第12話 刃と少女

◆◆◆◆◆◆



男があたしの王子様を殴ってる。


お父さんが、殴ってる。


あたしを殴るみたいに、ナイフの王子様を殴った。


あたしの・・・あたしの黒いナイフの王子様。



嫌。

嫌よ。


お父さん、あたしから王子様を奪わないで。

あたしだけの王子様を奪わないで。


ずっと、いい子にするから。王子様を殴らないで。


あたしみたいに殴らないで。殴らないでよ。殴らないで!!



「嫌ぁあ、やだぁああーーーー!!」


あたしのナイフの王子様。



ナイフの・・・・黒いナイフの・・・・



ナイフが落ちてる。地面に・・・落ちてる。



落ちてるから。



お父さん。もうやめて。やめてよ、殴らないで。殴ったりしないで。

怖いの。

あたし、怖いの。


もう、やだ。嫌だ。嫌なの。


殴らないで。臭いって言わないで。蹴ったりしないで。

あたしの王子様に酷いことしないで!!


酷いことしないでーーーーーーーーー!!



「やめてぇえええええーーーーーーーーーーーっああああああああ!!」



ナイフが地面に落ちていたから。

右手が動いたから。ちゃんと掴めたから。


お父さんがあたしに背中を向けていたから。



だから。

だから。



◇◇◇◇




恐怖か?


お前がナイフをふりおろすのは、恐怖から逃れる為なのだな。

ただ恐怖と混乱から逃れる為に、私を使うのだな。


お前は、私の主に相応しくない。



相応しくはないが、私はお前を受け入れる。お前の怒りや悲しみの感情が私に流れ込んでくる。

分かるか・・・・?

お前は恐怖に震え、その心に押し込められた感情に気がつきもしないが・・・その心は、怒りと悲しみでいっぱいだ。


息苦しいほどに。


怒り。

悲しみ。

それさえ感じられないほどに、追い詰められた幼い女。



気の毒な少女。


お前は、私の主には相応しくないが受け入れる。



『黒闇姫』はお前を受け入れる。



遂げるがよい。

お前の本当の願望を遂げるがいい。




◇◇◇◇




殺したい。



殺したい。




許さない。



お前を許さない。許さない。許さない。許さない。

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