16話 うぶなさまとこたえあわせ
「ども皆さん、今回も別ルートの探索をしていきます」
『お、この前のは探索し終えた感じだもんな』
『先週は確か脇道からの隠し通路だっけ?』
『そうそう』
『初心名村ダンジョンも随分と分かりやすい図面が出るようになったな』
『HPも結構充実してるし、今度行ってみるか』
初心名村ダンジョンのサブサブルートを探索しながらコメント欄のトボけた感じに癒やされていた。ドローンが宙に浮かんでいる、それが俺の顔を映している。配信画面を見る。酷く疲れている。
「さっちゃん、どしたん?」
「いや、いやなんでもない、色々あって頭混乱しとるだけ。俺はこの配信をしっかり育てる。それが目的や」
視聴者数は10000を超えてる。コメントもすごい勢いで流れ続けているがその全てを蒼が管理してる。俺に好意的なコメントだけ拾ってくれている。ありがたい。ありがたい…。
「だいぶレベルも上がってきましたね。出てくる連中も素手ではキツくなってきました。量も多いですし」
『ってか、素手で処理出来てたの怖すぎ』
『スライムの核を素手で握りつぶす男』
『天井を当たり前みたいに歩くな』
『ってか八柱についてなんかコメント…』
「良くない意見があるね、蒼、しっかり消さにゃ」
「すみません、うぶなさま」
うぶなさまの手にもタブレットが握られている。多分、コメントを消してるんだろう。文明を理解して、よりこの時代を理解している。俺はそのやり方を知らない。
迫ってきたドラゴンナイトの頭部を刀で叩き落とす。殺すのばかり上手くなる。既に意識は無い。反射的に敵の挙動を読んで攻撃をしとる。だから相手がこちらに出来ることは何も無い。
素手なら苦戦する。でも武器持てば一瞬で終わる。味気ない。まるで空気を食っとるみたいや。
「三郎、どしたん?帰ったら奥座敷で可愛い女の子達が沢山待っとるよ?床入れせんでもええから、おみきだけでもお飲み?」
「そうですね…でも今日は離れで寝ます。本当になんか疲れが取れないんです。蒼、今日は三人でゆっくりしよや?」
「いいよ、さっちゃんがそう言うなら私もそう思う、うぶなさま、やっぱ奥座敷が負担になっとるやないんですか?」
「そげなことない、大和ちゃんも一生懸命頑張っとるし、そういう気持ちを無碍にするのはあかんやろ?ましてやしきたりや、なんの問題もあらへん」
二人は少しばかし意見をぶつけ合っている。俺はそれが少しばかし重荷になって前に進み続ける。前にはドローンがある。感情無く俺を映している。雑魚の灯火が辺りを照らし、先が見え続ける。
それはあの夏の日を思い返すに相応しい光景やった。
―――
ある日の夏
祖父や父も死んで村長代理として駆け抜け続けたある日、押入れの方に何や知らんぴこぴこを見つけました。
それはゲーム機でどうにか蒼に頼んで繋いで貰って電源を入れました。
それはRPGというジャンルのもんで冒険をして敵を倒していくもんでした。多分、父が遊んでたようなので続きからになってました。
最後の敵も倒してたらしくて俺はただ今ある強い装備と仲間を引き連れて道中の敵と戦い続けてました。ゲームを最初からやり直せば、きっとこの物語を知れたんかもしれません。
でもそれが酷く怖くて俺はずっと飽きるまで敵を倒し続けてました。
夏の暑い日、照り返す地面から日差し、麦茶の揺れる音、扇風機、蒼が俺の横顔を見ている、ゲーム機に残った父の香り、遺影、遠くの方でうぶなさまがこちらを見ておられる、何処か陰鬱なゲーム音、柔らかな手がふとももに触れる、うぶなさまがおぶさる、「ねえ、もう飽きたやろ、あそぼ」、蒼の口が俺に触れる、うぶなさまの手が俺の身体をまさぐる、ボタンを間違えて押す、GAMEOVERが表示される。
そのまま俺は床入れをし続けた。
―――
「何もかもが上手くいっている、なのに足場がふらつく感じがある」
『何この声』
『いや聞いたことある』
『ってか、今見たぞ』
『何を?』
『コラボするんだろ?』
スマホを見る、コメント欄が荒れまくってる。後ろをみるうぶなさまと蒼が走ってこちらに来てる。随分と早歩きだったようだ。
確かに聞こえた声、誰だと構えを取る。灯火の奥よりやってきた、それは異国の密偵に見える。
「初心名村は安泰だ、これから先もきっと成長し続ける。あなたはそこで王になる。いや…神になるかな?まあこれも追々話そうじゃないか」
『は?誰とコラボ?』
『今、あっちも配信してる』
『ってかスレが凄いことになってる』
『村もメッチャ凄いぞ』
馬鹿に熱いこの場所で全く合わない厚手の服を来ている。蒼のファンション本に書いてた、トレンチコートってやつである。
「既に情報も集め終えて、扇動も十分終わった。既に撒かれた種は十分に実り始めている。茅葺三郎、茅葺蒼、うぶながみ、大和灯里、それぞれの思惑は完璧に絡み合った。今こそ収穫だ」
『マジマジ何が起きてる感じ』
『起きすぎて分からない』
『村で何が起きてるの?』
『大和も配信しながらこっち来てるの!!』
『なんで???』
頭には茶色の帽子、その手にはステッキ、虫眼鏡、そして胸にはバッチがついている。子供心、祖父の遺品整理をしてた時に見つけた小説。そこにいた奇妙な格好の男。だが眼の前にいるのは女。酷く顔がいい。だが本質は同じだ。
「私をもっと有名にしてくれよ、みんな。今回の配信だって最高に面白くしたいんだ」
その背後には小さな配信ドローン。村の異物。その表情と目を見る、俺を探ってる。気に入らん。
「誰ぞ、お前」
「おっと、お初にお目に掛かります。茅葺三郎様、私、ダンジョン協会専任S級冒険者をやっています。釣山薫と申します」
馬鹿みたいに頭を下げる。敬意もクソもない形だけの儀礼。こいつそのものがペテンや。そして顔を上げた時、好奇心そのものみたいな下品な面を見せる。全てが気に食わん。まるで何でも知ってるみたいな顔や。
「ええ、知ってますとも。私、及ばず乍らも名探偵を名乗っておりますので」
「そか、お前に聞くことはなか、死ね」
俺は軽く地面を弾いて刀を振る。相手の頭に振れる瞬間、動きが止まる。銃も追加で打つ、だが相手の眼の前で全部止まる。なんやこいつ、手品師か?
「話を聞いて下さい。私としてはそのためにここに来たんですから」
「何も聞くこと無か」
「彼女たちの目論見とこの村の秘密とうぶなさまの正体とあなたの行く末にも興味がない?」
ある、そう口が動きかけた。だから俺は刀を下ろしてしまった。きっと生涯後悔するだろう。でも駄目だった。生まれて初めて持ったこの感情。
これが好奇心なのだろう。
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