第14話 互角の賞金稼ぎ

賞金稼ぎは裏稼業だ。当然それを隠すために暗殺者たちは表向き何かしらの職業に就いている。それは学生だったり会社員だったり時にはYouTuberだったりと様々だ。そのため日常生活のどこに賞金稼ぎが潜んでいるかなんて分からない。


だがある程度賞金稼ぎたちの界隈で名が知られてくると話は変わってくる。裏ギルドを通せば欲しい情報はほとんど手に入るため、表向きではどう暮らしているのかなどは調べればすぐに分かってしまう。特に今目の前にいる賞金稼ぎのような、超有名大手財閥のメイドなら尚更だ。


「おいおいなんだよ。急に物騒だな。そんなに俺のギャグがつまらなかったか?」


「白々しいわね。その通り名を知っているということは、"そっち"側の者でしょう?何が目的なの」


「とりあえず、部屋入ってもいい?春とはいえ、この長廊下少し寒いんだよ」


「……………手を挙げて」


ダガーを突きつけられたまま翔雲は阿澄の部屋に入る。手を挙げているため、何かしようとした途端に首が飛びそうな気がするため、大人しくすることにした。


「この部屋ちょうどいいね。エアコン自動モードとかにしてんの?」


「目的は何。まさか霧島財閥の宝庫でも狙ってるのかしら。だとしたら"メイド"として見過ごせないわね」


「"メイド"として、の話だよな?それ。俺が会いにきたのはメイドの阿澄じゃあない。超絶怒涛の如く現れたスーパールーキー賞金稼ぎの白銀の阿澄さんに会いにきたんだ」


「ルーキーじゃないわ。小学6年生の後期からやっているもの」


「俺と同期じゃねぇか。ちなみに、俺のこと知ってるか?」


翔雲は変装のためのイメージアップ眼鏡を外し阿澄をジッと見る。


「……誰?もしかしてあなた有名な賞金稼ぎの人だったりする?」


「…………俺もまだまだルーキーだな」


名前を知られていなくて少ししょんぼりする翔雲。ある程度名が通っているかと思ったが、思っていたより知名度が低いようで残念だ。


「そんなことより、私に会いにきたって、どういう事?狙いは何?」


「あぁ、早速本題に入ろう。ちなみに霧島財閥の宝庫なんて眼中にないからな」


そう言って翔雲は阿澄に話した。ミシェルが来年同じ高校に入学してくること、翔雲は彼女の首を狙っていること。


「なるほど。確かにその情報は私も把握していたわ。で?あなたがミシェル・ツィドラーの首を狙っていることと私に何の関係があるの?」


「結論から言おう。お前、俺の仲間になれ」


「麦わら56少年のセリフを丸々使うのやめて」


「ごめんなさい」


翔雲が霧島と仲良くならないといけなかった理由。それはこうして霧島家で阿澄に接触し、仲間になってもらう必要があったからだ。


学校で話しかけても簡単に捌かれそうだし、逃げ場が多い。だが霧島財閥の屋敷内で接触すれば逃げ場は少なく、何より客人とメイドという立場に立つことによって変な騒ぎを起こすこともできなくなる。


「で、私があなたの仲間になるという話だけれど、丁重に断らさせてもらうわ」


「そうか、それじゃあ今すぐ会わせたい人物がいるんだが………は?おい今なんて?」


「だから、私があなたのような雑魚賞金稼ぎの仲間になるだなんて断固お断りだと言っているのよ」


「は?????俺が?雑魚?」


「は?????そうでしょ?雑魚でしょ?雑な魚と書いて雑魚でしょう?」


翔雲はキレた。


「はああああ!?俺がお前より弱いなんてことあるわけねぇだろうがビチクソがぁ!」


「はああああ!?何キレてんの?当然の事言われて何キレてんの?所詮まだまだあんたもガキね」


「一個上なだけでガキとか言ってんちゃうぞコラ!ちょっと親のセッ○スが数ヶ月早かったからって調子乗ってんじゃねぇよ!」


「う〜わ無理無理。こういう自画自賛しかできないナルシストと一緒の空気吸ってるとかマジで無理だわぁ!」


「んだとてめ殺すぞコラァ!じゃあお前が殺した最高金額の賞金首の額言ってみろよ」


「あなたが先に言いなさいよ!」


「はい俺11億〜!」


「はい私11億〜!」


「同じかよ!」


「不快だわ!」


※ちなみに二人ともその11億のほとんどは某募金団体に寄付しています。


「どうやら分からせるしかないみたいね」


「はぁ?お前如きが俺に分からせる?無理な話だろ」


「そんな大口叩いていいのかしら。今あなたは私にダガーを突きつけられているのよ?この状況で何ができるってのよ」


「あまり俺を甘く見るなよ」


「!?」


手を挙げている翔雲。だがその挙げている手の位置は大体目線の辺りだ。ちょうど首元の位置にに右手の手首がある。そして彼の手首には一つのブレスレットがはめられていた。


翔雲が少し右手首を振動させると、ブレスレットから勢いよく刃が突出され、突きつけられていたダガーは弾かれ天井に突き刺さった。


突然ダガーが弾かれ少し驚いた阿澄だが、すぐに相手を自由にさせてしまったと気づき、ポケットからナイフを取り出して追撃を喰らわせにいく。だがそれよりも早く翔雲は手首からカラムビットを取り外しており、阿澄の追撃も難なくいなした。


