第2話 商品① 口裂け女の鎌・Ⅰ


 ◆◇◆◇◆◇◆


 きみは『口裂け女』を知っているかな? 


 おお、そうか、知っているんだね。

 とても有名な『都市伝説』のひとつだからね。


 ん? 『都市伝説』は知らないのかい。

 じゃあ、少し教えようか。


 『都市伝説』というのはね、現代に生まれた奇妙で恐ろしい噂話のことだよ。

 『友達のお兄さんの知り合い』や『隣の小学校に通っている子供』のように、身近に感じる人に起きることが多いんだ。


 でもね、不思議なことに、その人に話を聞こうと、人づてにたどっていっても、決して、その人にたどり着くことはないんだよ。

 身近だけど、絶対にたどり着けない人々の身に起こった、奇妙で不思議な物語。

 それが『都市伝説』なんだ。


 『口裂け女』も、数多くある『都市伝説』の中のだよ。


 きみたちのような小学生の前に、マスクをした若い女性が現れるんだ。

 背はすらりと高く、丈の長いコートを着ている。

 マスクはしているけど、肌が白くきめ細やかなのは分かる。

 眉の形は良くて、まつ毛は長く、二重まぶたの美しい目をしている。

 ツヤツヤとした黒髪は腰に届く長さだ。

 そして、女性はきみたちに、こうたずねるんだ。


 「私、きれい?」


 きみたちのような純真な小学生は、「きれいです」と答えるんだろうね。


 すると、その女性は、

 「これでもか!」

 と言いながら、自分のマスクをむしり取るんだ。

 その下の口は……、ああ、そうか、きみは知っているんだったね。

 うん。口が耳まで、ザックリと裂けているんだ。


 これが『口裂け女』だよ。

 整形手術で失敗した女性が、『口裂け女』になっただなんて、もっともらしい噂も流れていたね。


 ああ、その通りだよ。

 マスクを取った『口裂け女』に、「きれい」と答えても「きれいじゃない」と答えても、鎌で切り刻まれてしまうんだ。


 最初は口だ。

 鎌の切っ先を口の中にこじ入れられて、口の端を耳まで、ザックリと切り裂かれるんだ。

 怖いよね。

 こういう噂は救いが無いんだよ。


 え? この鎌が『口裂け女』の鎌なのかだって? 

 もちろんだよ。

 だから掘り出し物だと言ったじゃないか。


 はは~~ん、笑っているね。

 信じていないんだ。 

 子供だましだって? 違うよ。


 『口裂け女』の噂が全国に広まったのは、もう四十年以上前のことだって知っているかな。

 当時は新聞や週刊誌が大騒ぎして、テレビのニュースでも流れたんだよ。


 子供たちは集団下校をし、口裂け女が出たと通報が入り、本当にパトカーが出動する騒ぎまで起こったんだ。


 考えてごらん、ただの噂話で、そこまでの大騒ぎになると思うかい?

 え? それで『口裂け女』は、捕まったのかって?


 いや、捕まっていないよ。

 だから、今もひっそりと噂は続いているんだ。


 そうだな、コズエちゃんの話をしようか。

 きみは何年生だい? 

 六年生か。

 それじゃ、コズエちゃんより、一学年上になるね。

 コズエちゃんは、小学五年生だったんだ。


 これはね、昔の話じゃない。

 ……最近の話なんだ。


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