールを一度床に置いて中身を確認しようとした。その時だった。
「なっ!よせ!その段ボールを開けるな〜!!」
「え、あ」
前方からクララが叫び向かってきたが、時すでに遅し。翔雲は段ボールを開けて中身を拝見してしまった。
その段ボールにはかなり際どい下着やら衣装が入っていた。
「………………え」
目を丸くする、こともできないほどに驚いてしまうレベルの際どい衣装。着ているのが、着ていないようなものと言える、それほどまでに上級者向けな服。
明らかに痴女が着るような服を硬直状態で見ていると、クララが胡桃のような速さで迫り、翔雲から段ボールを取り上げた。
「………み、みみみ、見ましたか…」
「………………………ミテナイヨ」
「見ましたよね!?う、うわああああ!!」
真っ白な肌を茹でタコ並みに真っ赤にして足をジタバタさせ恥ずかしがるクララ。
翔雲は興奮なんてせずに何故か萎えてしまった。
完璧に見える女性の際どいものを勝手に見て勝手に萎える。
なんて最低な男ムーブをしているのだろう。
「ぅぅ……ぅぇぇ……グスンッ」
さらに泣かせてしまった。
「いや、そのごめんなさい。あまりにも軽い段ボールだから中身が気になってしまって……。それで、あの〜」
「…………なに」
「なんであんなどエロい衣装をお持ちになっているんですか?」
「……っっっ!!??うるさいうるさい死ね死ね死ね死ね〜〜!!!!!!」
過去一の痛み。一瞬で意識が飛ぶビンタ。何日残るのか分からない跡。
かなりの威力でビンタされた翔雲はそのまま意識を失い眠ってしまった。
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「……ん」
「あ、起きた」
目が覚めると、知らない天井ではなく、知っている顔が視界いっぱいに映っていた。
美しい深紅の瞳に魅了され、少しの間フリーズする。
ふと窓に目を向けると空は真っ暗になっており、時間がかなり経過したことと、反射で今、自分が膝枕されていることを認知する。
「……どれくらい寝てた?」
「んー、2時間半くらい?」
「そうか。起きるから、顔どけてくれ」
「ちょっと待って」
翔雲が身体を起こそうとすると、胡桃は翔雲の両頬を押さえて固定させる。
それから2秒ほどだろうか、見つめ合った後、唇に何か柔らかい感触が得られた。
目を開けば目を閉じている胡桃の顔がゼロ距離で見える。
どんどん身体が熱くなってきた。なんだか下半身がムズムズするし、無性に動く気が失せてくる。
何秒経ったか分からないうちに、胡桃の顔がようやく離れていった。
起きても良いと思った翔雲は今度こそ身体を起こす。
「………今何した」
「ちゅうした」
「そうか………」
「嫌…だった?」
「全然。むしろ最高だった。溜まってた疲れが取れたような気がする」
「………そう」
今になって自分がしたことが恥ずかしくなってきたのか、胡桃はそっぽ向いてしまった。翔雲に対して背中を向けるが、耳が赤いのでとても照れていることがよく分かる。
「ここはどの部屋だ?」
「私の部屋だよ。引っ越してきたばっかだから、荷物少なくて殺風景だけどね」
ふと翔雲は思い出した。気絶する前、クララのかなり際どい下着や衣装を見たことを。そして強烈なビンタを食らったことを。
「そういえばクララのアレ、見たんでしょ?翔くん」
「んえ?あぁ、別にわざとじゃないぞ?知らなかったんだよ」
「分かってるよそんな事。私のダーリンが色んな女性に興奮するわけないでしょ?クララが何であんな下着とか持ってるかっていうとね、一言でいえばあの子、コスプレイヤーなんだよ」
「コスプレイヤー?」
「そう。クララは元々日本のアニメ文化が大好きで、その中でも特にエロアニメ系が好きだから、あーゆー衣装とか下着が多いんだ〜」
「そういうことだったのか……じゃあ、エロ方面に敏感なのもまさか」
「そういう系のアニメが好きだから、ってこと。別に悪いことじゃないと思うし、なんやかんやSNSでバズってるみたいだから、私は全然良いと思うけどね〜。あの子は恥ずかしいみたい。思いっきりビンタしちゃったこと、反省してたよ」
「別に怒ってないけど…」
クララ・メフィ。あっち系のアニメ好き。金髪ブロンドヘアーで青い瞳の彼女は様々なキャラクターや人物に変装することが可能。持ち前のコスプレ技術で殺人のサポートもできる。
「よくできた使用人だな」
「そうでしょ〜」
一息ついてふと時計を見ると、時刻はすでに19時を回っていた。
「………あ、やべ。胡桃、俺もう行くわ」
「うん、また明日ね〜!」
「おう」
翔雲は急いで荷物をまとめて胡桃の家を去った。
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