第12話 傭兵となった少年

 大陸の東にある小国トレギは近隣国と戦争の絶えない国であった。

 グレイハルトの両親はトレギの傭兵ギルドに所属していた。元々別の傭兵グループだったが戦場で助け合い意気投合したのが交際の切っ掛けとなった。隣国との戦争と言っても1年中、戦をしている訳ではなく休戦期間があり、休戦期間中の2人は町で暮らしていた。そしてグレイハルトが生まれた。2人はグレイハルトを思い、命をかけた戦を止め、迷宮に入り糧を稼ぐ為に迷宮のある町に移動した。


 小国トレギから西に移動してきた2人はエルトニア王国に入った。この王国には迷宮が複数存在し薬草や魔石を他国に輸出できるほど潤沢であった。そんな迷宮のある町ボルタラに到着した2人は拠点を確保し迷宮へと入っていく。幼いグレイハルトは託児所にもなっている孤児院に預けられていた。

 孤児院は孤児だけではなく、傭兵ギルドと協力して迷宮に潜る傭兵の子供の一時預かりもしていた。戦争よりは安全だと言っても、迷宮も危険な狩場であり命を落とす者も少なくない。そんな傭兵の子供が孤児となりスラムを形成し盗賊へと成長していたという過去の経験を踏まえて教会と傭兵ギルドは協力して孤児院および一時預かりをして子供たちを管理、育成していた。


 迷宮は日帰りできる浅い層と数日の宿泊が必要な深い層がある。ボリフラの迷宮は15層になっており最下層には最低、片道2日掛かる。何日最下層で狩りをするのかにもよるが最低1週間は地上には帰れなかった。グレイハルトの両親は中間層をメインに狩りをし2日または3日で地上へと帰って来ていた。

 7歳になったグレイハルトは成人前の年長者をリーダーとして傭兵ギルドの依頼をグループで受け、街中の雑用を熟し、街中の人々と顔見知りとなり絆を紡いでいった。依頼の空いた時間は同年代の子供と木の棒を振り回していた。『大人になったら両親と一緒に傭兵をやるんだ』と夢を語りながら。


 グレイハルトが10歳になったこと両親は傭兵仲間に誘われ迷宮下層に潜ることになった。『10日ぐらい帰れないが大丈夫か?』とグレイハルトを心配していた。グレイハルトは『孤児院で皆と居るから大丈夫だよ。心配ないよ』と両親を迷宮へと送り出した。

 10日が過ぎ、15日が過ぎても両親たちは帰ってこなかった。心配になったグレイハルトは傭兵ギルドに向かった。ギルドに向かう途中で顔見知りの傭兵に出会った。その傭兵は『俺たちは下層に潜った奴らの捜索に行く。お前の両親も居るはずだ。大丈夫だ。心配するな』とグレイハルトに語り10人の傭兵と共に去っていった。


 それから7日が過ぎた頃、捜索に向かった10人の傭兵が帰ってきた。グレイハルトと共に孤児院にいる子供2人が傭兵ギルドから呼ばれた。別室に入ると既に数人が座っていた。グレイハルトたちも席に着く。ギルド長が現われ『下層に潜った傭兵12人が全滅した』と話し始めた。グレイハルトは頭が真っ白になりそれ以降の話しは耳に入ってこなかった。グレイハルトは遺品の父の剣と両親の名前の入ったドッグタグを持ち孤児院へと帰ってきた。そのままベッドに横たわり泣き崩れ眠った。


 数日後、グレイハルトは自分と同じように家族を無くした子供や親の顔を知らない子供がこの孤児院に居ることに思い至る。自分は10年間だけだったが両親と一緒に居れて幸せだったと思った。その後、グレイハルトはギルドで雑用を受けつつ、両親の捜索に加わっていた知り合いが剣や盾での戦い方を教えてくれた。

 15歳になり成人したグレイハルトは仲間と一緒に迷宮に潜った。新人が潜れるのは1、2階までだが、そこで戦いの腕を磨いていく。


 19歳になり迷宮から戻った翌日、暇だったグレイハルトは傭兵ギルド裏の訓練場で剣を振り汗を流していた。そんなグレイハルトに声を掛ける者がいた。

「傭兵としてさまになったようだな」

 グレイハルトが振り向く。そこには剣を教えてくれた先人が立っていた。傭兵姿ではなく私服のようであった。

「あ。お久しぶりです。まだまだですけど、何とかやってます」

「そうか。俺は歳だし引退した。今はギルドで働いている。それで、今日はお前に話が合ってな」

 先人が語ったのは両親の話しだった。あの時捜索隊に加わり下層へ潜った先人は12層の奥にある湖畔で12人の遺体を発見した。湖畔の周りには大量の小さな魔石が転がり、大きな魔石も4つ、そして大きな牙や爪も確認された。これだけの魔物に襲われ12人は善戦したが力及ばずに亡くなったようだと捜索隊は推測した。そして12人の遺体から遺品を回収し、火葬して埋めてきたそうだ。

「ありがとうございました」

 グレイハルトは涙を流しながら先人に礼を言った。


 グレイハルトは酒場で飲んでいた。今日は珍しく1人だった。近くのテーブルでは行商人や他の町からきた傭兵が旅した国や町の話をしながら飲んでいた。『物心ついてから、この町から出てねぇな』とグレイハルトは思った。『この町も良い町だと思うが、たまには旅も良いかもな』と翌日、傭兵ギルドで町を出る手続をした。

 グレイハルトは、あちこち町を歩き最終的に迷宮と戦争のある町アクロダに腰を落ち着けた。グレイハルトは両親と同じように戦争の依頼があれば戦に赴き、無ければ迷宮に潜るという生活を始めて行った。

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