配信者・大和の誰でも分かる初心名村ダンジョン解説

 私は初心名村外部入口の前に立つと作務衣の汚れを取ってちゃんとした姿勢になる。眼の前には配信カメラがついたドローン、とある人の置き土産です。


「はい、皆さんこんにちは!私、元A級探索者の大和って言います。ブログで結構有名だったんですけど(笑)覚えてますか?今私はこの初心名村で第二の人生を送ってます」

『え?大和じゃん?』

『ってか女だったん?』

『ブログの最後の方でなんかそれっぽい事言ってたな』

『ってか、なんやそのエロ衣装!!』


「はは、なんかネットのコメント欄ってあんまり変わらなくて安心しました。っていうか、これ!エロ衣装じゃないですよ!!初心名村で結構流通してる服装です!若い人用のが少ないので今目下制作中です(笑)」

『凄い昔の感じを感じる』

『どんな日本語?』

『でもなんか分かる』

『ブログからそのまま抜け出した感じがある』


 私は昔なじみに会った気分になりながらドローンを引き連れて外部入口に入っていきます。うぶなさまが作り出したこの道は無数の袋小路や様々なトラップが仕込まれており、お供えを生きたまま確保することに向いてます。


 それらを経由しながらそれについては話しません。


「この順路を行けば幾つかの湧きポイント、ゴブリンやスライムの狩り場に行けるので是非立ち寄って欲しいです」

『なるほど』

『説明が上手い』

『三郎ではこうは行かない』

『あれはあれで面白いが』


 三郎様についての悪評を言った人間に関してはコメント書き込み先を特定するように蒼様に進言します。こういう不敬者は村の災いになります。注意しないといけません。そして本道にたどり着きます。するとコメント欄は少しばかり盛り上がります。


「此処から先が初心名村ダンジョン本道になります。三郎様が調査しているルートなので皆様方はあまり荒らさず、三郎様・うぶなさま・蒼様を見かけましたら必ず一礼をして退散をお願いします。ちょっと堅苦しいですが(笑)」

『そうなんか…』

『マジモンの宗教施設じゃん』

『あ、なるほど分かりました。ありがとうございます』

『でもここが一番旨味ありそう』

『ってか、完全に信者じゃんwww』


「信者?信者ってどういうことですか?」


 コメントの一つに熱くなってしまいます。私はただ、素晴らしい三郎様やうぶなさまに対する信仰を皆様に伝えたいだけなのに。この階層の主であろうドラゴンがこちらに火を拭きます。話の邪魔なので腰に下げてた斧で一撃で潰します。


「私は少なくとも三郎様から信じろと強制された事はありません。うぶなさまもです。自発的に生まれた信仰なんです。それをさもカルトの如く語るのは如何なもかと思います」

『全くのそれ』

『言い過ぎ』

『いや、なんでそんなマジなんって思っただけで…みんな怖い』

『いやいや、これは本当に問題』

『こっちが勝手に信じさせて頂いてるだけ』


 賛同者が集まり、私は嬉しくなります。奥座敷に人が増えれば、村の子孫が増えます。座敷の長としてその人達を統率しなければなりません。ジジババからの期待もあります。蒼様だけに負担を掛ける訳にはなりません。三郎様は屈強であらせられる。その精も常に漲ってるでしょう。蒼様は…家に籠もる事が多いので十分に人嫁を果たせないでしょう(笑)


 その発散が我らの役目になるのです。


「もしご興味がある皆様、是非初心名村へ。優しい人達、素晴らしい環境、最高の村長様、そして心より信頼できる神様がいます。ダンジョンも大盛況、きっと何不自由無い暮らしが出来ます。是非、御一報を」

『了解』

『OKでーす』

『今度行きます』

『どしたんみな?なんか感じ違いすぎだって、もしかしてこれって限定配信?』

『いや』

『それが分からんのは当然』

『いや、それって?』

『今に分かる』


 配信を無事終えると蒼様がドローンを回収に参りました。三郎様は今日はいないです…がっかりです…


「大和さん、ご苦労さまです。流石、口が回りますね。私達では立ち行かない所をしっかりと補強して下さる。本当に助かってます」


 蒼様の目は少し淀んでおります。私を見る目はいつもこれです。


「いえいえ、私は本当にお手伝い出来る事を手伝わせて貰ってるだけです!!」


「そうですか、ですが少しばかしさっちゃんを信奉しすぎている所がありますよ。あくまでこの村の根幹はうぶなさまです。お許しがあるから良いですけど、あまり踏み込みすぎないで下さいね。まだあなたはこの村を知らんので」


 蒼様の口ぶりは常にこれです。少しこちらに距離を取らせる。ただ、こっちにも良い情報があります。


「そんな私は何も知らないですよ。ジジババ様から色々聞いてるだけです。蒼様も身体が大層弱い様ですから。床入れもしんどいんじゃないんですか?私にお任せ下さい。冒険者として身体を鍛えてるので、そう簡単にバテないですよ」


「…ありがたいわぁ」


 そう言ってドローンを取っていきます。私は奥座敷での夜を思い出してほくそ笑みます。蒼様はほんまに身体が弱い。きっと三郎様も満足してない。


 …私なら

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