第8話 うぶなさまは応援する

「じゃあ今日もやっていくかい」


「はいね!」


 初心名村ダンジョンに入ってからすぐ行った場所にあった隠し通路、今回はここから攻めていく。頭が飛べば突くぐらいに低い天井。少し窮屈さがある。


 蒼はスマホを持ちながら俺の周りを回っとる、うぶなさまはそんな俺等を少し離れた場所からみとる。手に持ったお供えをコリコリと食べている。おつまみみたいなもんやな。


「今回はうぶなさまは見学で、村長たるこの茅葺三郎が皆様に強さを見せつけたいそういう次第でございます」


「いいねえ!かっこいいよ、さっちゃん!」


「三郎、がんばりよー」


 蒼はいつもと違う長めの赤いスカートに黒のブラウス。何処かのファッション雑誌みたいや。うぶなさまはシルエットが出るウエディングドレスを着とる。蒼が取り寄せたらしい。

 

 嫁さんの応援はやっぱ嬉しいもんがある。


 そしてもう一つ気持ちが上がることがある。それは俺の手に握られているスマホ。これは…なんと俺専用らしい!まだ配信のコメントみるぐらいやけど、いつかはアプリも使ってみたいわ。


 画面を見る。コメント欄はまたまた大賑わい。視聴者数も4000を超えとる。


『これがS級ダンジョンか…』

『ってか、三郎、冒険者認定書とか持ってる感じなん?』

『どう考えてもない』

『それってやばいんじゃない?』

『B級以上で一般人立ち入り禁止やろ?』

『いや、生活区域に出来たダンジョンに関する自己防衛に該当するからギリいける』

『知性がうなりをあげてる』

『そんな法律があるんだ』

『去年制定された感じ』


 なるほど、本来やったらダンジョン入るには冒険者にならんと行かんのか。しかし、そんなのなり方は分からん。俺は村を離れれんけん、できりゃあそういう認定試験をしてくれる人が来てくれたらなという気持ちはある。分からんことが多すぎる。


 …っていうか聞く相手おるやんけ。


 俺を撮影しとる蒼のスマホに近づく。どしたんと首をかしげている。


「なあ、コメント欄のみなさん、冒険者認定ってどうすりゃええん?ダンジョン協会って所に行く感じなんね?」


『え、どうなんだろ。それが普通だろ?』

『支部が至るところにあるし、四国にもあるっちゃある』

『いや、確か実務をこなしてたらそれで行ける場合がある』

『なにそれ?』

『さっき言った生活区域に出来たダンジョンに関する自己防衛でもしダンジョン内外のモンスターを倒してダンジョンを抑制出来てたら特例として冒険者認定される』

『へーーーーーーーー』

『んで、そのためには映像記録が必須になる』

『…今じゃん』

『か、噛み合ってる』

『三郎!!!お前、今のままでいけ』


「まじかいな、んじゃなおのこと頑張らにゃいかん!!」


 更に活力が出てくる。うぶなさまが灯火にした雑魚達を他所に道を進んでいく。こういう時は大物を殺すのが一番や。そしたらきっと一発合格!…冒険者認定書みたいなんもらえるんかね。貰ったら仏壇に飾ってもええわな、まあ中には何もないんやけど。


「さっちゃんのかっこいい所とったるよ!めざせ冒険者!」


「三郎、あんたなら出来るわ。でも面倒かったら言い?手に入れたるから」


「ありがとな!」


 蒼とうぶなさまはいつの間にか隣り合ってがんばれーと一緒に言っとる。すごい度胸や。


 御戸開を撮影したことを蒼は話してない。俺もうぶなさまに言ってない。…これじゃあ共犯者やな。実際、布団の上でそう言った。そしたら『そうよ、さっちゃんと私は共犯者よ。だからお互い死ぬまで一緒にいよな。でないと…隠し事がバレてしまうよ』なんて言われた。ほんま賢い嫁やで。


「んじゃ、なりますかいな。冒険…者!!」


 背後の二人に手を振りながら前から向かってきた気配に刃を振るう。


 正面は闇。手応えが無い。腰に下げた猟銃をバンバンと打って牽制。それはするすると闇に消えようとする。俺は跳ねるように飛んで蹴り入れて、その顔面に刀ぶっ刺して猟銃を何発も撃ちまくる。


