第21話 襲撃

 翌日3人は4層の野営地を後にして5層目へと降り立った。

「おや?今日は他の傭兵も居るようじゃな」

「町の迷宮だしな。何人か居るだろ」

「それもそうじゃな。被らないように行くとしよう」

 バニラは5層に入って他の傭兵に気付いた。それも20数人いそうな大規模なグループであったがグレイハルトの言葉に『それもそうか』と納得した。


 3人は前回も行ったオアシスを目指して歩いて行った。オアシスには花は無く葉が茂っていた。数日前に掘った場所も葉に覆われていた。

「さて。エレナよ。根を掘ろうか。結構な数があるようじゃ。良い稼ぎになるぞ」

「はい・・・でも、良く分かりません・・・」

「なんじゃ。お主もか?いや良く見るのじゃ。コレは葉がツルツルじゃが、コレは葉に毛が生えておる。これを辿って根を掘り出すのじゃ」

 バニラは茎を辿り土を掻き分けて根を掘り出した。根は拳大の球根になっていた。

「この根を煎じると毒消しになる。錬金術師に売るとか、エレナが作るとかすれば良い稼ぎになるじゃろ」

 バニラとエレナは根を掘っていく。エレナは時々、球根の無い葉を掘ったりしているが、少しづつ区別出来るようになってきていた。グレイハルトは2人を見守りつつ、周囲に魔物が居ないか警戒していた。

 2人は掘り続け袋一杯の球根を確保した。

「これだけあれば十分じゃろ。売っても使っても良いじゃろ」


 3人はオアシスを後にして前回バジリスクに襲われた渓谷に差し掛かった。

「待ち伏せが居るようじゃな」

「やっぱりそう思うか・・・俺もそんな気がしてたんだ」

「ん?」

 エレナは気付いていないがバニラとグレイハルトには渓谷に誰かが潜んでいるのが分かった。渓谷に差し掛かったグレイハルトが声を上げた。

「隠れている奴!俺らに何か用か?」

 その声にリーダーらしき男で、大剣を持ち重武装した大柄な傭兵が出てきた。

「そこの吸血鬼に用がある。素直に差し出せばお前らの命は助けてやろう。まぁ、迷宮から出れるかは知らんがな。ケケケケケ」

 グレイハルトは出てきた傭兵の話し聞いたが、どうみても格下の傭兵らしき男に背を向けバニラに話しかけた。エレナは『え?吸血鬼?何の事?』とキョトンとしていた。

「お前に用があるそうだ。知り合いか?」

「知らんが、依頼主は妹たちであろう」

 バニラは前に歩み出た。

「お主らは妾が誰か分かっておる様じゃが、誰に指図された」

「これから死ぬ奴に教える必要はねぇ」

「そうか。岩陰や崖上にも居るようじゃが、全員、お主の仲間じゃな。では、死ぬが良い」

 バニラは右手を上にあげる。襲撃者は剣を抜き走り出し、崖上から矢が飛んできた。バニラは慌てず『槍雷そうらい』と言って右手を振り下ろした。次の瞬間、襲撃者に槍の雷が降り注いだ。襲撃者は隠れていた者も含め1人残らず雷に撃たれた。

「相変わらずお前は見事だな腕だな」

「え?」

 グレイハルトは感心し、エレナは驚きにあんぐりと口を開けた。

 グレイハルトは襲撃者の装備や持ち物を確認するが、これといった物は出てこなかった。死体を一か所に集めバニラが燃やし埋める。


「さて、行こうか」

 バニラが何もなかったように軽く口にした。

「バニラさんって吸血鬼なんですか?」

 歩きながらエレナは疑問を口にする。

「そうじゃ・・・妾は吸血鬼じゃよ」

「あのなぁ・・・エレナ、子供向けの吸血鬼の物語りとか知ってるか?こいつはソレに出てくる吸血鬼らしい。で、俺らはこいつの城、ノヴィーラにある森に行くのに旅をしている。まぁ、迷宮は資金稼ぎだ」

 グレイハルトがツッコミを入れエレナに吸血鬼と自分たちの目的を説明した。

「お話しの吸血鬼って・・・子供を攫ったり、血を吸ったり、呪を掛けたり、悪さをする魔人ですよね・・・バニラさんがですか?」

「妾は子供を攫ったりはせぬぞ。血や呪はやるがなぁ」

「そいいやぁ。こいつは俺の血を吸って変身しやがったな。まぁ・・・そんで俺は助かったけど」

「2人は旅をしているんですよね。じゃぁ、私も付いて行きます。何だか楽しそうですし」

「何でそうなるんだ?」

 グレイハルトはエレナの考えに呆れた。どの辺が『楽しそう』なのかグレイハルトには分からなかった。

「エレナが良いのであれば妾は良いぞ。妾の城を見せてやろう」

 こうして3人でバニラの城に行くことが決まった。

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