第23話 旅立ち

 泉から帰ってきた翌日、3人は旅の買い出しに出掛けた。とは言ってもエレナのマントと食料ぐらいであった。

「バニラさん。ありがとうございます。大事にします」

「実用品じゃからな大事にする必要はないぞ。多少、刃に対して付与が掛かっているようだから、この前みたいに後から来られても少しは安心じゃ。傭兵は何か欲しいものは無いのか?」

「俺は・・・そうだなぁ、隣国に行ったら剣でも買ってもらうか。あそこは鍛冶が有名だから良い剣を売ってそうだ」

「鍛冶?」

「あぁ。ノヴィーラへの道沿いにある国だが、鍛冶と温泉が有名だな。まぁ、俺も1回しか行った事ねぇけど小さな国だったな」

「温泉じゃと。偶には湯に浸かるのも悪くない」


 数日後、3人は町門が開くのを待つ列に並んでいた。行商に出掛ける商人や護衛、3人と同じような旅人が列を作っていた。

「久しぶりに町を出るのでワクワクしてます」

「国境まで7日ぐらい掛かんぞ。今からそんなんじゃ途中でばてんぞ」

 エレナは少し興奮気味に話し、グレイハルトが窘めていた。

 町門が開き人々が歩き出す。3人もギルドカードを提示し町を出て行った。


 初日の野営でエレナは驚く。普通は交代で見張りをするのだが、グレイハルトは『見張りは要らない』という。寝ていても人や魔物の接近に気付けるのだそうだ。

 それにバニラがグレイハルトに抱っこされるように寝ている事であった。バニラとグレイハルトは男女の関係には見えず、どちらかと言えば親子のようであった。見た目は幼いがエレナと同年代であるバニラとグレイハルトがくっ付いているのを見るのはエレナとしてはモヤモヤするのであった。

 野営の食事はバニラが作っていた。迷宮内では火の精霊を召喚していたが、野営では他の人の目もあるので焚火を使い手際よく調理する。エレナも手伝い程度ではあるが料理に貢献していた。

 旅を初めて4日目の野営。森の近くの野営場で3人の他にも3組ほどが野営していた。森には魔物や盗賊がいるので他の組は交代で警戒しているようであった。カマドを作ったグレイハルトは森に焚き木を調達しに入っていった。エレナとバニラは夕飯用に干し肉や干し野菜の準備し始めた。

 しばらくすると奥にいた組の護衛が『魔物が出た』騒ぎ出す。

「バニラさん。魔物ですって!」

「ふむ。エレナ、行っておいで。森が近いから氷や水でな」

 エレナは杖を持ち駆けて行った。エレナが行った後、バニラは気配を感じて振り返ると大きな熊の魔物が2頭、森から出てきた。どちらも大きいが、片方は優し気で雌のようでつがいらしかった。雄がバニラに気付き威嚇するが、バニラは番を攻撃する気にはなれなかった。バニラは自身の魔力を番に向けて放出した。魔物であれば自分より強い者と認識するであろうとバニラは考えた。雄は『ビクッ!』として静止し、後ずさり、番は森の中へと消えていった。

「お前にしちゃ優しいんじゃねぇか」

 グレイハルトが近くから声を掛けた。グレイハルトも魔物に気付き森を出てバニラの様子を見ていた。

「妾も好き好んで殺している訳ではないぞ。脅威であれば排除もするが、あれは雌を思っての雄の行動じゃろ。雄が居なければ腹の子も難儀じゃろて」

「まぁ、確かにな・・・」

 エレナの方も問題無かったらしい。エレナが氷で足止めして護衛の傭兵が剣を振るって仕留めたようだ。

 他の野営組は『また魔物が出るかも知れない』と気を張っているようだが、3人はいつもと同じく夕食を食べ、焚火の周りに座り寛いでいた。

「こちらにも魔物が出たんですか!?」

「出たが、様子を窺って森に帰っていったぞ」

 バニラはエレナを怖がらせることは無いと思い話を誤魔化した。

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傭兵と吸血鬼のお話し 森野正 @morinoma

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