第17話 商品④ 誰かのリュックサック・Ⅰ


 「そのリュックサックが、ぼくに関係あるんですか?」

 おじさんが手にしているオレンジ色のリュックサックは、当然のように中古品だった。

 形は崩れ、乾いた土がこびりついている部分もある。


 「さあ、手に取ってごらん」

 おじさんは、ぼくの質問には答えず、リュックサックを押し付けて来た。


 仕方なく受け取ったリュックサックは、思っていたよりも重さがあった。

リュック自体が重いのではない。

 中に何かが入っているのだ。


 今までの話からして、ろくでもないものが入っているとしか思えない。

 頭蓋骨や呪いの藁人形ぐらいは入っていそうだった。


 「中に何か入ってますよね……」

 「前の持主の荷物が、そのまま入っているんだよ」

 おじさんは、そう言いながら手を伸ばし、ぼくが手にしているリュックのチャックを開けた。

 リュックが大きく口を開く。

 一瞬、リュックから何かが飛び出してくるんじゃないかと、ぼくは身を強張らせた。


 ……しかし、何も出てこない。

 埃臭いリュックの中の空気をわずかに感じただけである。


 警戒しながら、そっと覗き込んでみると、中にはデジカメ、丸めたタオル、水筒、レジャーシート、雨具などが入っていた。

 想像とは違い、拍子抜けするほど普通のものである。

 変わったものは何も入っていない。


 むしろ、少し変わったものといえば、中ではなく外側にあった。


 肩ベルトの金具に結びつけられている緑色のリボンである。

 それは何かの目印のようにみえた。


 「中身を出してもいいよ。

 前の持主はもういないし……。

 いや、元々いなかったかも知れないからね」


 おじさんの言葉に引っかかった。

 「それって、どういう意味ですか?」

 「いやいや、別に大した意味は無いよ」


 「さっき、ぼくに関係があるって言っていましたよね。

 そのことなんじゃないんですか?」

 「聞きたいかい? 

 聞きたいのかな?」

 おじさんは、すごく嬉しそうにぼくを見た。


 「え、ええ。聞きたいです。

 お願いします。聞かせてくださいよ」

 ぼくは愛想笑いを作っておじさんに頼んだ。

 これで大した話じゃなければ、おじさんの頭にリュックを被せて、店から出て行こうと心に決めた。


 「きみは『スクエア』の意味を知っているかい?」


 「なんですか、それ?」

 「英語で四角という意味だよ。そのリュックはね、『スクエア』と言われる『都市伝説』に関係しているんだ」

 また『都市伝説』だった。


 もしかすると、一見ガラクタのように見える棚の商品は、全て『都市伝説』に関わっているのかも知れない。

 どうやらぼくは、とんでもない店に入ってしまったようだった。

 後悔しているぼくに向かって、おじさんは四つ目の『都市伝説』を語り始めた。

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