金満優の完全な同盟の締結映像

 これは初心名村とダンジョン協会の完全な同盟の締結に関する記録映像である。撮影機材はSENAのアゾピュートを使用しており、第一級記録映像としての効力を持つ。これの複製は一年周期で行う物とする。


―――


1 初心名村全体映像


 男、金満優が立っている。少し小太りの男。隣に秘書が立っている。かなり細身、手には拳銃に剣が握られている。


「どうも、私ダンジョン協会理事暫定理事を務めさせて頂いてる金満優と申します。まあ、簡単に言えば高跳びした金満太の代理として参りました」


「優様、それは違います。優様の日々の努力に加えて、才能、カリスマ性が認められただけで御座います。あの憎きデブの話は関係ありません!!」


「…一応、叔父だからね。結構、後ろ盾もして貰ったからね。何よりまだ生きてるだろうからね。俺は悪く言わないよ、俺はね」


「何を言ってます!!いつもベットの上で散々頑張った後に『俺さ、あの人のこう滅茶苦茶な所があんま好きになれないんだよね…なんか、こうセンスでやってます!みたいなのが全面に出てて…何事も真面目にだよな…』って言ってたじゃないですか。私と一緒にそれはもう日夜…」


「この映像ね!!!止めれないし!!!カット出来ないし!!!音声消したり出来ないし!!!何より一生残るの!!!説明聞いてた????」


「はい、なのでこれで既成事実は出来たようなもんですね。牧師がダンジョン教会ならぬダンジョン協会なんて洒落てますよ」


「…こいつぅ」


 以降は適度に巫山戯た映像。背景は無数の白い繭のような物が点在。また、大量にあった鳥居・十字架などが処分されている。季節は夏。


―――


2 初心名村茅葺屋敷にて締結前談話


 茅葺屋敷、高座にて三人が座っている。真ん中に茅葺三郎。黒い着物、少し細身の美男子、ただ目が常にギョロギョロと周囲を見続けており視点が定まっていない。


 カメラ正面から見て左にうぶなさま、白いワンピースを着ている美女。にこにこと笑っているが口の中には無数の歯が列のように生えている。


 カメラ正面から見て右に茅葺蒼、3年前の流行の服を着ており顔は少し痩けている美少女。常にIpadを操作しており、時折カメラを見てふむと頷いている。


 以降談話


「遠いとこから良くお越しになりました、ちょうど、おたくの飛行機ですか?それを追っ払って家で一休みしてた所なんですよ」


 うぶなさま発言


「うぶなさま、ヘリコプターですよ」


 蒼訂正


「そう?でもね、ヘリも飛行機もどうでもええんよ。だって、どっちにしたっておたくは何の罪もない我々に危害を加えてきたんやろ。こわいわー、都会の人って無感情で無愛想で無知な私達を叩いて教育するんやろか?泣きたくなるわ」


 うぶなさま泣く、嘘である


「うぶなさまの悲しみは深まるばかりです。八柱高一の独断、釣山薫による侵略、それらを勘定に入れて我損害賠償を求めたいと思いこの対談に応じました」


 蒼、ipadを叩いて計算を見せる。かなりの額。ダンジョン協会に存在する裏金の4割に相当する。


「随分と強く出ますね。我々だってかなり困った状況なんですよ。貴方達が生み出したうぶなさま因子によるダンジョンの大規模汚染は既にダンジョンの9割で確認されました。こちらとしてもその損害賠償を求めたい」


