23話 人嫁・神嫁とは?
「そして次に、何故、茅葺三郎は神様になったのか?」
『ついに本題か』
『掲示板も盛り上がり散らかしてたな』
『なんかしんみりするな』
『この状況でそのコメント出来るの肝が太すぎる』
薄暗いダンジョン、二つのドローンは釣山薫を映している。俺はそれを見ている。配信は止まってない。俺の目はいつの間にか同時に幾つもの物を見れるようになっていた。蒼とうぶなさまは俺の隣に座っている。
「それはもっとーなはなしや、いっつのまにかこなになっちゅうが。んにゃ、あおい、おみゃどうおもうんが?」
「私?私は…わかないなー、ちょっと難しくてついていけてないかもなー。さっちゃん、もし終わったらみんなで配信見返して内容を確認しようね」
「…なってあったまいいひとよめっだおま。さすがやぼ」
「へへ、さっちゃんそな褒めんといて」
「楽しみやね。料理も用意しよな蒼?」
「はい!」
二人でへっへと笑い、うぶなさまが頭を撫でて下さる。いつも通り、いつもと変わらない。俺が神?というのは良く分からんが眼の前の名探偵がしてくれるだろう。なんだか酷く落ち着いてる。
祖父や父のようになってしまうのではないか?という恐れも。
自分が今どうなっているか分からないという不安も。
何もかもが心から消えている。名探偵の話も不愉快無く聞ける。この短時間で成長したってことか。伸び盛りやからな。
そんな俺達を見て釣山は溜息を吐きながら後ろにいるジジババ達に手を向ける。
「この様に既に茅葺三郎は訛とも呼べない言葉を喋っている。いや、そもそも四国の方言と明確に違う。多分、ことみのり…人間が使う時は真言だったかな?それを使わないようにする暗号だったんだろうね。だけどそれでも彼の真言の力を抑えれず、無意識に複雑化して今の状況なんだろうさ。これは私の推理だが」
「なんどば」「でもなんがわかる」「やっぱ三郎ちゃんのことばやけんね」「でもあんまり気にしてもしょうがないやろ」「そだね」
ジジババ達はがやがやとしている。そのまま釣山は声を張り上げて蒼を指差す。
「そして、それを聞き取れる蒼。あんたも十分神様じみている。私はニュアンスでしか分かってない。でもあなたは彼と対話している」
「愛のなせる技とは思わない?」
「ここに来て愛だの、恋だのが絡むはず無いだろ」
釣山は一歩、蒼に近づく。蒼は少しだけ椅子を下げる。
「というより、お前がそれを完璧に信用できてないだろ?茅葺三郎に対する度を越した献身と奉仕は自分の中にある愛や恋を信用できないからだ。お前の母親は酷い人だった。そして、自分もそうなるのでは?と今でも疑い続けている。日記を見たよ。お前は一度、彼を裏切っている」
「…釣山さん、話題が逸れてますよ?私は既に答えを得てます。解説編も引き継げます。あなたの立場を思って委ねてるんです。今ここで願ってもいいんですよ」
蒼は笑う。俺には見せない。歯をむき出しにした獣じみた笑み。釣山は特に怯んでいない。
「でも私を殺せばあなたが嫌な話を大好きな彼に語ることになりますよね。私だってどっちだっていい。既に死ぬのは決定しているようなもんだ。名探偵が話を全部出来ずにこの場で死ぬってのも斬新でいいんじゃないんですか?きっとバズりますよ?」
「…続けて下さい」
椅子が元の位置に戻り、釣山は俺の前に立つ。少し離れている。
「では、彼はいつ神になったのか?それは御戸開動画を見た時?いや違います。私の推理では御戸開とは彼の中にある人間性の殺害の意味しかない。それよりも重要なのは頻繁に行われていた床入れです」
卑猥なハンドサインをする。その顔は下世話で俗なコメンテーターみたいに見える。
「床入れってのは性行為の暗喩ですよね。そして、貴方方を監視してましたが四六時中、朝昼関係無く行っていた。本当に監視・調査しているこっちが嫌になるぐらいです」
『えっちな話が始まってきたぞ』
『BANされる!!』
『今更だろ』
『逆になんでこれでBANになるんだよ』
『エッチだから…』
『思春期がおんぞ』
「品のない子やね、もう供えてもええんやない?蒼?」
「駄目ですよ、うぶなさま、ここからが良い所なんですから」
二人の視線は貫くように名探偵に向かってる。普通だったらプレッシャーで死んでもおかしくない。でも関係無く、彼女は下品に下世話に語り続ける。
「そして、奥座敷は文字通り大奥の真似事だ。酷く淫猥で下劣な風習、これに関しては剛太郎が自分の性の奔放さを正当化する御題目だったんでしょうがね。ですが、それを開いて彼はどんどん辟易としていった。蒼もうぶなさまも彼を愛している。にも関わらず止めない。何故?」
少しずつ顔がもとに戻る。猥雑で悪辣な顔ではなく心底同情している。そんな顔。
周囲の灯火が消えていく。だいぶ話してたから。俺はそこらにある石を掴む。それは小麦になる。それをばら撒くと一気に芽吹く。それに火が付く。ゆっくりとゆっくりと燃え続ける。
「それが彼を神にする儀式だったんだよね」
ぞわり、また静かになる。これが真実なのだろう。
「まず剛太郎は人嫁・神嫁と呼ばれる考えを作った。これはシンプルに神との婚礼してこの地に縛り付ける言葉遊びだったんだろう。人嫁に関しては村の人間に対する言葉遊びだったんだろう。神嫁と同等の地位にいる人嫁は外から入ってくる。だからイジメてはいけないよ。そういう話だ。小さな村だからね。そういう事を起こさない言葉選びは重要だ。そして、重要なのは神旦那だ」
彼女はまた一歩俺に近づく。ドローンがぐるぐる彼女の頭を回ってる。天使のようである。
「これは本当に剛太郎の精神を表しているが…神の旦那になれる俺も神なのだという意味を込めたんだと思う。そんな訳はないのにね。ただ、こういう理屈を成立するために彼は無数の因習をでっち上げ続けた。そしてそれが最悪な形で花開いてしまった」
また一歩近づく。先程までの無の心が無くなる。怖い、怖い。うぶなさまと蒼の手を掴む。怖い、二人を見る。いつも通り可愛い。でも…彼女達も怖い。
「うぶなさまは本物すぎたんだ。その因習を喰らいながら彼女はそれを本当にしてしまった。神と交われば神になる。そして、その神が人と交われば神になる。そういう理屈が成立してしまった」
それは…その意味は…うぶなさまを見る。その顔はちょうど影で分からない。灯火をもっと光を!
「うぶなさまはね、君に一目惚れしたってのは本当さ。君を見たその日に君を神にする算段を付けた。そして、それを隣の蒼は幼い頃に既にそれを察して言葉にしないままここまで来た。蒼も規格外の天才だよ。二人はそれを言葉にしないままここに来たんだ。そりゃ二人共泣くよな。言葉にせずとも同じ思いだったんだから」
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