第23話 商品⑤ 遊園地のチケット・Ⅱ


    ◆◇◆◇◆◇◆


 遊園地はね、目に見える表の部分がきらびやかな分だけ、裏側に恐ろしい『都市伝説』が溢れているんだよ。


 ああ、きみは他人事のような顔をしているね。

 そうだよね。普通はそんな話を聞いても、自分には関係の無いことだって思うんだよ。


 でもね、表から裏へ迷い込むなんて、ほんの一瞬のことなんだよ。

 たとえば、今のきみのように……。


 あ、いや、何でもないよ。気にしなくていいんだよ。

 うんうん。なんでもないよ。


 それより、きみは迷子になったことはあるかい?


 遊園地で迷子になる子供は多いよね。

 こんな迷子の話を聞いたことはあるかな?


 ある家族連れが遊園地を訪れたんだ。

 若い両親と五歳の娘の三人家族だよ。

 ところが、ちょっと目を離した隙に娘がいなくなってしまった。


 両親は慌ててインフォメーション・センターに行き、娘の名前や年齢、服装を説明して、園内放送をしてもらったんだ。

 広いといっても柵とゲートで囲まれた遊園地だ。

 普通なら、三十分もしないうちに見つかるはずなんだけど、今回に限って、どうにも見つからないんだよ。


 一時間が過ぎて、両親の不安がピークになったとき、遊園地のスタッフが迷子になっていた女の子を連れてきたんだ。

 喜んだ両親だけど、スタッフの連れてきた女の子を見ると落胆した顔に変わってしまったんだ。


 どうしてかって? 

 自分の娘ではないと思ったんだよ。


 だって、その両親の娘は、長い黒髪でピンク色のダウンジャケットを着ていたはずなのに、スタッフが連れてきた女の子は、茶髪のショートカットで、フードのついたダッフルコートを着ていたんだ。


 ところがね、「ママ!」と叫んで駆け寄ってきた女の子は、やっぱりその両親の娘だったんだ。


 お母さんは安堵の涙をこぼしながら娘を抱きしめ、父親はすっかり変わってしまった娘の髪と服は、どういうことなのかとスタッフに聞いたんだ。


 するとスタッフは血の気の失せた顔で、不審者が物陰に女の子を連れ込み、そこで髪を切り、薬品で茶色に染め、服を着替えさせていたところを発見したと言うんだよ。


 そうだよ。その不審者は、女の子を別人に変装させ、遊園地から連れ去ろうとしていたんだ。

 まさに間一髪のところだったんだね。

 それを聞いた母親は、恐怖で失神してしまったほどだよ。


 犯人はどうなったのかって?

 さあ、捕まったのか、逃げ出したのか……。


 でもね、私はこれと同じ手口の話を幾つも聞いたことがあるんだ。

 もちろん同じ遊園地じゃない。

 全国あちこちの遊園地で起こった事件としてだよ。


 そうなると、犯人は一人じゃなく、複数の人間だろうね。

 何かの怪しげな組織化も知れない。

 しかも、繰り返し起こっているということは、失敗した数以上に、成功しているからだということにならないかな。


 だいじょうぶかい? 

 もしかして、遊園地が嫌いになってきたりはしていないよね。


 じゃあ、少しソフトな話をしようか。

 ほら、遊園地には着ぐるみが歩き回っていることが多いよね。


 うん。その遊園地のマスコット・キャラクターの着ぐるみだよ。

 あれは、あのキャラクターであって、中に人なんか入ってないって言い張る遊園地は多いよね。


 ん? はははは、そうだよ。

 中にスタッフが入っているのは誰も知っているけど、夢を壊さないために、入っていないと言い張っているんだ。


 暗黙の了解だって? 

 きみは難しい言葉を知っているね。


 でも、本当はどうなんだろうね? 

 だって、着ぐるみの中を見たことがある人なんて、そうそういないだろ。

 ……人が入っているのかな? 

 ……入っていないのかな?


 こういう『都市伝説』があるんだよ。

 ある女の子が閉園間近の時間に、人工池の岸辺でしゃがみ込んでいるマスコットの着ぐるみを見つけたんだ。


 もう辺りには誰もいない。

 そこで女の子は、最後に一枚、一緒に写真を撮ってもらおうと、着ぐるみに近づいて行ったのさ。


 着ぐるみに後ろから近寄り、声をかけようとのぞき込んだら、その着ぐるみは、しゃがみ込んだまま、ハトを捕まえて食べていたんだって。


 ……想像したのかい? 少し顔が強張っているよ。


 遊園地の中でも、特に色々な『都市伝説』関わってくるのがお化け屋敷だね。


 入った客と出てきた客の数が、たまに合わなくなるお化け屋敷の話は聞いたことは無いかい? 

 ああいう、箱もの系のアトラクションは、たまに閉園まで中に隠れようとするイタズラ者が出るから、入館者をカウントしているんだ。


 うん。そうだよ。

 お化け屋敷に入った数より、お化け屋敷を出た客の数の方が少ないんだ。


 でもね、反対もある。

 入った客より、出て来た客の方が多いんだよ。


 一体、何が外に出てきて、どこへ行ってしまったんだろうね……。


 いやいや、そうじゃない。

 おじさんが話したかったのは、お化けの人形の中に、本物の死体が紛れ込んでいた『都市伝説』なんだ。


 そう、そのチケットで遊園地に入園した女の子は、お化け屋敷の中で、本物の死体を発見してしまったんだよ。


 名前は裕子ちゃんと言うんだ。

 小学校四年生、遠足の日のできごとだよ。

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