 金満優発言。秘書がスマホを操作、画面をうぶなさま三人に見せる。先程の額の5倍。


「そちらこそ強気ですね。これは交渉決裂を前提としたポジショントークという事ですか?なら最初からそう言ってくれたらいいのに」


 ガサゴソと音、カメラがそちらを向く。茅葺屋敷庭先にて無数の老人老婆が見ている。


「老人老婆で脅しを掛けるとは中々に古風ですね、まるで村ホラーの世界だ」


「彼らは生き証人ですよ。もしこれから何が起きても彼らが語りついでくれる…」


 蒼と金満優の舌戦。その中で「あ」という声がする。カメラがすぐそちらに向く。茅葺三郎の焦点が合っている。蒼とうぶなさまが彼に近づく。何処か淫猥な雰囲気がある。


「あ、あ、あ」


「さっちゃん、喋る?翻訳しよか?」


「ええ、選び喋るわ」


「三郎、偉いわ、唾液垂れ取る、ふいたるよ」


「ありがとな」


 茅葺三郎の瞳孔が開く。カメラが震える。カメラマンの身体の震えと思われる。バック音声にて秘書が交代する旨を伝える。


「お前らが何だろうと構わん。この村はもうこれ以上、大きくせん。これで十分や、後は来る人拒まずで十分。供えも来るやつから選ぶ。だから、俺等をほっておけ。金はいらん、帰れ」


 三郎発言。声に酷く重みがある。金満優の顔に汗。


「…随分な物言いだ。その感じだと…きっと初心名村ダンジョンは閉鎖しないんでしょ。今でも年間でかなりの犠牲者が出ている。それに先ほどいったうぶなさま被害の話もある!!ダンジョン教会にそれを見逃せというのですか。それを止めるために私はここにいる」


 三郎が立つ。蒼とうぶなさまが脇を支えている。彼が歩けないからというよりまるで抱きついて離れたくないという雰囲気。二人の顔は恍惚とした幸福に満ちた顔をしている。


「初心名村ダンジョンに来る人間は2種類、面白半分と初心名村に興味ある人。前者はお供え、後者は村人、無駄にはせん。そして、さっき言っとった話は解決する。俺が望めば、ダンジョンのうぶなさまは何もせん。これで解決やろ」


「それじゃあマッチポンプじゃないですか!!」


 撮影者・秘書が発言。それを聞いてうぶなさま・蒼が見つめ合ってクスクスと笑う。


「そうよ、ようやく気付いたん?」


「我々は日本中にマッチをばら撒いた。そして今やそれに火がで続けている。その中でそれを消せる水は私達だけが持っている。貴方達に出来ることは買い続けることだけ。これは、交渉とかじゃないんですよ。さっちゃんの発言を聞く場所、言わば教会なんです」


 二人がねーと言う。三郎は優しく笑う。そして、三郎は金満優を見る。


「お前の叔父さんには追い詰められたが、お前は案外容易いわな。もうええわ、次は叔父さんを連れてき?お前じゃ話にならん。ただ、同盟は締結するわ。そっちのほうがええやろ。お前らにも建前があるやろし」


 三郎は手を差し出す。金満優はそれを握り返す。その顔は苦虫を噛み潰して飲み込む顔だった。


―――


3 初心名村脱出後ヘリにて


 カメラが椅子に置かれている。酷く傾いた映像、スイッチが偶然入ったとされる。金満優が秘書に抱きしめられている。顔は写ってない。


「叔父、叔父さんは…あんな化物とやりあってたのか…僕には無理だよ…雫…もう…無理だ…」


「優、大丈夫、大丈夫だから、貴方は大丈夫。必ず、あいつらを倒せる。だって、優は私のスーパーマンだもの」


「…学生時代の話を今更言うなよ。俺は叔父さんみたいにはなれないよ…俺は学者になりたいんだ…無理だよ…無理なんだよ!!!」


「優、私が死ぬまであなたを支え続けます。だからどうか戦いましょう。あの人の動画を見たでしょ?あんなにバカバカしい勝ち抜け他にないよ。私達だってやり遂げれる。それに…」


 秘書が金満に顔を近づける。数十秒。そして離れる。


「優は私のヒーローだもの。私にずっと憧れさせてね?カッコ悪い所は私だけに見せて?それ以外の時はカッコよく…約束ね」


「…ああ、やるさ、やってやるさ」


 映像終了


―――


 以降、金満優は正式にダンジョン協会理事に就任。金満太の人脈を受け継ぎ、ダンジョン協会内での地位を確立。後に初心名村案件の代表になり、教会内における歴史的偉業である初心名村完全同盟に尽力する。秘書・雫とは25に結婚。三人の子を授かる。その一人、金満緑は初心名村に入村。以降消息を不明とする。

 

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