第13話 白銀の阿澄
霧島の家に招待してもらい、潜入する。ここまでは順調にいった翔雲。いやむしろ順調すぎるほどだ。こういう時は何か悪いことが起きる予感がするが、目的のため進んでいった。
「ここが吾輩の屋敷だ。靴は客人用の下駄箱に入れてもらって構わない。上がりたまえ」
屋敷は学校からかなり離れた位置にあり、とにかくデカくて広い屋敷だ。お城、とまではいかないがそこら辺の金持ちとは比べものにならないほどには豪邸だった。
屋敷内には分かれ道やら部屋が多く存在していたが、霧島は全ての位置を把握しているかのように迷いなく進んでいく。翔雲はそれに少し感心を覚えながらついていく。
地下へと通じる階段で降りると、複数の扉が待ち構えており、霧島はこれまた迷いなく一室の扉を開けた。するとそこにはかなり広いカラオケルームが設備されていた。
VIPルームなんて比じゃないくらいの広さ。ドデカいモニターに並んでいるゴールデンマイク。ふかふかのソファーの下には絨毯が敷かれており、ドリンクバーは一台のみならず数台設備されていた。
「うわ〜……これは凄い部屋ですね」
「驚いたか?まぁ庶民からしたら無理はないな。あんな狭苦しい犬の小屋のような場所で歌っているお前らからしたら信じられない光景だろう」
自慢気にドヤ顔しながら言わないあたり、これが自分にとっての当たり前だということだろう。
適当な位置に座り、翔雲と霧島は3時間ほどぶっ通しで歌い続けた。
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「zzz……」
「ふぅ。寝たか」
もう何曲目かも分からないくらいまで歌い続けた翔雲たち。隙を見て霧島が飲んでいたグラスに睡眠薬を少量入れた後、眠くなるような切ない失恋ソングを歌い続けた。やがて霧島が瞼が重くなっていき、眠りについた。
翔雲は少し疲れた様子でマイクを元の位置に戻し、カラオケルームを後にした。
地下から1階へと続く階段を上ると、屋敷のメイドとバッタリ遭遇した。
「あらお客様。歌唱を楽しんでいただけてますでしょうか?」
さすがは霧島家。情報はすでに伝わっているということか。
「あ、はいそうです。霧島様が眠ってしまったみたいなので、専属のメイドさんにこの事を伝えにいこうと思いまして」
「では、私から伝えましょうか?ちょうどあの子のところに向かう最中でして」
「いいですか?ありがとうございます!」
「いえいえ」
明るく元気そうな印象を持つメイドさんは笑顔でそう言う。翔雲は礼を言って地下に戻る素振りをみせ、こっそりそのメイドに尾行した。
いくつか階段を上り、3階の長廊下にある無数の扉から一つの扉を開くメイド。中に誰がいるかは分からないが、話し声で察することができる。
「阿澄〜?聡太様が地下のカラオケルームで寝ちゃったってさ。さっきお客様があんたを呼んでこいって言ってたよ〜」
「え、それ私が後始末しなきゃいけないやつ?」
「そりゃそうでしょうよ。あなたが聡太様の専属メイドなんだから、私は知ったこっちゃないわ」
「ぇ……はいはい分かった。後で行くからもう少し待っててってお客様に伝えといて…………ん?ねぇ菜々緒?聞こえてる?」
返事がないのを不審に思い、部屋から顔を出す専属メイドの阿澄。するとそこには菜々緒と呼ばれるメイドはいなく、背の高い大男のお客様が突っ立っていた。
「………あらお客様。わざわざどうしてここまで私を呼びにきたんですか?」
「白々しいな」
「菜々緒はどこでしょうか?先程まで彼女と会話をしていたのですが」
「隣の図書室で眠ってもらってる。お前と二人きりで話がしたかったんでな」
「あらやだお客様。いくらお客様とはいえ、そういう事はやめてくださる?」
「白々しいな。白銀の阿澄だけに、なんつって」
翔雲がそういうと専属メイドの阿澄は一本のダガーを素早く取り出し翔雲の首に突き付けた。先程まで見せていた表情とは一変し、非常に冷徹で心に突き刺さるような目線を向けてくる。
翔雲には分かる。この目は過去に様々な経験をしてきた者にしかできない目だということを。だが今はそんな事どうでも良い。
今するべきことは、目の前にいる白銀の阿澄を仲間にすることだ。
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