17話 うぶなむらとは?

「初心名村とはそもそも何か?」

『やばい宗教がある村』

『いや、そこまで露骨なヤバ宗教って感じしないでしょ』

『まー、実際、住んでる人からすれば楽園って感じなんじゃない?』

『いやいや、それってさ、ヤバ宗教の内部インタビューみたいなもんじゃん』


「住んどるからしゅちゅう、秘密をいいんしゃい」

『それ、勿体ぶるな』

『はよ話せ』

『三郎イライラで草』

『気持ちは分かる』


 ドローン二つがぐるぐると回りながら俺達を映し続ける。


 初心名村ダンジョンを歩きながら釣山薫は俺の前で推理を披露する。俺の後ろにはうぶなさま、蒼。それを聞きながら付いてきてる。俺はスマホを手に括り付けてコメントをみちゅう。これは蒼がくれたもんや。いつでもコメントが見れる。


 雑魚の灯火が消え始める、この通路にも歯ごたえのあるやつが出てきたかと前を見る


 釣山薫の後、そこに立っていたのは無数の骸骨の騎士やった。俺は飛び掛かる。身体が勝手に動き、そのまま相手を切り刻む。綺羅びやかな宝石を落としたが俺は拾わんかった。


「続けていいのかい?」


「はよ言わんかい、この程度で話聞き逃す俺やない。耳がええんや」


「そう?じゃあ、うぶなむら、その正体を話すにはまず茅葺剛太郎という男について話をしなくてはならない」


 嫌な名前、手が少し止まる。他の連中が襲ってくるが脇から銃口だして撃ち抜いていく。耳だけやのうて反射神経も理由が違うんや。


「そもそもこの村には神の挿げ替えという因習があった。ただ、これは一言でいうと単なる信仰の切り替えにすぎなかった。天変地異が良く起きたこの地区では信仰心そのものが根付かない。奇跡が起きないから神も仏も信じれない。だから、この村には信仰の痕跡が山ほどある」


「…当たり前のこというちょるな?

『ん?』

『いや、信仰ってそういうもんじゃないんじゃないの?知らんが』

『ってかそんな俗っぽい感じなの?』


 コメントが少し荒れる。なんや、おかしなこといっちゅうか?


「まずそこだな、この村は

『え?』

『うぶながみ信仰があるだろ』

『いや、そもそも信仰が根付いてない地域だから…信仰がないのは当然か?』

『だから力あるうぶながみ様が信仰の基盤になったって事だろ?』

『それって信仰とは違うんじゃない?金くれるからあなたを信じるみたいなもんだろ』

 

「なんや、なめちゅうんか?信仰しとる。俺は誰よりもうぶなさまを信じとる。蒼もそうや、なあ?」


「さっちゃん、その通りやね」


「嬉しいわ、そやね三郎は私を信じてくれとるもんね」


 二人は頷く。そうだ、これは信仰心だ。そう、うぶなさまも言っている。


「いや、茅葺三郎。君は信仰とは何かを勘違いしている。基本的にね、信仰すれば確実に報われることなんてないんだ」


「あ?そんな理由あるか、信報われるから信仰する。当然の理屈やろがや。じゃあそいつは何のために信仰をもっちゅう」


「様々だね、死後幸福、来世への期待、代々続く教え、奇跡の目撃、地域的な柵、国家のシステムとして。あげればキリがない。でもねその大半が信じれば必ず報われるなんて思ってない」


 理解が出来ん。だがコメント欄は「何となく分かる」「ってかまあそういうもんだろ」「うぶなさまが異常なだけってのはある」なんぞ口々言っとる。なんや、これが世の常識なんか?


「元に戻そう、茅葺剛太郎はこの村の数十代目村長であり国政にも出たことのある権力者だった。そして、自分が愛する村をより成長させる為に神の挿げ替えを信仰の切り替えではなく本当に神を挿げ替えようと思った。でないとこの村が本当に滅んでしまうからね、


「自分たち?」


 蒼やうぶなさまを見る。わらっちゅう、なんで何も言わん。何が起きちゅう?


「この村には天変地異が起きてたと話だろ。それはね、別に天災では無いんだよ。先の話に付け加えるとね。。これに関しては映像記録として残っている。ネットを探し給え」


「何の話ぞ?元々の神?神様はうぶなさましかおらん、土地神、なんのことぞ?あんなんネットの掲示板でのでまかせにきまっちゅう!!そんなン信じとんかお前は!!」


 答えもせず、説明を続ける。骸骨騎士の落とした首飾りを踏み潰す。一度の死を無効にするらしい。いらんが、そんなの、この勾玉で同じことが何度でも出来るが!


