僕が写真を始めた訳け
久々に寿司を食べに行った。
きよみさんが言う。
「写真を撮らないでよ、髪の毛も無いのに・・まつ毛も無いし・・」
「いや、そうじゃあ無い・・そういう事じゃあ無いんだ。」
と返したものの、どう言えば解ってもらえるのだろうか・・
「あのね・・聞いてよ・・あれは僕が二十歳ぐらいの事なんだけど・・
僕はタイム社のライフという写真雑誌を取っていたんだ。アメリカの雑誌で・・写真ニュースのような雑誌だったんだ。ある時、雑誌の表紙を飾った写真に凄く感動してね・・それはヨーロッパの小さな町の公園でお婆さんが荷車に乗せたバケツの花を売っているんだよね。お婆さんはベンチに座って・・ベンチの背もたれに腕を乗せて・・疲れたのかその腕に額を乗せて眠っているんだ。だからお婆さんの顔は見えなくて、手の甲だけが生々しく写真に写っているんだ。お婆さんの肌で見えているのは腕の甲だけなんだよ。その皺くちゃのシミだらけの手がとても美しく見えたんだ。その手に彼女の人生の全てが現れているようで・・何というか・・撮影者の伝えたかった思いが二十歳の僕に届いた気がした。当時20歳の、色気盛りの僕が老婆の皺だらけの手を美しいと感じたんだよ。何という力だろうと思ってね・・一枚の写真が僕の感じ方を変えたんだよ、凄くいないか?。僕もそういう写真を撮りたいと思ったんだ。足が長くて胸が大きくてピチピチのギャルだけが美しいとは思わないんだ。髪が無くなって痩せてしまったけど、癌に負けないで優しい笑顔を見せるきよみさんを美しいと思っているんだ。きよみさんは僕には美しく見えているよ。」
私の思いが理解出来たのか・・
「解った・・」ときよみさんが微笑んだ。
https://kakuyomu.jp/users/minokkun/news/16818093084506919126
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