寿命

毎週金曜日、、

今日は医大で抗がん剤を静注投与する日だ。きよみさんはベッドで横になり点滴投与を受けている。点滴投与はおおよそ3時間を要する。


この頃のきよみさんはとても体調が良く癌患者である事を忘れるぐらいだ。

きよみさんは60歳だ、

日本女性の平均寿命が87歳なのだから、せめてきよみさんには70歳位まで生きてほしい。それが無理なら最低でも5年は生きてほしい。


この頃のきよみさんを見ていると余命10年が可能かも知れないとさえ思えてくる。


がん治療はバイクの両輪に似ている。前輪が抗がん剤治療で後輪が体調管理にあたる。前輪は医師が受け持ち後輪は患者自身や家族が受け持つ。体調管理に失敗すれば抗がん剤の副作用にやられて治療を中断することになる。

抗がん剤が癌と戦い、患者は抗癌剤と戦うのだ。そのバランスが崩れると治療はできなくなる。


きよみさんは投与を受けながら眠っている・・

私は手持ちぶたさでスマホをいじっている・・

何もしないで座っている時間は長い。


私は75歳になる。

日本の男性の平均は81歳位らしいから、私もそう長くはないと思うがどうだろうか?

私は何歳まで生きたいのだろうか?

人は何歳まで生きれば寿命を全うしたと言えるのだろうか?


イカは一年の寿命だ。マダコも一年の寿命しかない。

脊椎動物では、アユが1年、パンダが平均20年でキリン30年、ゾウは70年だそうだ。人は平均すれば70才ほどなので日本人の平均寿命は世界で最も長い。


日本・スイス・韓国・シンガポール・スペイン・・などは平均寿命が83歳以上の長寿国で、モザンビークやソマリアなどアフリカの国々には平均寿命が60才に満たない国も多くある。おそらくそれは幼児の死亡率が高く平均寿命を下げているからのだろう。


植物は寿命が長いと思われがちだが、一年草は基本一年の寿命しかない。樹木も、例えばクチナシなどは40年の寿命しかなく、白樺も70年程度と言われている。松も60年から100年ほどで人間とあまり変わらない。


桜のソメイヨシノも約60年・・長くても100年ほどと比較的短く、ヤマザクラが200〜300年とされている。なので観光地で見かける500年桜の看板は眉唾まゆつばである。


長寿の植物と言えば樹齢7000年の屋久島の縄文杉が有名だが、科学的な検証による推定樹齢は2000年程度なのだそうだ。どういう分けか日本の観光地の樹木の年齢は疑わしいものが多い。


私にもこんな体験があ。以前見たときは”300年ツツジ”と看板に書かれていたものが、5年後に行ってみると”500年ツツジ”に変わっていて驚たことがある。たったの5年で200才も年を取ったのだ。


何だろう・・大きく見栄を張るのが日本の文化なのだろうか?

・・鶴は千年亀は万年・・の諺も、ちょっと話が大きすぎる。

鶴の寿命は30年程度で、普通のカメは30年から40年、ガラパゴスの大型の陸ガメでも200才位と言われている。


ただし・・

植物には地下茎を伸ばして新たな株を作るものが多い。これはクローンなので遺伝子的には同じ個体と言えるのだ。本体は寿命で枯れても本体から伸びた新芽で育った新株は、遺伝子的には本体と同一とみなせるのかもしれない。

などと取り留めもなく考えていると、看護師が部屋に入って来て言った。

「お疲れさまでした、投与が終りましたのでね。」






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