。君がいったんだ。それは村の習わしってことだ。村人も同じことを思って信仰を辞めて、新しい信仰を探した。十字架や鳥居がそれだ。でもね、世の中に広まる宗教ってそこまで都合よくないんだよ。そして土地神は自分が捨てられと理解して、村を滅ぼそうと天変地異を起こし続けた。それを防ぐためにまた別の信仰を探した。天変地異と信仰の切り替え、どちらが先か今では分からない。でもこの連鎖が繰り返されてこの村は疲弊してた」


 そして釣山薫はうぶなさまに指を指す。


「だから茅葺剛太郎はうぶながみという本物の神を持ってきたんだ。どういう人脈かは分からないが凄いよ。そして、村人達の移り気な信仰の切り替えと本当の意味での神の挿げ替えが混ざって成立したんだ」


 知らん話が山ほど出る。頭が痛なる。


「だからこの村には信仰が無いんだ。きっと最初は産土神信仰もあったんだろう、でも捨てた、実が無いから。そうやって信仰の旨味だけを吸い尽くしながら生き続けた信仰無き村、それがここさ。名前が常用漢字でないのも理解出来る。語るのも悍ましい村だからさ、なんせ神を食い物にしてた村だからね」


 怒りより先に恐怖があった。俺はそんな話を一度も聞いたことがない。


――――

【すごいぞ】初心名村チャンネル監視板17【オーディエンス】


49 名無しですが何か?

信仰版鶏が先か、卵が先かってこと?


50 名無しですが何か?

多分そう、配信見る限り


51 名無しですが何か?

ってか何で骸骨騎士をあんな簡単に倒せるんや


52 名無しですが何か?

S級案件やぞ


53 名無しですが何か?

いや、土地神って最初からいるんじゃない?それやったらそもそも挿げ替えの話成立しないんじゃない?だって最初からそこにいるんやろうし?


54 名無しですが何か?

いや、土地神って土地から発生する無形神とそれの管理者として動物が化身になって住み着く有形神の場合があるから、後者だったんじゃね


55 名無しですが何か?

近隣村の歴史調べてたら。遊部村ってのが出たけど、ここは蛇やな。


56 名無しですが何か?

元々、信仰を捨てるのが癖になってる村が本当の神と気付かずにまた捨てようとして罰が当たったと


57 名無しですが何か?

うおお…やっべ


58 名無しですが何か?

ひええ…罰当たり


59 名無しですが何か?

ダンジョンよりも恐ろしい人の欲


60 名無しですが何か?

本当に怖いのは人間かもしれませんね


61 名無しですが何か?

カスみたいなオチ


62 名無しですが何か?

うぶなさまって何処から来たって話あったじゃん?


63 名無しですが何か?

あったな


64 名無しですが何か?

これと関係ある?


65 名無しですが何か?

いた場所、特定出来たかも


66 名無しですが何か?

何処?ってかどうして分かるん?


67 名無しですが何か?

いや茅葺剛太郎のこと調べてたらうぶながみ様の記述をしてた記録が見つかった。鯖内に。


68 名無しですが何か?

釣山以外にSuperハッカーおるの笑う


69 名無しですが何か?

お前はなんなんだよ


70 名無しですが何か?

で何処?どっかの神域、まさか由緒ある神社のクソデカ神?


71 名無しですが何か?

某三大宗教の救世主だったり


72 名無しですが何か?

盛り上がってきたな!!!おい!!


73 名無しですが何か?

いや、ダンジョン。東京一番ダンジョン。


74 名無しですが何か?

は?


75 名無しですが何か?

もしかして宗教施設がダンジョン化したタイプ?


76 名無しですが何か?

いや、普通に高層ビルがダンジョン化したやつ。難易度はえげつないけど宗教的な意味合いはほぼない場所。S級ダンジョンで東京で一番最初に発見されたダンジョン。


77 名無しですが何か?

なおのことうぶなさま関係なくない?


78 名無しですが何か?

ここにうぶなさまがいたん?


79 名無しですが何か?

いや、そん時はそういう名前じゃなかった感じかもしれない。ってか、そもそも神様じゃないんじゃない?


80 名無しですが何か?

は?


81 名無しですが何か?

こんだけ力あるし、ありえんやろ、見たら死ぬ動画を出せる存在やろ。規格外やろ。


82 名無しですが何か?

まだ憶測だけどさ…もしかしてうぶなさまって現行でダンジョン災害を起こしているユニークモンスターなんじゃないの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る