第11話 うぶなさまからのかだい
「付いてきとるか?」
「が、が、が、がんばってーー」
「頭ガクガクしとるよ、蒼、速度落とそうか?」
「だ、だ、大丈夫!!!」
刀と銃をうぶなさまに預けて俺は狭いダンジョンをぴょんぴょんと飛び跳ねる。蒼はうぶなさまに抱かれて追いかける。その手にはしっかりスマホ、なんか知らんがかっこいい機械につけている。ジンバルというらしい。俺も欲しいわ。
「今回はみなさんの要望に合わせて現地調達でこの道をクリアしたいと思います。なんで武器は無し、勾玉も預けてます。」
『おお』
『なんかダンジョン攻略配信って感じだ』
『いやずっとそうなんだけども』
『ってことは最初は素手?』
『マジで?』
「そうですよ」
スマホでコメントを軽く見て胸元に戻す。手をぐぱぐぱとして準備完了。うぶなさまの雑魚火が周囲を照らす中、生き残ってるのが現れる。
「まずは遠目で敵を確認します」
武器を持った5匹のコボルト、それらが道を塞いどる。前3、後ろ2。前は剣で後ろは槍。おお群れとるだけやなくてちゃんと陣になっとるわ。
「こういう集団戦を一人で処理する時はまず正面から攻めるのは愚策です。かといって道的に裏周りも出来ません。なので上から行きます」
俺は足に力を入れて飛ぶ。相手の陣の真ん中に向かう。だが、相手も賢い。槍持が後ろに下がって俺に突きを入れる。それを掴み軸にしてそのまま滑り落ちる。槍持の一人が驚いてるその顔に拳。これで一匹。
そして槍も手に入ったのでこっからは処理みたいなもんやな。槍を回して剣持を潰して、残ったやつ串刺して終わり。
「はい、こんな感じです。こいつらの皮もちゃちゃと毟ったら毛皮の完成、武器も手に入ったんでもうこれ振り回せば勝てます」
『笑う』
『飛ぶな』
『空中回避するな』
『当たり前みたいに軽いジャブでコボルトの頭吹き飛ばすな』
『なんで槍をぶん回すだけで相手切り刻めるんや』
『ってかマジックアイテムで強さ底上げしてた感じじゃない?それって素?』
「そりゃそうですよ、うぶなさまの神旦那として五体を極めにゃあかんですからね。三種の神器も使いこなせにゃ意味がない」
「ま、これぐらいは私の旦那さんとして当然やね」
蒼と一緒に歩きながらやってきたうぶなさま、うんうんと腕組しながら頷いている。その手にはジンバルがついたカメラが握られとる。文明を使いこなしてる。流石、流る神やで。
「でもさっちゃんの凄さはこれだけやないんですよ。それもどんどん紹介します!」
足元をふらふらとしながら俺の方に来る蒼。あんま運動が得意な方やないから。床入れもそう何度も連続では出来ん。途中で伸びてしまう。
だが気力がある。俺の手から毛皮を取るとカメラに向ける。
「後、このさっちゃんが刈り取ったこの皮を加工して村の売店で販売します!是非、村来たら買ってて下さいね!サイン付きです。ね?さっちゃん」
「…商魂も逞しいなぁ。でもええな、外金もこれから必要やろうし。いくらでも書きますよ。サイン!!」
「私も書くよ、でも私の文字は神気が宿るけんね。下手すると神器になるかもね」
確かになとはっはと笑うがどうにもコメント欄は俺の動きについてまだ話してる。もしかしたらこんなに動けるんは都会でも珍しいらしいんか?それやったら嬉しい。都会もんに負けんもんがあるのは誇らしい。
「でもまあしょうがなかったんよな」
自分でも驚くほど疲れた声が出る。思い出してしまうわ。父と祖父が消えた日を。
――――
遠い昔の夏
「社が開かれとる」
「なんでじゃ?うぶなさまがお怒りじゃ」
「村離れの田んぼが腐っとる!!村離れの人もみんな死んどるわ」
「厄災や、なんでや、わしらは何も…」
「村長も宗次郎もおらんぞ!!」
「まさか開けたんか?社を?」
「神旦那でもないのに?」
「うぶなさまは閉じこもってしもうた」
「御戸開されるぞ、もう終わりじゃ」
「ことみのりが至るところに刻まれとる。もう村が壊れる」
「遊部村の神が死んだ」
「なぜじゃ??」
「この村に入ったらしい。多分、うぶなさまが引きこもったので好機と思ったんやろな。でも、位が違う」
「所詮は長生きの大蛇やけんな」
「でもどうする、もう村が終わるぞ」
「三郎を村長にすっか?」
「あの子はまだ子供ぞ?」
「それに若すぎる」
「うぶなさまに気に入られとったし」
「蒼を人嫁にして仮で立てるか?」
「蒼?あの子はどうにも不気味な子や。都会もんの血も入っとるし」
「でもさみしい子や。わしらが優しくせんでどうする」
「…そやな、わしらも元は…」
「わかっちゅうたら三郎呼んで村長に…」
「話は聞きました」
俺は茅葺屋敷の大広間の襖を開ける。そこには村の人間が入れるだけ入っている。皆の目が俺に向く。手をぎゅっと強く握る。隣の蒼が優しく触れる。目が合う。(がんばれ)と口がパクパクと動いとる。勇気が出る。
「父はうぶなさまを襲おうとしました。でも、失敗したんだと思います」
「そげなおそろしいことしたんか」
「なんでしちゅう?」
「本人から直接聞きました。その後に俺がうぶなさまにそれを教えました」
周囲がざわつく。俺は前に進む。じじばば達は道を開ける。高座に俺は正座する。俺の背後には刀、銃、勾玉がある。ここに座る意味、それぐらい分かっとる。
「今は村が乱れ、うぶなさまが厄災をばら撒いておられます、その上村長である祖父と次期村長である父は消えました。ですが今の俺には村長になる器、資格、実力があるとは思えません。なので是非皆様のお力をお借りしたい」
頭を下げる。蒼も同じく。じじばばのざわめきは大きく膨らんで最後に一つにまとまる。
「分かった、三郎。今この時より村長席を空白とする。ただし、もし三郎に力量が付いて、いなくなった村長の生死が確認出来たなら、その時点で三郎を村長にしてくれるよううぶなさまに進言する。これでよいな?」
「はい、若輩者ですがどうぞよろしくお願いします」
拍手が起きる。蒼も手を叩いている。だが、何も解決してない。頭を上げて社の方を見る。薄暗い雲に覆われて、村離れが泥のようになっている。
そしてうぶなさまの影が村を闊歩している。真っ黒なおべべを着て、ゆらゆらと彷徨って近づく人を祟ってる。この村は下手すれば明日にでも終わる。それでもやると決めたのだ。
でなければ…三人で祖父と父を供えた意味がない
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