第11話 仲良し大作戦

この学校にはカフェテリアと呼ばれている学食堂があり、そこまで広くはないが料理が豊富で生徒たちからは大変人気である。

他にも購買所があり、そこでは菓子パンや日替わり弁当なども買うことができるため、そこで昼食を買って教室で食べる生徒も多くいる。


翔雲は料理を作ってくれるおばちゃんから頼んだ唐揚げ丼をおぼんに乗せて霧島を探す。胡桃も後からついてきてラーメンを注文している。


辺りを見渡すと、銀髪でピンク色のメッシュが入った独特な髪色の女子生徒がカフェテリアの端の方に座っているのが見えた。メイドについての露見している事前情報と一致しているため、恐らくその前に座っているのが霧島聡太だろう。


翔雲は近づき接触を試みた。


「こんにちは、霧島先輩様ですよね?」


「む、吾輩を初見で様付けか。どうやら自身の身分を弁えているようだな」


「もちろん。いやまさかこんな所で霧島様に出会えるなんて光栄です。大変失礼であることは十分に承知でございますが、霧島様から見て斜め前に位置するこの席に、座ってもよろしいでしょうか?」


「構わん構わん。貴様のような庶民は久々に見た。気分がいい」


「光栄でございます」


霧島聡太。霧島財閥の御曹司であり、後継者の立ち位置に位置する。成績優秀、太っている割に運動神経抜群、まさに文武両道と呼ぶにふさわしい器の持ち主だが、周囲からの評価はあまり高くない。


その理由は、優秀さ上の傲慢さからきている性格が好かれないからだ。確かに優秀な彼だが、周りの人間は自身よりも劣っていると考えがちであり、自分よりも身分が低いとみた人には強気にあたり、敬語を強制させる。いかにも人の悪い所だけを集めたかのような性格だ。


しかし彼自身、友達はいらないとは思っていない。むしろ友人と呼べる仲の人を欲している。だが友達ができるはずもなく、彼は孤独に悩んでいた。自身の性格が理由だと気付かずに。


翔雲は彼と友達になる必要があった。ではどうするか。自身の性格が問題であることを気づかせるのではなく、相手の性格に合わせて接すれば良いのだ。人の性格は改善しにくい。それは悪ければ悪いほどより難しいものだ。だから自身から合わせにいく。それが最も手っ取り早く仲良くなれる方法だ。


「おや、召し上がってるそちらのお料理はもしかして」


「そうだ。庶民が見ているメニューには存在しない、吾輩にのみ提供される特別メニュー、フォアグラだ」


「やはり霧島様ほどになれば昼食にフォアグラですかぁ。美味しそうですね〜」


「そうだろう?貴様は唐揚げ丼か。はっはっ!いかにも庶民臭いな」


「昼食にフォアグラって、逆張ってる感じしない?」


「「は?」」


翔雲が霧島の性格に合わせて友好的に話している最中、突然翔雲の隣にラーメンを持って胡桃が座ってきた。そして今の翔雲にとっては邪魔でしかないとんでもない発言をしてしまった。


「それが普通の暮らしなのかは分かんないけどさ、昼食に学食で一人だけフォアグラ食べてるとか、なんか逆に可哀想じゃなーい?」


「お、おのれ貴様………!」


「あぁぁぁ!待ってください落ち着いて霧島様!おい!お前、だ、誰だぁ!?」


ここまできたら胡桃とは他人のフリをするしかない翔雲。だが空気を読んだことがない彼女は全く合わせる気がないままド正論パンチを繰り出す。


「誰だぁって、ここまで一緒にきたじゃん」


「何?この女、貴様の友人か何かか?」


「さ、さぁ?誰でしょうねぇ?こ、こんなチビ知りませんよ、あは、あはは」


「チビ!?私のことチビって言った!?」


「お前は一回黙れ!!」


不味い状況になり、焦っていた翔雲。どうすればいいのだろうかと悩んでいると隣の席にいた霧島のメイドが突然立ち上がり、胡桃をかついでカフェテリアから出ようとした。


「ちょっ!?誰!?何!?」


「聡太様。この小娘がいてはお食事の邪魔でしょう。私がなんとかしますので、お気になさらずに」


「おう。頼んだぞ奈月」


「ちょ!?ってか翔くん助けて〜!連れ去られちゃう〜!わ〜〜!!」


「ほ、ホントニダレナンダーオマエハー」


周りの注目を集めながらメイドと胡桃はカフェテリアから去っていった。

気を取り直そうと一度わざとらしい咳払いをし、霧島に話しかける。


「では、お話の続きを」


「あぁ、だがもうランチタイムも終了だ」


「え?」


しかし霧島はすでに食べ終えており、食べ残し一つない綺麗な食器を持って立ち上がった。


「君と話ができて楽しかったよ。また明日、ここにこれるか?」


「はい。もちろんです」


「君のような庶民は初めてだ。また明日な」


そう言って霧島は先から離れていった。もう少し話をして仲良くなりたかったが、胡桃のせいで少し時間を取られてしまった。


「はぁ。時間がかかりそうだな。それにしても、この料理どうすればいいんだよ…」


胡桃の残されたラーメンとメイドの日替わり定食の食べ残しを見て、翔雲は途方に暮れた。

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