第14話 村

 翌日2人は昨日貰った果物を齧りつつ宿を出発した。朝の早い時間帯だが町には屋台が並び、営業しているようであった。グレイハルトは屋台の前に立ち止まりパンを4つ購入した。朝と昼の分である。近くにの塀に背を預け、バニラと共にパンに噛り付いた。

「そんでどうする?先を急ぐのか?祭事を見に行くのか?まぁ祭事は祭りじゃねぇからな教会のお偉いさんが神輿に乗って練り歩くぐらいしかねぇと思うけどなぁ」

「妾は教会の祭事に興味はない。美味いものが食えるのなら行ってもよいぞ」

「美味いもんって言っても屋台なんかそんなに変わんねぇな。んじゃ、ノヴィーラに向かうか」

 2人は簡単な会話を交わして、バニラの城があるというノヴィーラ国を目指して歩き始めた。


「そういや。この国の端に迷宮があったな。若いころに1度だけ行ったっけ。ノヴィーラの街道から少し外れるが、それ程遠くねぇから行かねぇか?金はまだあるけど稼げる時に稼がねぇとな」

「妾は良いぞ。急いで城に帰らなければならない訳ではないからな」

 祭事に向かう人々とは逆方向に進む2人。祭事に興味のない行商人の馬車や徒歩の人も居るので2人はあまり目立たないが、時折、『親子で旅か?』という目で見られていた。


 2人は宿に泊りつつ街道をノヴィーラに向けて進んでいく。今日泊る予定の村は宿が一杯で村の広場を解放し、人々が思い思いに野宿していた。村の中という安心感もあるのだろうが子供を連れた家族もいる。広場の中央の焚火では暖をとる人もいるようで座って歓談していた。

「さて、今日はここで寝るか。久しぶりの野宿だな。取りあえず飯でも買ってくるか」

 広場の入り口で利用料を払い木札を貰った。木札があれば広場の出入りは自由で村の店への買い出しも出来た。広場を確認した2人は夕飯の買い出しに向かった。

「大したもん売ってねぇな。村ならこんなもんか。肉串とパンで良いか?果物はまだ残ってるしな」

「ふむ。良いぞ」

 2人は買い物を済ませ広場に戻り、適当な場所に腰を落ち着け買ってきた肉串とパンを頬張る。

「ふむ。店の感じはいま一つだったが、肉串の味はいいな。パンも悪くないようじゃ」

「お前はどこぞの貴族か?いくら村でも不味けりゃやっていけねぇよ」

 グレイハルトのツッコみも冴えていた。バニラは食後に貰った果物に噛り付き微笑みをもらす。バニラの笑みを見て『食ってる時が一番幸せそうだな』とグレイハルトは思うのであった。

 辺りは暗くなり焚火の周りは酒盛りをする者以外は寝にはいったようで、子供たちの声も聞こえなくなっていた。

「俺らも寝るか」

 グレイハルトは鞄から薄い毛布を出しバニラに渡した。長年使っている毛布なので大分草臥くたびれてきていた。そろそろ新しい毛布を調達すべきか考えどころであった。グレイハルトは胡坐をかき木の根に寄りかかり寝の体制に入った。バニラは毛布を身体に巻きグレイハルトの胡坐の上に座り抱き着くように身体を寄せた。そしてグレイハルトを見つめた。

「ん?何だ?」

 グレイハルトはバニラを見て聞いた。バニラは右手で自分の額を指した黙っていた。グレイハルトは暫し考え、そしてバニラの額にキスをした。赤くなったバニラはグレイハルトに抱き着き眠りについた。


 深夜、グレイハルトは微かな気配で目を覚まし薄目を開けた。2人組がこっそりと近づいてくる。武器の類が見当たらないので荷物目当ての盗人だろうとグレイハルトは当たりをつけた。2人組は横に置いた鞄に手を掛けようとした。グレイハルトは腰のオノを抜き、手を掛けようとした者の首筋にオノを沿わせた。

「死にたくなきゃ、とっとと消えろ!」

 首筋のオノに硬直した2人は、静かに頷き鞄から離れて行った。グレイハルトはオノを腰のホルスターに戻した。

「どこにでも、あのような奴は居るのじゃな・・・」

「起こしちまったか・・・」

「いや、妾も気づいておっただけじゃよ」

「そうか・・・もうひと眠りするか」


 辺りが明るくなり人々が動き出す。2人も起き広場の井戸で顔を洗った。2人は広場を引き払い昨日と同じ店に行きパンを4つ買った。パンを齧りつつ迷宮の町を目指して歩き出した。

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