第15話 迷宮の町
グレイハルトとバニラは小麦畑の広がる街道を歩いていた。迷宮に用があるのは傭兵と商人ぐらいのもので祭事に向かう人々の街道から外れているのですれ違う人もいない。
「
バニラは『疲れた』と言い、グレイハルトの鞄の上に座っていた。
「この辺には魔物も凶暴な獣も殆ど居ない。迷宮に潜る傭兵以外は皆、農業に従事しているよ。小麦作れる奴が居るから俺らはパンが食えるんだしな。俺らは・・・俺は戦う以外出来ねぇから傭兵してんだ」
「何じゃ。深い話か」
「そんなんじゃねぇよ。傭兵はいつ死んでも可笑しくねぇからな。安全な所で長生きが一番だ。傭兵を引退したら俺はどこかの村で酒場でもやろうかな」
「ふーーーん。その時は・・・妾は厨房で料理でもするか。ククククク」
「・・・お前は城に帰るんだろ。だから俺が送ってるんじゃねぇか」
バニラの何気ない一言にグレイハルトは『それもアリだな』と一瞬考えたが、今は城に送るという依頼の最中だったと思い返した。バニラはケラケラと笑うのであった。
共和国の迷宮の町ポリフラ。外敵の侵入を拒むために町の周囲は石塀で囲まれているが、それも昔の話で今は共和国の一部となり戦もなく迷宮があるだけの平和な町である。迷宮があっても住人全てが迷宮で糧を得ているわけではなく、元々肥沃な土地なので小麦や野菜の作付けが盛んであった。戦が無くなった事によって石塀の外にも住む人が出始め、街道沿いには住居や倉庫が建ち並んでいた。
2人は石塀の横で警備にあたっている衛兵にギルドカードを見せ町に入っていった。町の中は他の町と変わりなくメインストリートには店が立ち並んでいた。その中で他の建物より一回り大きなのが傭兵ギルドであった。2人はギルドの扉を開け中へと入っていった。
時間帯が午後という事もありギルドは閑散としていた。2人は依頼掲示板を眺める。
「まぁボチボチだな。俺らは5層までしか行かねぇから、この前と同じで薬草と魔石ぐらいだな」
「ここは何層まであるんじゃ。10層にいる魔物の角とかいう依頼があるようじゃが」
「ここは20層あるって話だ。攻略してあるらしいから暴走したり突飛な魔物が出ないって昔聞いたな。下層まで行くには食料運んだりする奴が居ないと無理だ。最低でも攻略5人、運搬5人の10人パーティーは必要だな」
「ほう。そんなに大変なのか」
迷宮攻略に来たのではない2人は掲示板の前でそんな話をしてからギルド受付へ向かった。受付で手続を済ませ売店へ入った。グレイハルトは迷宮の地図を購入する。
「地図が必要なのか?昔来たのじゃろ」
「あぁ。新しく分かったルートとか新種の魔物とかが書いてあるからな。最新の地図があれば移動も楽だ」
「ふーーーん」
「お前は・・・さては興味ねぇな」
バニラはグレイハルトに指摘され笑うのであった。
ギルドでおすすめの宿を聞いた2人は通りをあるき宿へと向かった。宿は一般的な2階建てで1階はお決まりの酒場になっていた。2人部屋を確保し荷物を置き、夕飯は宿で食べるにしても観光も悪くないと2人は町に出てきた。通りの店を眺めながら町をブラブラする。
「昔、来た時より華やかになってる気がするな。当たり前か」
「昔とはいつじゃ?」
「うーん。15年ぐらいになるかな。東の国で駆け出しばかりでパーティー組んで傭兵してたんだが、仲間が1人、怪我で傭兵を辞めてな。そいつが辞めてからパーティーがギクシャクして解散したんだ。そんで同じ町で傭兵するのもアレなんで旅にでたんだ。それが20年ぐらい前だな。あちこち転々として討伐したり迷宮潜ったりして、そんでここの迷宮にも潜った」
「ふむ。傭兵に人生ありじゃな」
「お前は俺をバカにしてんだろ」
2人は町の広場に辿り着く。そこには屋台が出ていた。屋台では今まで見た事のない、小麦粉を水で溶き、薄く焼いたものに野菜や肉を挟んだ『ガレット』というものが売られていた。2人は顔を見合わせ頷く。
「ソレを2つ。出来たら、こいつに渡してくれ」
グレイハルトは注文し、バニラを残して他の屋台へと歩いて行った。ガレットを受け取ったバニラは公園のベンチに座った。暫くするとグレイハルトはエールとワインの入ったカップを持ってバニラの横に座った。2人はガレットを1口。
「うぉ!美味い。このタレが甘辛くて妾は好きじゃ」
「これは当たりだな」
グレイハルトは宿の夕食前なので1個で止めたがバニラはもう1個食べたそうであった。
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