釣山薫の初心名村ダンジョン推理配信前日譚・予告投稿

 某日、夏。規定のルールに則ってその映像は釣山薫のチャンネルから配信された。


―――


 小型配信ドローンによる映像。初心名村ダンジョン外部入口から続く通路に座る女性。少しばかし傷がある。


「どうも、釣山薫です。この配信をご覧になっているという事は私が既に死んでいる状況という事になります。ですが安心して下さい。これが配信されているという事は同時にこの国がうぶなさまによって滅ぼされていない証拠にもなっている訳です。では、少しずつお話していきましょう」


 立ち上がる、全身に細かな傷がある。コートの背中には血が滲んでいる。内側から出ている。 


「これから私は茅葺三郎御一行と接触します。その後、推理配信を投稿します。その時点では私は生きてるでしょうが最終的には2つの理由から私自身が生き残るのは不可能と考えております」


 腹を見せる。腹部が抉れている。


「これは変装していた際に他の老人に勘付かれ、襲われた際ついた傷です。私は複数のマジックアイテムを持っていますが必ず一つずつしか使えません。変装時は無敵に近い状態も解除されます。油断していました。どう考えても致命傷です」


 カメラが遠くを映す。無数の燈火がある。その奥に人が立っている。真っ黒い着物を着た酷く青ざめた男、茅葺三郎。刀と猟銃を握っている。


「もう一つはうぶなさまという存在です。仮に私が茅葺三郎の攻撃を無敵に近いこのマジックアイテムで防ぎ続けてもうぶなさまの攻撃に関しては対処できないことは確定です。そして、私が出す結論は必ず彼女の機嫌を損ねます。つまり死は確定しているのです」


 茅葺三郎の背後に大きな女が乗っかっている、うぶなさまである。そして、その奥に立っているうぶなさまがいる。そして、その横には少しやせ細り、何度か咳き込んでいる何処か陰気な雰囲気の少女・蒼がいる。


「ただ、私は逃げません。これは私が正義や真実を伝えたいからではありません。私は自分の知的好奇心と承認欲求を満たすために彼らに挑みます」


 どんどん進み続ける。彼女の息が粗くなる。傷を抑えるが直ぐに顔を余裕綽々にする。だが、それは徐々に崩れていく。


「死ぬのは怖くない、怖くないぞ、私は、私は名探偵だ、生きるんだ、これは公開されることはない。私が自分の手で消すんだ。そして、こういうんだ、いやーなんだかんだで生き残っちゃいましたってね。その後、サブチャンネルでお菓子食べる動画なんかあげちゃうぞ、みんな見てて下さいよ、へへ」


 カメラの方を向く釣山薫。その顔は酷く怯えていた。


「ね?そうでしょ?未来の私?」


 映像終了。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る