第11話 バニラと母

 バニラが転移する前のお話し。


 サロンに居る母にバニラが呼ばれた。時々呼ばれてお話しをするのでバニラは特に気にすることなくサロンを訪れた。現代の吸血鬼の祖でありベアトリス・バニラ・ヴァニールの母でもあるヴァネッサ・クララ・ヴァニールはバニラが知っておくべきと思う話を始めた。

「ベアトリス、貴方あなたは15になり成人して大人になったわ。貴方は私の跡を継いで祖になる存在。でも、領地の難しい話はもう少し大人になってから話すわ。今日は貴方の父親の話よ」

「妾の父親ですか?」


 ヴァネッサは過去を振り返りながらバニラに父親の事を話し出した。

「そう。貴方の父親は教会の認定した勇者の称号を持つ人族よ。名前はアントニオ・ベローニと言うわ。貴方が生まれる5年前に領地の中に倒れていたの。怪我をしてね。見捨てても良かったのだけれど私は助けた。気まぐれだったのかも知れないわ。彼は怪我の治療をしながらこの城に5年間住んだの。怪我が治ると領地の中で魔物を狩ったりしてたわ。最初の出会いは気まぐれだったけど、一緒にいるうちに惹かれ関係を持ったわ。4年が過ぎた頃、彼は『俺は勇者としてこのままで良いのか?』って老いたら何もできなくなるんじゃないかって悩んでいたわ。彼は強かったけど、私たちのように数百年生きる長命の種族ではなく、短命の人族でしょ。『やりたい事をやりなさい』って彼に言ったわ。そしたら彼は『今までありがとう。君に会えて良かった』と言って城を出て行ったわ。彼が居なくなってから私に子供が出来た事をしったの。それが貴方よ。あれから15年経ってるわ。彼は亡くなったのかも知れないわね。生きていても大分、老齢のはずよ」

「・・・」

 バニラは初めて父親の話を聞き戸惑っていた。

「私は彼と出会い貴方を生んだ。貴方も『この人は』という存在を見つけなさい。そして離さない事。2人で居れば諍いもおきるでしょう。でも『この人は』と思ったのなら3回までは信じてあげなさい。私は信じて送り出しました。もし、どうしてもダメならあやめなさい。それが私たち吸血鬼です」

 バニラにとって母の話す内容は重いものだった。バニラには今のところ出会いはないが、母の言うように信じることができるだろうかと思うのだった。


「あ。それともう一つ。貴方の妹たち、ティスとモニカの父親はアントニオではありません。貴方は小さかったので分からなかったかも知れませんが、時々、城を訪れる騎士が居たと思います。そのかたです。2人は父親に似たのでしょうね。貴方とはまったく性格が違うし、吸血鬼としての才能も貴方ほどでは無いようです。父親に似たのであれば2人は貴方に害を及ぼすでしょう。貴方が許せるのであれば領地から放逐する程度で、もし許せないのであれば・・・貴方に任せます」

 母の話しはバニラの出生から妹たちの出生へと移っていった。バニラは初めて聞く妹たちの話しに戸惑う。しかも母は妹たちがバニラを害すると危惧さえしていた。


「貴方は何年後か分かりませんが吸血鬼の祖として私の跡を継ぎます。今までのように城の近辺だけでは世の情勢は分かりません。もう少し成長したら各地を旅して世を見て回りなさい。貴方にとって刺激に満ちた世の筈です。人々と関わり、善人、悪人の見分けをつけ友と呼べる友人を作りなさい。そして伴侶となる人を見つけなさい」

「はい」

 バニラは神妙に頷いた。

 その後は、町の商人から購入する物で欲しいものはないか、町の東に出来たお店のデザートが美味しいという、他愛の無い話が続いた。

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