その後あまり広くない部屋の中で一定の距離を保つ。


「ブレスレットとして使えるカラムビット…へぇ、少しは考えた作りしてるのね。確かにそれなら学校への持ち運びも容易いわ。それに、どうやらよくできたカラムビットらしいじゃない。何か作動させる素振りは見せなかったけど」


「一定の振動を与えることで刃が自動で突出される仕組みになっててさ。今まで貰ってきた貰いもんの中で一番優れているよ。あの方には感謝しないとな」


「誰の話してんの、よっ!」


無駄話を続けようとしていると、阿澄はさらにナイフで追撃を行う。翔雲はそれを全て捌くが、実力はほぼ互角といったところか、防ぎきれそうにない斬撃もあったため、頬にかすり傷を負ってしまう。


一方的に攻撃を仕掛けられるのは不利だと感じた翔雲は壁際に追い詰められると、すぐそこにあった本棚を倒し、相手の視界を限定させ、ナイフの連撃から逃れる。


その後翔雲からカラムビットで攻撃を仕掛けるが、お互い一歩も譲らないナイフ技術のためか、仕掛けては守って仕掛けては守っての繰り返し。


単純な技術では互角だと感じた翔雲は自分のアドバンテージを利用することにした。


それが修行の末に手に入れた、圧倒的なパワーだ。


「なっ!?」


攻撃の速さを犠牲に少し力ませて力を乗せる。互いのナイフが交差した途端、阿澄のナイフは勢いよく弾かれた。


胴体があき、翔雲はそこに前蹴りを食らわす。あまりの力に阿澄は部屋の奥まで吹っ飛ばされ、ナイフを落としてしまった。


しかしここで手を抜かないのが賞金稼ぎとしての心得。相手の意識を完全に刈り取るため、翔雲は追撃しようと一気に距離を詰める。が、そう簡単にいくはずもなかった。


近づいた翔雲の頬を一発の弾丸がかすめる。一切の動作なく放たれた銃弾に翔雲は少し驚いてしまった。その隙に阿澄は柔らかい身体を駆使して翔雲の太ももに蹴りを繰り出す。


鍛えられているとはいえ不利な体制からの無理矢理繰り出された蹴りだ。痛みはさほど感じないはずだが、翔雲は尋常じゃない痛みに襲われた。


太ももにダメージを負い、倒れそうな翔雲を逆に殴り飛ばし、お互いにまた距離が保たれた。


「いってぇ……おい、明らかに蹴りで負うタイプの傷じゃないぞこれ。血出てんだけど。それに手を動かしてないのに銃弾が飛んできやがった…まさか」


「そっ。足に銃を巻きつけてる。もちろん、履いてる靴はそれに対応した作りになってるわ。リミッターを外せば足の指を曲げることによって発射される仕組みになってるし、しっかりサプレッサー付きだから」


「卑怯だな」


「戦法よ。折角長くて柔らかい脚を持って生まれたんだから存分に利用しない手はないでしょ?手じゃなくて脚だけに、なんつって」


「おもんな死ね」


普通の賞金稼ぎの場合、距離を詰めようとするが、阿澄の銃は両足についているようで、どの方向から仕掛けても当てられてしまう気がして近づくことができない。

しかし普通の賞金稼ぎの場合に限る話だ。


「知ってるか?暗殺者の中で大きく実力が分かれる決定的な要点が一つあるって話」


「ん?何急に」


「お前はどうか知らねぇけど。暗殺者ってのは、銃弾をナイフで捌けるかどうかで大きく実力が分かれているもんなんだ。俺はどっちだと思う?」


どっち、とはこの場合、銃弾を捌ける暗殺者か捌けない暗殺者かという意味だ。どんなに優れたアスリートでも銃弾をナイフで捌く、なんて所業できるはずがない。この芸当はまさに神業と呼べるものであり、賞金稼ぎの中でも出来る者はそう多くない。


「そうねぇ……仮にあなたが私と同等かそれ以下の実力だとして」


「おいそれ以下とはなんだ」


「捌ける、と思うわ」


阿澄はそう言った瞬間、脚をこちらに向けて銃を放った。翔雲は突然放たれた銃弾にも対応してみせ、見事に手に持っていたカラムビットで銃弾を両弾した。


「大正解」


再び翔雲は距離を詰めに行く。阿澄は近づいてほしくないと言わんばかりに銃を連発するが、翔雲はそれを全てかわすか往なし、一気に距離を詰めた。


そうしてまた始まるナイフ戦。しかし翔雲は先程と同様に力ずくで阿澄からナイフを離し、圧倒的有利な立場に立つ。が、突如下から放たれた銃弾には気付かず、自身のカラムビットも失ってしまった。


二人に残った選択肢、それは肉弾戦。


阿澄は脚についた銃を利用して不利な肉弾戦に対抗するが、翔雲の力の前に圧倒され、再びぶっ飛ばされてしまう。


手数が減った両者との間に実力差がようやく開いたと思った翔雲。完全に仕留めるためにさらに距離を詰め追撃を入れようとした途端、阿澄が放った銃弾を肩辺りにもろに食らってしまう。


互いに傷を負いながら譲らぬ戦い。終わった頃には勝者などいなく、どちらも死んでいそうなくらいに互角な戦闘を目の当たりにして、彼女が黙っちゃいなかった。

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