第22話 観光

 3人は町へと戻ってきた。町はいつもの喧騒で買い出しをする傭兵や迷宮へ向かう者と様々であった。

「バニラさん。お城への旅はいつ出発ですか?」

 エレナがバニラに問いかけた。

「そうじゃな。魔石の換金もあることだし、2、3日したらじゃな。どうじゃ?」

「いいんじゃねぇか。旅の買い出しもあるしな」

 バニラの視線にグレイハルトが応えた。

「じゃぁ。明日は『ヨナの泉』に行きませんか?この時期ならたぶん・・・奇麗な花が咲いていると思います」

「ほう。この町にはそんな名所もあるのか。いいぞ」

 バニラの快諾にエレナは微笑んだ。


 翌日、エレナは朝早くグレイハルトとバニラの宿を訪れ、3人で朝食を堪能していた。

「はい。お弁当、3個ね。ヨナの泉なら危険は無いと思うけど、最近は森に盗賊が出るらしいから気を付けていってね。まぁグレイさんがいるから大丈夫か」

 宿の女将さんが盗賊の話をしながらお弁当を渡してきた。

「おう。ありがと。盗賊ぐれいならバニラだけで大丈夫だ。俺は見物だな」

「またぁ!グレイさんたら冗談が美味いんだから」

 グレイハルトの話を女将さんは冗談だと思い笑い飛ばした。バニラは見た目が幼いので強いとは思われないようだ。

 3人は宿を出て町門で衛兵に外へ出ることを告げた。『泉なら大丈夫だと思うが、最近は盗賊が多いから気を付けるように』と衛兵に言われ外へと歩みだした。

「そんなに盗賊が多いんかね。迷宮があるから稼ぎには困んねぇんじゃねぇの?」

「どうなんでしょうね?私は盗賊より迷宮の方が安全だと思いますけど」

 グレイハルトとエレナが歩きながら会話する。

「人それぞれじゃな。エレナ、泉は遠いのか?」

「のんびり行って半日ぐらいです。泉でお弁当にしましょう」


 町の周りは畑が広がり、のどかな風景であった。時々、畑へ向かむ馬車や人とすれ違う。3人は畑の間の道を森の方へ進んでいく。森を抜けたところに目的の泉であった。町に近いこともあり森の道は木々が剪定され通りやすいように整備されていた。

 森の途中の広場で3人が休憩していると、森の中からガラの悪い連中が出てきた。

「今日の得物は上玉だな。女が2人も居やがる。ケケケケケケ。大男は要らねから始末しちまえ」

「ほう。此奴等こやつらが噂の盗賊か。相手の力量も分からんとはなぁ」

 出てきた盗賊を一目見てバニラは呆れた口調で呟いた。格上の相手を襲った時点で盗賊の負けは決定した。グレイハルトに2人、バニラとエレナに3人で襲い掛かってきた。

「エレナ。危ないから下がっておれ」

「そんなちっこい剣で俺らがやられるか!」

 バニラはエレナを後に下げ短剣を抜くが、盗賊はバニラの短剣を見てあざ笑った。バニラは1人目を横に、2人目を斜めに、3人目を縦に斬った。3人が同時に倒れる。グレイハルトも問題無く2人を倒した。

「きゃぁーーー」

「2人とも動くな!この女がどうなってもいいのか!」

 2人が後を振り返るとエレナのマントを掴みエレナを盾にして短剣を手にした盗賊がいた。

「この女は貰っていく。そこを動くなよ!」

 そんな盗賊を見つつバニラは溜息を付き無詠唱で魔法を行使した。盗賊は足元から凍り付き始める。魔法に驚いたエレナは盗賊に掴まれていたマントを脱ぎ捨て離脱する。エレナが振り返るとそこにはエレナのマントを手にして凍り付いた盗賊の氷像があった。

「あぁ!私のマントが・・・気に入ってたのに・・・」

「バニラに新しいのを買って貰え」

 エレナの肩をたたきつつグレイハルトが慰めた。

「お主ら、仲が良いな・・・。マントは妾が買ってやる。傭兵も何か欲しいか?」

 バニラは2人の仲の良さに嫉妬を覚えつつ購入を了承した。3人は町に帰ってから衛兵に報告すれば良いだろうと盗賊たちを広場の端に除け、泉を目指して歩き出した。


 森を抜けると泉に反射するキラキラした光が目に入った。泉の右側は一面にピンクの花が咲き、泉にも花が映るすばらしい光景であった。

「ほう。これは見事じゃな」

「私も町に来て初めて泉を見た時は感動しました」

「エレナは町で生まれたのではないのか?」

 3人は泉脇の広場に腰を下ろし弁当をつつきつつ話を始めた。

「ええ。私は町から少し離れた村の出身です。実家はお店を営んでいて、弟が居るので私は自由にさせてもらっています。村に傭兵を引退した魔法使いの方が移り住んできたので、私と弟は魔法を習いました。私には魔法の才能があったみたいで直ぐに覚えられたのですが、弟には無かったみたいで魔法をあきらめて剣を振っていました。4年ぐらい学んで、その方がこの町に迷宮があって2層目ぐらいだと危ない魔物も居ないから迷宮で魔法の練習をしなさいって言われて、村を出て町で迷宮に入って練習を繰り返しました」

「なるほどのう。この前、迷宮で見た限りじゃと一端の魔法使いになっているようじゃ。その元傭兵の教え方が上手いのじゃな」

「バニラさんにそう言っていただけると何だか嬉しいです。ありがとうございます」

「妾と一緒に城に行くと言っておったが実家は問題ないのか」

「時々、手紙で元気でいる事は伝えてありますし、弟が店を継いでいるようなので、修行の旅とか手紙で伝えれば大丈夫だと思います」

 バニラとエレナが話している時、グレイハルトは弁当を食べ終わり木に寄りかかって昼寝をしていた。

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