第17話 看病
グレイハルトが目を覚ますと昨日野営した4層であった。近くには焚火がありバニラが座っていた。いつもは火の精霊を召喚して済ますのに珍しいなと思いながら身体を起こそうとした。
「うぅぅ・・・」
グレイハルトは身体に激痛が走り、起き上がることが出来なかった。
「まだ寝ておれ。その身体には、まだ毒が残っておる。それに弾き飛ばされた痛みもあろう。目覚めたのならこれを飲むが良い」
バニラはグレイハルトに近づきお椀を差し出した。グレイハルトがお椀を覗き込むと緑色の液体が入っていた。
「妾、特性の薬じゃ。解毒と痛みの緩和が入っておる」
グレイハルトがお椀から液体を一口。
「苦えぇぇ・・・」
「『良薬口に苦し』というじゃろ。我慢して飲むんじゃ。お主が良くならなければ地上にも帰れん」
グレイハルトは液体を我慢して飲み干し、お椀をバニラに返した。
「うん。暫くは横になっておれ。徐々に毒は抜けていくはずじゃ」
「あのバジリスクは倒したのか」
「妾の敵では無いよ。ホレ。これが戦利品じゃ。小さいヘビも数が多かったから魔石も大量じゃ」
バニラは鞄から大きな牙を取り出しグレイハルトに見せた。グレイハルトが対峙した時に見た口の両側にあった牙だ。
「そういや、お前、俺の首に噛みつかなかったか。それに『妾の傭兵』って聞こえた気がしたんだが」
「あぁ。妾が本来の力を発揮するには血が必要なのじゃ。それを頂いたまでじゃ。そもそも、お主は妾の傭兵じゃ。契約したじゃろ。お主はだれにも渡さんよ」
グレイハルトは『城に送って行く』とは言ったが契約した覚えは無かったが、『送る』ことが契約なのだろうかと首を傾げる。
「妾を『送る』と言った時点で契約じゃよ。クククク」
バニラはグレイハルトの疑問を見透かしたように言い笑い、グレイハルトは『何だかなぁ』と思いつつ眠りについた。
暫くしてグレイハルトが目を覚ますと身体が楽になったような気がした。バニラの薬が効いたのだろうかと思いつつ身体を起こす。まだ多少痛いが動けないほどではなかった。焚火の前にはバニラは居らず、代わりにデカい人形のような物が座っていた。
その物体がグレイハルトを見る。四角い顔に赤い目をしていた。グレイハルトは腰の剣を探るが、剣は見当たらなかった。物体は顔を戻し焚火を見つめた。
「起きたようじゃな。では飯にしようか。ご苦労じゃったな」
バニラは人形のような物体を消し去った。
「何だ、アレ?」
「ん?知らんのか。ゴーレムじゃよ。妾が居ない間、守らせておったのじゃ。それにお主をここまで運んだのもあ奴じゃ。妾ではお主を運べんからな」
「ゴーレムって岩がくっ付いて動く奴だろ」
「知っているではないか。アレは岩では無く土じゃがな」
バニラは作っておいたスープを温めるのにナベを焚火に掛けつつグレイハルトの疑問に答えていった。バニラは温まったスープをよそいグレイハルトの側に座り、2人は食事を始めた。
「やっぱり美味ぇな。野宿の時は料理なんかしねぇからな。いつも硬いパンと干し肉だしな」
「料理すれば良いではないか。スープぐらい作れるじゃろ」
「出来なくはねぇが面倒だろ。近くに水場があるとは限らねぇし。お前は水が出せるから楽だろうけどな」
「それなら魔導士とパーティーを組んだらどうじゃ。魔導士なら水も火も使えるんじゃろ」
「どうだろうな?そこまでの技量があるか分かんねぇけど魔導士は後衛だろ。自分の身を守れるか微妙だしな。お前みたいに剣と魔法が使えて料理もでき薬草に詳しくてっとなるとなぁ・・・」
「妾もお主と共にいるのは楽しいぞ。妾の知らないことを知っているしな。フフフフ」
バニラはグレイハルトをみて微笑みながら言い、言われたグレイハルトはバニラの言葉にそっぽを向くのであった。
「お前に飲まされた緑の液体は毒消しだったのか?毒消しなんか今まで飲んだことねぇからな」
「毒消しは5層の池で掘ったアレじゃ。土を水洗いすると芋みたいのが出てくるんじゃが、それを煮込んだ。緑色は痛み止めと回復薬の草の色じゃ。本来は漉すんじゃが道具が無いからな煮込んだ上澄みをお主に飲ませたのじゃ。苦いのはカヅラの液じゃろ。大分薄めたんじゃがな」
「まぁ何にしても助かった。ありがとう。傭兵だからいつ死んでも可笑しくねぇのは分かってるんだが、いざ自分がそういう目にあうとな、やっぱり生きたいと思うもんだな」
「何じゃ改まって。お主は妾の傭兵じゃ。守るのは当たり前じゃ」
食事を終えたグレイハルトは横になった。バニラは片づけをしてグレイハルトの隣で横になった。
「もうひと眠りすると良い。起きたら地上へ帰ろう」
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