第14話 うぶなさまとあおいとやまと
「すなまんだ」
あの配信者を供えてから数日、俺は茅葺屋敷の高座から降りて頭を下げていた。そこにはうぶなさま、蒼、大和がいる。ジジババ達もぼつぼつと集まりながら「えらい騒ぎやった」「カメラ向けられて怖かったわ」「大和ちゃんのお陰で助かったわ」「ありがたやうぶなさま」と口々に話しとる。
皆に迷惑かけた、それどころかもっと大きな騒ぎになる。俺が感情的になったせいや。
「すまん、俺が勝手にあいつを供えたせいで。これからどないしようか…」
「ええんよ、さっちゃん、大丈夫なんよ」
俺の頭を上げる手、蒼である。いつものような洋服だが少しばかし胸元が空いとる。そういう服は二人の時しか着ない筈や。その上、化粧もしとる。どしたんや?
「蒼、なんか今日変やぞ」
「ん?変なぐらい可愛ってこと」
「いや、いつも可愛いんやけど。そうやのうてな、何が大丈夫なんや?アレだけの人数を供えて、全員が都会の人間やろ。きっと明日にでも沢山の人が捜索に…」
「それが大丈夫なんよ」
蒼は俺を立たせる。ジジババ達が「おお、三郎様」「そげなお顔をせんといてください」「わしらは大丈夫です」など言ってる。ジジババは古い人だから知らんのや。都会モンを消しすぎればそれに連なる人が来る。だから少しずつ供えてた筈なのに。
「さっちゃん、私がちょっと確証のある噂を新聞やTVに流したんよ。そしたら今、あの人達はどっか遠い国に逃げたと思われとる。おかしいね」
「そ、そなんか。すまん、俺の尻拭いさせて…」
「ええんよ、人嫁やもん。それにな、今回の事は凄くええ事やと思うんよ。私達の力をダンジョン協会に教えれた。これで交渉も出来る」
ダンジョン協会?ああ、ダンジョンに入る冒険者の組合みたいなもんやろ。家に認定書が届いとったわ。かっこよかったわ。それと交渉?なんや、何の話をしとんや?
「きっとあっちからコンタクト取ってくるわ。そしたら強気に出てくれたらええ。原稿は私が考えるけん、安心して」
分からんが頷く。
「そ、そうか?ただ、こんだけ沢山人が消えたらもう人がこんなるんやないか?」
「それはありえません!!三郎様」
大和も立ち上がり、俺に歩み寄る。その服装は作務衣なんやけども何処か艶めかしく見える。薄手なのか下着を付けてないのか、目の毒やわ。俺は既に人嫁と神嫁がおる。浮気なんぞしとうない。俺はぷいと顔を逸らす。
「SNSなどを利用しながらこの村の素晴らしさ、信仰、思想を理解してくれる村人候補を募ってますがどんどん増え続けています。無礼な人達ではありません、私みたいに救われなかった人々です。どうかもう一度お救い下さい」
そして、膝を付いて両手を組んで頭を下げ祈りの姿勢を取る。知らん所作や。海外の神か?いや、もっと不味いのはその方向が俺に向いとる。ちがう、間違っとる。それはうぶなさま、もしくは社に向いて…
「三郎様!」
「は?いや、俺はあんたを何も救ってない。あれは言葉の綾や。救ったんわ、あくまでうぶなさま。俺の言葉なんかはその間に挟まる緩衝材みたいなもんでな」
「三郎、どしたん、えらい騒いで。落ち着き」
うぶなさまがおぶさる。妙に温かい。服を着てない。なんや、なんかおかしい。御戸開でも無ければ水場でもない。ジジババは庭に通ずる扉を横に引く。三郎ちゃんも隅に置けんねと笑っちゅう。なんや、何をいっとんや。
「あん時の三郎、凄い怖い顔してたもんな。八柱?アレが気に食わんかったん?」
「そげなことは…」
「羨ましかったん。自分にない何もかも持っとる都会モンのあいつが…」
「そげな…」
「だから殺してから供えたんやろ?」
瞳孔が開くを感じる。頭に血が上る。そう、俺はあいつの言う言葉が全て疎ましくなり、この手で八つ裂きにした。そして、それを供えた。本来殺す前に供えないとあかん。手順を逆にしてもうた。何されてもおかしくない。俺が、俺が唯一誇りにしとるこの村の風習や習わしを俺が、自分で踏みにじってしまった。
「ええんよ、三郎は特別やき。あんたは何でも許して上げる」
「駄目です、村の規範でないといけません。習わしや風習は理屈やのうてそうだから守らんといかんのです」
「そうなんやね、じゃあ村の習わしや。望む人が出て私が許可する。奥座敷を開こか」
高座の後ろに飾られた三種の神器、それらを蒼と大和が外す。そして、何かの紐を引く。なんやそれ、知らん、俺はそんなの知らん。うぶなさまは俺におぶさりながら息を吐く。それは糸のように俺に絡む。
「これはあんたのおじいちゃんの代のものやね。本来はここに人嫁以外の女の人を呼ぶんよ。でもあの人は私が袖にしたけん。ここに人を呼べんかったんよ。情けないわ」
「…親の話はせんといて下さい。聞きとう無いです。嫌な事ばかりです」
「三郎様、行きましょう。私、床入れは初めてでして優しくお願いします」
大和も服を脱いで奥座敷に向こうとる。そこには布団が引かれているが何処か薄暗い。離れとは違う。まるで…人をしまい込む様な…
「蒼、俺はお前の人旦那や。こんな事、浮気になる。それにおかしいやろ。人が嫁を三人も持つなんて?」
「ええんよ、さっちゃんは特別やし。それにな、さっちゃんがどんなに女の人と床入れしても最後には私の所に戻ってくるにきまっちゅう。私の人旦那やもん。別に座敷女に場所奪われるほど安い女や無い」
蒼も服を脱いどる。おかしい、こんなのおかしい。俺はただこの村を穏やかに豊かにしたかっただけや。こんなの間違っちゅう。
「あの子に恥かかしたらいかんよ。さあ行こか」
何処からこうなったか。俺は思い出してしまう。
―――
ある日の夏
葬儀を終えて俺は俺が殺した父と祖父の頭のない死体を見ていた。
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