幕間

第10話 バニラの2人の妹

 バニラが転移する前日の夜。


 ベアトリス・バニラ・ヴァニールの2人の妹、クラウディア・ティス・ヴァニールとアレッシア・モニカ・ヴァニールはティスの部屋で策略を巡らしていた。姉のバニラは何をやっても2人の妹よりも上手く、剣、槍、斧、盾、はたまた料理、裁縫、水泳、木登りと妹たちの付け入る隙のない天才であった。2人の妹が勝っているのは年齢の割に大人びた見た目で3人で並ぶとバニラが一番末の娘に見られていた。

 ティスとモニカの2人は正面から攻めて勝てないのなら背面から攻めようと考えた。城の者たちは『長姉を亡き者にして祖になりたいのだろう』と噂しているが、2人は母の後を継いで吸血鬼の祖になりたい訳ではなかった。そもそも母は吸血鬼の祖で簡単には死なない。2人はバニラと何かと比べられることが嫌で『バニラ姉さえ居なければ』という考えになっていた。


 そこで2人は姉を除こうと裏の商人から転移の魔道具を購入した。裏と言っても一般客には普通の物を売っている商人でノヴィーラに店を構えている。特定の客が来た時は応接室に通し、裏の商談をするという商人である。

「ティス姉さま。これでバニラ姉を遠くに飛ばしてしまいしょう」

「モニカ。この魔道具は本当に使えるの?以前の魔道具は稼働前に壊れたじゃない?」

「えぇ。商人にもそのように言いました。今度も壊れるようなら『明日の朝日は見れないぞ』と脅して入荷したばかりの最新の魔道具を購入してきました」

「ふうん。キチンと動けばいいけど」


 翌日のティスの部屋。

「ティス姉さま。ベッドの下に仕掛けてきました。転移位置は細かく指定できないので『砂漠』としておきましたわ」

「モニカ。なぜ砂漠なの。バニラ姉は水魔法も得意でしょう。まぁ暑さには弱いかな」

「それは私も考えました。水辺、海とかだと、ここの近くに転移しそうなので、この辺だと砂漠が一番遠いかなぁと。それに砂漠には戦の亡霊とかスケルトンとか一杯居るって話しじゃないですか。もしかしたら負けるかも知れないですし」

「そうだね・・・敗北を味わうといい。ククククク」

 2人して笑うのであった。


 バニラは深夜、魔道具の稼働に気付いたが、阻止することは敵わず、砂漠へと飛ばされて行く。そこに傭兵グレイハルトが現われたのは、何かの縁だったのだろう。バニラはグレイハルトと共に城に帰るべく旅して来ている。


 バニラの転移が成功したのを確認したモニカは裏の商人の店を訪れた。モニカは応接室に通される。

「上手く転移出来たわ。これはお礼よ」

 モニカは応接室でソファーに優雅に座り、商人にお礼の金を渡した。

「これは、これは、ありがとうございます。で、どちらの方に飛ばしたんですか。海ですか、山ですか」

「ふふふ。砂漠に飛ばしました。あなたの情報網にバニラ姉が掛かったら私に知らせて頂戴。姉が帰ってくるようなら、また魔道具をお願いします」

「砂漠ですか、分かました。サンダシファ共和国を通らないとこの国まで来れませんから、共和国の知人に人相書きを回して置きましょう。見つけたらコチラで手を打っても構いませんか?」

「あなた達では敵わないでしょうが、っていただいて構いません。もし城に帰って来るようなら知らせてくださいな」

 モニカは商談を終え、応接室を後にして城へ帰っていった。

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