第16話 迷宮
翌日グレイハルトが目覚めるとバニラが一緒に寝ていた。ベッドで熟睡していたとしても一端の傭兵であるグレイハルトには微かな気配でも気付ける自信があった。しかし、バニラがベッドに潜り込む気配にまったく気付けなかった。
「またお前は・・・自分のベッドがあるだろ」
バニラを批判するグレイハルトであるが、これ程、女性に好かれたことは無かった。娼館にも通い酒場で女を拾う事もあったが、どれも1夜限りであった。
「妾ほどの女じゃぞ。逆に添い寝に喜ぶべきじゃ。ククククク」
「はぁー。ったく・・・」
朝食を済ませ、宿には迷宮に潜る事を伝え、宿を後にした。
迷宮の入り口は町の北側の丘の斜面にある。2人は受付にギルドカードを見せ迷宮に入っていった。この迷宮は1層目は洞窟、2層、3層は平原、4層は森、5層は岩場になっていた。出てくる魔物も2人の基準では弱い。グレイハルトがサクッと倒し、バニラが魔石や素材を回収しサクサクと進んでいく。とは言っても広い迷宮なので4層目で野宿であった。
他の傭兵のいない場所での野宿はバニラの出番であった。グレイハルトが作ったカマドに手を翳し、サラマンダーを召喚した。ナベに手から魔法の水を出し、野菜、干し肉、香辛料を入れ煮込んでいく。ナベの横にパン、干し肉を並べ、遠火で炙る。
「相変わらず手際といい味といい、不思議だな・・・おっと、
「・・・ブゥーーー」
バニラはグレイハルトの言葉に頬を膨らませる。
「5層は岩場で毒持ちが多いようだな。クモ、トカゲ、ヘビ、サソリが出るそうだ。それも大量にな」
グレイハルトはギルドで購入した地図を見つつバニラに注意した。
「妾に毒は効かぬよ。妾自体が毒みたいなもんじゃからな」
「え?お前は毒持ちなの?やべぇ・・・」
グレイハルトが茶化した。
「妾は毒も持っておるが、毒への耐性が人種とは違う」
「ふーーん」
グレイハルトは分かったような分からないような曖昧な相槌をうった。
5層目は荒涼とした岩場で、時折、風が吹き砂埃が舞っていた。
「なんだかスゲェとこだな。まぁ、砂漠に比べれば、まだマシかな」
グレイハルトはバニラに出会った砂漠地帯を思い出していた。5層の中央にはオアシスのような池が存在し、そこには珍しい薬草が存在し花の咲く時期に巡りあえれば採れるという運任せの薬草だ。2人は地図を見ながらオアシスを目指した。
2人は小さな池に行きついた。池は中央付近から水が湧き出ているようだがどこかに流れ出ている様子はなかった。池の周りには背の低い草が所狭しと茂っていた。
「どこに花はねぇな」
「花は目印じゃ。似たような葉があるから間違わぬように花の付いた茎を辿っと根を掘るのにな」
「目印?」
「そうじゃ。例えば、コレとコレじゃが、見た目はそれ程変わらんが、コレは偽物。コレは本物じゃ」
バニラはしゃがみ込み草を2株指差してグレイハルトに説明した。
「ん?それ、同じ草じゃねぇのかよ」
グレイハルトには同じものに見えた。
「いや良く見るのじゃ。コレは葉がツルツルじゃが、コレは葉に毛が生えておる。この毛の生えた方が本物じゃ。これを辿って根を掘り出す」
バニラは茎を辿り土を掻き分けて根を掘り出した。根は拳大の玉になっていた。バニラは場所を変え根を掘っていった。
「これぐらいあれば十分じゃろ。この根を煎じると毒消しになる。ここに出る魔物に効く毒消しになるはずじゃ」
池を後にした2人は5層を見て回る。狭い谷間の道を進んでいくと行き止まりのようであった。
「何だ?地図じゃ道があるはずなんだが」
「魔物が塞いでいるようじゃな。ホレ!」
バニラが右手を差し出し火球を放った。火球が当たった物体は擬態を止め姿を現した。大きな口を開け鋭利な牙で威嚇する巨大なヘビ、バジリスクであった。腕が4本あり、それぞれに元は傭兵の装備であったであろう剣が握られていた。
「でけぇな。2人じゃ無理だ逃げんぞ」
2人の後方でガサゴソと音がしたと思うと大量のヘビが押し寄せてきていた。前方のバジリスクの前にも大量のヘビが出てきた。
「逃げるのも無理なようじゃな。罠に嵌ったようじゃ」
「・・・仕方ねぇ・・・死ぬなよ」
グレイハルトには盾で殴り剣で斬りさき、バニラは剣と魔法を併用しヘビを蹴散らしていくが大量のヘビは減る様子を見せなかった。
暫くするとバジリスクがヌルヌルとグレイハルトに迫って剣を振り下ろす。グレイハルトは盾で受け流し剣を振るう。バジリスクは4本の剣を巧みに使いグレイハルトを襲うが何とか躱し、捌きを繰り返し対応していた。誰が見てもグレイハルトは劣勢であった。そして4本の剣がグレイハルトを包み込むように飛来し、グレイハルトは盾と剣で防ぐが逃げ場を失ってしまう。そんなグレイハルトにバジリスクは口を開け毒液を噴射した。グレイハルトはよろけ、バジリスクの剣に飛ばされてしまう。
「傭兵!」
大量のヘビを相手にしていたバニラが叫び、渓谷の崩壊を危惧し自重していた大魔法を大量のヘビに放ち、グレイハルトに駆け寄ってきた。
「お主。大丈夫か?無理するでない。後は妾に任せるのじゃ。ちと痛いが我慢じゃ」
グレイハルトは飛ばされた衝撃と毒液によって意識が朦朧としていた。グレイハルトは消え入りそうな意識の中でバニラを見ていた。バニラは口を開くとグレイハルトの首筋に噛みつく。『チクッ』と痛みが走りバニラの喉が動いているのが微かに見えた。バニラは口を離し立ち上がる。
「よくも妾の傭兵に手を出したな。覚悟せよ!」
バニラは上着を脱ぎグレイハルトに掛けた。そしてバニラから魔力が吹きあがり辺りを包み、バニラが大きくなったようにグレイハルトには見えた。背はから大きな羽が伸び、目は赤くなり、口の牙は大きく伸びていた。
バニラは一瞬でバジリスクに近づく。バジリスクは4本の剣を振るい、バニラは短剣に魔力を纏わせ応戦する。バニラはバジリスクの2本の剣を折り、出来た隙に腕を2本切り落とした。バジリスクは口を開きバニラに迫るが、バニラは高く舞い上がり、バジリスクの頭に剣を突き立てた。
「消え失せろ!」
バニラが魔法を放ちバジリスクから飛び降りる。バジリスクは炎に包まれた。消え入りそうな意識で見ていたグレイハルトであったが、ここで意識を手放した。
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