第18話 最高幹部の家へ

「柊くん!」


「ん、何?」


放課後の時間が訪れると同時に隣の席の清楚ギャルが話しかけてきた。


「言うの忘れてたんだけど、この前誘ったクラス親睦会中止になったんだよね」


「そうなのか。じゃあ親睦会はまだ開いてないと?」


「うん。それで、今日の夜駅前の焼肉屋さんで開くことになったんだけど、今日は大丈夫?」


「あぁ。今日は特に予定はないから大丈夫だ」


「やったー!じゃあ、19時に駅前の焼肉"残飯肉食"に集合ね。忘れないでね〜」


「分かった」


どうやら1週間ほど前に行われる予定だった親睦会は中止になっていたらしい。何があっての中止だったのか分からないが、翔雲にとってはちょっとしたラッキーだ。


「翔くーん!一緒に帰ろー!」


相変わらず胡桃は廊下から教室に顔を出して翔雲を誘う。やれやれといった顔をしながら荷物を持って翔雲は胡桃と共に帰路についた。


「それでねそれでね、その時私は睡眠薬を飲まされてたのにも関わらず、翔くんよりも数段デカい大熊と戦わされてさぁ!もちろん勝ったけどその後私すぐ寝ちゃって〜」


「19時からか……ギリ間に合うかな」


「………話聞いてる?」


帰り道、翔雲はちょっとした考え事をしていた。話を聞いていなかったことに気づいた胡桃は少し不満気な表情を浮かべる。


「19時に何があるの?」


「クラスの親睦会がある。せっかくだから行きたいが、その前に病院にも寄りたいんだ」


「なんで病院?」


「いや、前阿澄に負わされた太ももと肩の傷がまだ痛むんだよ」


阿澄との戦闘中、容赦なく放たれた銃弾は翔雲の太ももと肩にヒットしていたため、翔雲の太ももと肩はまだ傷跡がしっかり残っている。上から応急処置を施しただけで、病院に行く必要がある。


「なるほどね〜。まぁガッツリぶち込まれたもんね。でもさ、翔くん。病院に行っても、結局私が翔くんにやってあげたような応急処置しかされないよ?」


「まぁ、そうかもな」


病院に行ったから治る、なんて考えは捨てた方が良い。何か怪我を負った場合、それがどんな怪我かによるが、基本的には自己治癒に任せるしかないのだ。


病院は自己治癒期間にやっていい事と悪い事を教え、傷が空気に触れないよう処置を施すだけ。病院に行くことによって傷が治るなんて思わない方がいい。


だからって病院に行かなくてもいい理由にはならないが。


「そんな翔くんには私のとっておきの薬をあげまーす!」


「え、薬?」


「そう、薬。いってしまえば、一種の毒薬」


「毒薬かよ。いらんいらん」


「えぇ!?毒薬だよ!?最初のうちは死ぬほど苦しい思いするかもしれないけど、飲めば飲むほど身体がそれに順応して、免疫力が超上がって身体の治癒能力が底上げされる素晴らしい毒薬だよ?」


「それ、例のお前が幼少期の時に飲まされまくったやつか?」


「うん。なんなら今も毎食前に飲んでるよ。身体が治癒の感覚を忘れないようにね。安心して?死にはしないから。死ぬ直前でちゃんと踏み止まる偉い薬だから」


化け物地味た訓練だ。だが理には適っているのかもしれない。その毒薬で死ぬことはないので、毎日飲んで飲んで飲みまくっていれば身体が対応して回復が早まるということだ。


「それ、外的に加われた傷の治癒も早くなるのか?」


「もちろん。組織dirtyの研究員さんが作った有能毒薬だからね」


有能な毒薬とは。


「病院なんて行かないで、毒薬飲んどけばなんとかなるよ。自由に使っていいから」


「お、おう。で、その毒薬ってのはどこに?」


「今手元にあるやつは全部飲みきっちゃったから、私の家にあるかも」


「え」


「一緒に帰ろっか!」


「は?」


今から、胡桃の、家に行く……?


翔雲は混乱してしまった。たしか胡桃はdirtyから送られてきた使いの人と同居していたはず。もしもその使いの人に翔雲が賞金稼ぎであることがバレてしまったら厄介だ。いやそれより。


「男を家に引き連れること自体、不味いのでは?」


「え、なんで?何がダメなの?」


ここから翔雲は小声で会話をする。誰がどこで聞き耳を立てているか分からないからだ。


「なんでって、お前一応dirtyの最高幹部だろ?世界最強にして最悪の悪党だろ?そんなお前が日本で彼氏できました〜とかなったら俺、どうなるか分からんぞ?」


「なんで男の子を家に入れるだけでその子が彼氏扱いされるの?私と翔くんは恋人同士じゃなくて、愛人関係でしょ?」


「違う。そういう意味じゃない」


「大丈夫だって。私がなんとか言うから、任せて任せて」


そう胡桃は自身満々に言った。彼女はやる時はやる女だ。翔雲はそれに期待して、不安ながらも胡桃の家に行くことになった。

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