サンタシファ共和国

第13話 入国

 2人は山を下り、エルトニア王国からサンタシファ共和国の入国審査の列に並んでいた。街道では分からなかったが入国審査には結構な旅人がいた。ようやく順番となりギルドカードを提出し、荷物の検査を受け、入国となった。

 王国と共和国は隣国なだけあって文化も然程違いはない。通貨も同じレートで扱われる為、両替の必要もなかった。サンタシファ共和国は名前こそ共和国だが、実質、エダナ教を崇拝する信者の国で教会が力をもっていた。グレイハルトは神を信仰する者をいとわないが戦に赴き命のやり取りをする内に神は居ないだろうと結論付けていた。


 2人は今日泊る宿を探して町を歩いていた。首都でエダナ教の祭事があるとの事だが、国境の町の宿も軒並み満室の所が多かった。漸く見つけた安宿だが、2人部屋は空いておらずに1人部屋に2人で泊るようになった。グレイハルトにとっては朝には同じベッドで寝ているバニラなので特に思う所は無かった。

「ほう。同じベッドか。お主も中々よの。クククク」

 ベッドが1つの部屋を見たバニラが笑いながらグレイハルトに語った。

「空いてねえんだからしょうがねぇだろ。それに毎日、俺のベッドに潜り込んで寝ている奴のいう事じゃねぇな」

 グレイハルトが憤慨して応えるがバニラは笑っていた。


 その後2人は夕食を食べに町に出て行った。この宿は泊るだけで食事は付いていない。町をぶらつき酒と食事が出来そうな店に入ったが、店構えの割に客層はあまり良くないようであった。

 2人はエールとワイン、摘まめそうな腸詰、シチュー、パンを注文する。『お疲れ』と杯を合わせた1口付けたあたりから怒号が聞こえてきた。あまり宜しくない4人の客が店長に文句を言っているようであった。

「ああいう輩は、どこにでも居るのか?」

「そうだな。居るとこには居るし、居ないところには居ない。だな」

 バニラの問いにグレイハルトが応えた。バニラは『当たり前だ』と笑う。そうこうしているうちにコチラにも飛び火してきた。

「おうオウ!何見てんだコラァ!オウ!聞いてんのかコラァ!」

 威勢のいいのが2人のテーブルで言いがかりを付けてきた。グレイハルトは溜息を付きつつ立ち上がり、無言で殴り飛ばした。飛ばされた者は文句を言っていた仲間のテーブルに激突した。3人が立ち上がり剣を抜く。

「ナンダ!テメェ!死にてえのか!」

 威勢がいいだけで脅威を感じない3人が剣を片手にグレイハルト飛び掛かるが、グレイハルトはヒラリヒラリと剣を躱し殴りつけて行く。時間を掛けずに3人は最初の男と同じように床に伸びて居た。

「すまねぇが、さっきの注文頼むわ」

 グレイハルトは何事もなかったようにバニラの待つ席に着いた。

「ほう。腕っぷしも見事じゃな」

「あんな奴ら、相手じゃねぇよ」

「それもそうじゃな。ククク」

 その後、店の連絡を受けた衛兵が4人を回収していった。2人は料理を堪能し会計を済ませ店を出ようとすると店長が出てきた。

「先ほどは助かりました。ありがとうございました」

「ああいうのは偶にいる。気にするな」

「あの。これは少しですが、お礼の品です。お受け取り下さい」

「え?いや、いいよ・・・そうか?悪いな。ありがたく貰っとく」

 グレイハルトは恐縮しながらお礼のカゴを受け取り店を後にした。カゴの中には果物とワインが1本入っていた。


 宿の戻った2人はコップを借り、貰ったワインを開けた。

「店で飲んだものより上等のようじゃ」

「俺はあんまりワインの味が分かんねぇが、これは美味いな」

 2人は貰ったワインを堪能する。バニラがウトウトとしだした。

「さて寝るか」

 グレイハルトの言葉にバニラは席を立ちベッドへと入った。今日はベッドが1つしかない。バニラはベッドの左側に入り、自身の右側を叩きグレイハルトを呼んだ。

「はぁー」

 溜息を付いたグレイハルトは空いている右側に入る。バニラはそんなグレイハルトの左腕を枕にしてグレイハルトを見つめた。グレイハルトは無意識にバニラのひたいにキスをした。バニラは驚きに目を丸くする。耳まで赤くなったバニラはグレイハルトの胸に顔を埋めた。

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