 火が灯ってない。強いモンスターってことや。うぶなさまと蒼が追いついて隠れてた雑魚が燃え始める。殺したそれは狼の外見をした人みたいな姿やった。


「はーやけに速い動きやと思ったら狼人間かいな」


「これはコボルトやね。こっちの道はこいつらが占拠してる感じやね。鼻が聞くし闇に潜んで襲ってくる厄介やね」


「どうする三郎?火力上げよか?そしたらこの道の敵全部燃やせるよ」


「それはええです、出来る限り頑張ります」


「そかね」


 うぶなさまはしょんぼりする。俺は頭を撫でて宥める。


「すみません、でも今回は冒険者認定のテストみたいなもんなんです。今回は我慢して欲しい」


「ええよ、その代わりこれ終わったら沢山お願いしてな?」


「はい、了解です」


 そういうとうぶなさまも上機嫌に蒼の下に戻る。二人嫁さんがいると気疲れは倍になるわ。少し休憩する。


 持った刀を見る。ガコガコになっとる。雑に振りすぎた。俺は白木鞘に刀収めて祈言を唱える。そして軽く叩けばいつものように刀は元に戻る。猟銃も同じ調子で弾を呼び戻す。これでいつもの調子やな。


 …何や知らんがコメントが動いとる。どしたん。


『なにいまの?』

『マジックアイテム?』

『いや、ダンジョン探索前から持ってただろ』

『なら尚の事なんだよそれ』

『説明してくれ』


 このコメントはいまいち分からん。


―――


 遠い昔の夏


「さっちゃん、狩り行くん?」


「そや、一緒に行くか?」


「いくー!」


 俺と蒼は祖父から借りた刀と猟銃を持って山に入る。狩りが出来ないと神旦那にはなれない。そう祖父に教え込まれた。ずんずんと進むと蒼の声が遠くなる。


「さっちゃん早いよー、ゆっくり歩こうやー」


「そげなこと言ってたら夜になるぞ。さっさと獲物を狩ってうぶなさまにお供えせにゃいかん」


「でもーわたし疲れたーさっちゃん、いじわるせんでー」


「…分かった!!おぶるからさっさと来い!」


「やったー、さっちゃんのそういう所が好きよ!」


 蒼を背中に乗せて山を登っていく。俺が力が強いのか分からんがやけに軽くして心配になる。それ言うと『ほんと口説くんが上手いんね、でもそういうのを言い過ぎると女の子は逆に不安になってしまうわ、私だけにしとき』やと。ほんま出来た人嫁候補やな。


 そんな軽口も足も急に止まる。周囲に気配、俺は蒼を下ろす。


「側におり」


「うん」


 猟銃を構える。草陰を通り、木々を登る、それはゆらゆらと揺れてこっちに近づいてくる。ひゅんと近くの岩場に降りたそいつ。この山に昔からおる真っ茶色の大猿やった。俺に狩れるか?恐怖が心を埋めるが服裾を掴む蒼の存在が勇気になる。


 守らにゃいかん、俺が、守らにゃ


「三郎、とにかく撃ち。そうしたらどれかは当たるき」


 声、それはうぶなさまの声。大猿も聞こえたんか威嚇しながらこっちに来る。俺は言われるがまま打つ、打つ、打つ、打つ。どんなに打っても弾が減らん。


 猿は最初こそ器用に避けたけども一発が足にかすめて動きを止めた。


「次はとにかく刀を振り回し、石に当たってもええ」


 言われるがまま刀を抜いて襲い掛かる。大猿の骨に当たって欠けてしまうが何度も何度も振り下ろす。もう関係ない。相手が死ぬまで叩きつける。そしてようやく…動かなくなった。


「や、やった!やった!!」


「さっちゃん!!すごいわ!!」


「う、うぶなさまが助けて下さったんや!!ねえ、うぶな…さま?」


 うぶなさまは俺の横に立っていた。白無垢を着て俺の前にあった大猿の死体に黒い爪を刺して器用に身体を切り刻んでる。そして、その中身を引きずり出すとそれを啜って食っている。そして、こっちを向く。その口には無数の歯が段々になって生えている。


 見てはいけんもんなんかもしれん。でも俺は目を離せんかった。そしてぼそっと言葉が出た。


「すごい、かっこええわ」


「…あんたは好きやわ」


 その意味を幼い俺は良く分かってなかった。

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