第12話 商品③ 殺人鬼からの手紙・Ⅰ


 「さあ」

 おじさんは、ぼくに封筒を差し出した。


 「さあ」と言って、誰かが誰かに書いた、熱烈なラブレターを差し出されても困ってしまう。

 ぼくにどうしろと言うのだろうか?


 「……は、はあ」

 仕方なく、ぼくはラブレターの入った封筒を手に取った。


 淡いブルーの下地に小さな花のイラストが入った横型の封筒である。

 宛先は書かれていない。封も閉じられていなかった。

 でも、指でつまんだ感触から、中に手紙が入っていることが分かる。


 「中の手紙を読んでもいいよ」

 おじさんがそう言った。

 読みたくはないが、将来、ラブレターを書くことになれば、なにか参考になるかも知れない。

 

 「じゃあ、後学のために……」

 「ただし、それは私の話を聞いてからにしてほしいんだ」

 ぼくが封筒の中からラブレターを出そうとすると、それを遮るようにおじさんが言った。

 いちいちやり取りが面倒臭い。


 「もしかして、また『都市伝説』ですか?」

 「そうだよ。良く分かったね」

 ぼくが顔を嫌そうな顔をして言うと、おじさんは嬉しそうな顔になった。


 「恐ろしい『都市伝説』だよ。

 でも、話す前にきみに質問をしてもいいかな?」

 「何ですか?」

 「きみの担任の先生は、どんな先生なのかな?」

 「担任の先生ですか……」


 唐突なおじさんの質問に、ぼくは担任の朝美先生の顔を思い出した。

 まだ三十歳にはなっていない女の先生である。

 朝美は苗字ではなく名前である。


 朝美先生の苗字は鈴木だけど、ぼくの通う小学校には、鈴木という苗字の先生が三人もいるため、それぞれ苗字ではなく、名前で呼ばれているのだ。

 ぼくは、そのことをおじさんに話した。


 「怒るとヒステリックになるところもあるけど、まあ普通の先生かな」

 「じゃあ、きみはどうなのかな? 

 良い生徒なのかな?」

 「それは……」

 ぼくは少し言葉に詰まってしまった。


 すごく悪い生徒というわけではないと思うけど、優等生とも言えない。

 忘れ物も多いし、授業中に先生の話を聞かずに、隣の席の友達とおしゃべりをしてしまうこともある。

 もしクラスの生徒を良い生徒、悪い生徒の二つに分けると、ギリギリ悪い生徒の枠に入ってしまうかも知れない。


 「あまり良くない生徒……かな」

 ごまかすように、少しだけ笑って答えた。


 「それが、この封筒の『都市伝説』に関係があるんですか?」

 「どう関係するのかは、後で話すよ。

 その前にね、『ベッドの下の殺人鬼』の『都市伝説』を話そうか。

 聞きたいだろ。

 聞きたいだろ。

 そうかい、やっぱり聞きたいんだね」


 勝手に問い掛け、勝手に頷き、おじさんは三つ目の『都市伝説』を話しはじめた。

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