第12話 努力の末

仲良し大作戦4日目。胡桃を連れながらではあったが仲が段々と良くなっている。

翔雲の最終的な目標は霧島家に潜入することだ。そこまでいけば後は実力行使するのみ。まだ霧島とは家に入れるほどの仲ではないが、着実に近づいている実感は得ている。


授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、翔雲は毎度のごとくカフェテリアに向かおうとすると、不意に隣の席の清楚ギャルに話しかけられた。


「ねね、柊くん」


「ん、何?」


「今日の放課後さ、クラスで親睦会開くんだけど、良かったら柊くんもこない?」


「あー…悪い、用事があるからパスで」


「そっか…用事があるなら仕方ないね」


放課後に霧島を遊びに誘う用事がある。今日の昼食時に話しかけ、帰りにどこかに寄らないかと聞く。翔雲はもう遊びの誘いをしてもいい段階だと判断した。


誰かと遊びに行くというのは打ち解けた仲でないと難しいが、翔雲は霧島にとっては恐らく初めての友達と呼べるような存在だ。現時点で中々ガードが緩くなっている霧島になら遊びに誘っても良い頃かもしれん。


「翔く〜ん!今日も学食?」


教室の扉から大声で翔雲を呼ぶ胡桃。この光景は日課になっており、扉付近の男子生徒はもう四日連続で胡桃の弁当をもらっている。風のうわさだとしっかりと食べきっているが洗って返さずに家で大切に保管しているとかいないとか。


「ああ、行くぞ」


教室から出て胡桃とともにカフェテリアに行った。

ーーーーーーーーーーーーー


今日も唐揚げ丼をおぼんに乗せて霧島の斜め前の席に座る。胡桃は翔雲の隣に座る。最初と比べて静かになってくれたおかげで、霧島も胡桃の同行を許してくれた。


「こんにちわ、霧島様。今日もお会いできて光栄でございます」


「おぉ、柊か。今日も来てくれたんだな」


「いえいえ、私が行きたくて来ていますから。おや?全体的に髪を3mmほどカットされました?それに香水も変えてますね」


「よく分かったな。髪のバランスを整え、気分転換に香水を変えてみたんだ。どの香水か、当ててみろ」


「柔らかい印象を与え、スッと鼻を通るスッキリしつつ甘い香り…。シュネルのマンミン・ジュラープでしょうか?」


「ほぅ、よく分かったな。さすがだ。先程このメイドにも聞いてみたんだが答えられなかった。どうやらコレより柊の方が嗅覚がいいらしいな」


付き添いのメイドを"コレ"と呼び、嗅覚という些細なことで比較して格を落とす。やはりこの霧島という傲慢おぼっちゃまは性格が悪い。


本来ならば友達になんてなりたくもない人物だが、目的のためには仕方のないことだ。


「まさか霧島様ほどのお方にそれほど評価させていただくとは誠に光栄でございます」


「はっはっは。やはり貴様と話していると気分が良くなるな。さすがは我が友人だ」


巧妙なコミュニケーションテクニックで霧島から友人判定された翔雲。今が狙い目だと思い、相手の懐に足を踏み入れようとする。


「ありがとうございます。ところで霧島様、放課後何かご予定とかありますでしょうか」


「なに?放課後だと?」


「はい。風の噂で霧島様は歌がお好きだとお聞きしまして」


「よく知っているな」


「そうですよね。ですので、是非僕と一緒に放課後カラオケとかどうでしょう」


事前情報の時点で、霧島がカラオケ好きという情報は耳に入っていた。最近流行りの曲などを好んで聴いているらしく、友人もいないためカラオケは行ったことがないと踏んだ。そこでカラオケに誘う事で、自分の趣味を他の誰かに共有することができ、さらに仲が深まるということだ。


「カラオケだと?お前のいうカラオケとは、いわゆる庶民がよく訪れる煙たく臭い、油っこいあの空間のことを言っているのか?」


「……え?」


確かにここら辺のカラオケ店はあまり清潔とは言えない。タバコの匂いなどの悪臭。油っこくベタベタしているマイクやタブレット。しかしそれはあくまでも一般の部屋のことを指している。


もちろん翔雲がいうカラオケというのは霧島向けに予約しておいたVIPルームのことだ。広くて匂いも良く清潔な空間に行くつもりだったが、霧島からみれば翔雲は自分のことを知っているだけの庶民。とても数千万稼いでいる賞金稼ぎとは思わないだろう。


機嫌を損ねてしまったかと不安になるが、その心配は不要であった。


「そんなカラオケ店に行っても興がわかんしつまらんだろう。どうだ?ここはひとつ、吾輩に提案があるのだが」


「提案…ですか?」


「あぁ。知っての通り吾輩は歌が好きであり、歌唱を好み嗜むのだ。だから、吾輩の屋敷には吾輩にのみ特別に用意されているカラオケルームがある」


「!?つ、つまり」


「ここ数日で、吾輩は貴様を気に入った。吾輩の屋敷に招待してやろう」


「是非!行かせてください!」


ここで一度断って謙虚にいくのは、かえってデメリットが生じるものだ。相手にもよるが、霧島のような人物であれば、尚更そうだろう。


翔雲は放課後、霧島の屋敷へ行くことが決まった。

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