第7話 商品② コックリさんの十円玉・Ⅰ


 ぼくは指先につまんだ十円玉をじっくりと見た。裏も表も確かめる。


 もしかして、この十円玉はエラーコインじゃないかと思ったのだ。


 エラーコインとは、製造過程で出た不良品のことである。

 本来なら検査の段階で取り除かれ、世の中に出回らないはずの硬貨だ。


 五円玉や五十円玉なのに、穴が無かったり、穴の位置がズレていたりする硬貨。

 影打ちといって、両面が同じ図柄になっている硬貨。

 刻印がズレている硬貨。


 他にも、表と裏の図柄の天地が、一致していない硬貨などもある。

 つまり十円玉だと、平等院の図柄がきちんと水平になる位置にして裏返すと、本当なら10の数字もきちんと水平になるはずなのだが、10の数字が斜めに傾いていたりするのだ。

 もちろん、10の数字を水平にして裏返すと、平等院が傾くことになる。

 こんな硬貨は、角度ズレと言う。


 エラーコインには専門のコレクターがいて、滅多にないエラーコインだと、何十万もの価値がつくこともあるらしい。


 「……なるほど」

 つまんだ十円玉を表裏、さらに色んな角度から眺めた後で、ぼくはうなずいた。

 どこから見ても、ただの十円玉だった。


 エラーコインなんかじゃない。

 価値はたぶん十円だろう。


 「十円玉ですね」

 「十円玉だよ」

 確認すると、店のおじさんもそう答えた。


 「じゃあ、帰ります」

 「待った。まあ、待ちなさい」

 十円玉を棚に戻して立ち去ろうとすると、慌てたおじさんが、ぼくの前に回り込んだ。


 「ただの十円玉の値段が三百円だなんて、子供だと思ってバカにしてるでしょう」

 「そんなことはないよ。

 いいかい、この十円玉はただの十円玉じゃないんだ」

 おじさんは真剣な顔になって言う。


 「この話を聞いたら、きみは三千円でも安いと思うよ」

 「話?」

 「『都市伝説』の中でも、有名な話に関わってくる十円玉なんだ」


 なんの話かと思ったら、また『都市伝説』だった。

 「『コックリさん』だよ。きみも『コックリさん』は知っているだろう。

 そうか、知っているのか。

 さすがだね。ただ者じゃないと思ったよ。

 ならば、話さないといけないね。うん」


 勝手に受け答えをしたおじさんは、強引に話をはじめた。


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