第9話 旅と盗賊

 早朝の薄暗い中、2人は北門前で門が開くのを待つ人の列の中にいた。早めに出発しないと次の町には着けない。のんびりしていると野宿になってしまう歩きの旅であった。バニラはまだ半分寝ているようで、グレイハルトの背中の鞄の上に座っている。砂漠を歩いて来た時と同じ格好であった。

「お前はいい加減に降りろよ」

「いやじゃ。まだ眠い。妾がここに居るだけでお主の厳つさも鳴りを潜めるであろう」

「言ってろ・・・」

 2人はそんな会話をしつつ開門を待っていた。


 朝の鐘がなり開門となった。町に入るには厳しいチェックがあるが出るのは簡単なチェックのみでギルドカードを出せば直ぐであった。衛兵は鞄の上のバニラを見て驚愕していたが特に質問もなくカードを返却し、2人は門外へと歩き出した。

 天気は薄曇りだが寒くも暑くもない旅日和であった。街道では町に売りに行くのであろう野菜や果実を積んだロバに引かれた荷車とすれ違う。果実が実に美味そうでバニラが鞄の上から農夫に声を掛け、グレイハルトが金を払い、食べながら歩き続けた。のどかな旅だなとグレイハルトは思った。

 2人は野宿を2回、宿に3回、5日掛けて国境の町に到着した。ここの国境は山の中間にある。検問は両国とも山裾にあり、山は緩衝地帯となっていた。山の街道を抜けるのは歩きで2日掛かり山中で1泊する必要があった。国境の町には特産品は無いが流通の要所として栄えていた。2人は宿を確保し町を散策していく。

「まだ同じ国だから、そうそう珍しいもんはねぇだろ」

「ん。そうじゃな。美味そうなものしかないな」

 バニラは屋台を見て美味そうな料理に釘付けであった。

「この時間に買い食いしたら宿の飯が食えねぇぞ。いいのか。飯の美味い宿を奮発したんだかな」

「分かっておる。じゃから妾は見るだけで我慢しておるのじゃ」

「はぁー。乾物や果物なら明日歩きながらでも食えるから買ってもいいぞ」

 グレイハルトの言葉にバニラは歓喜する。

「流石、妾が選んだ男じゃ。話を分かっておるではないか。では、妾はあそこの果物とあっちの乾物を所望する」

「はぁー」

 グレイハルトは溜息をつきながらバニラの欲しいものを買いに行くのであった。


 宿の食事と酒を堪能しベッドに潜り込む。この辺は標高も高く夜や早朝は肌寒くなる。翌日、グレイハルトがベッドで目を覚ますとバニラが一緒に寝ていた。グレイハルトは特に何も言わずベッドから降り、身支度を整え、椅子に腰かけた。バニラはグレイハルト居なくなったベッドでスヤスヤと眠っていた。

「はぁー」

 椅子に座ったグレイハルトは溜息をつく。バニラがもう少し大人の女性であったならグレイハルトも一緒に寝るのも良いかと思うのだが、如何せん、15歳にしてはバニラの見た目は幼過ぎた。まるで親と子だなとしみじみと思うのであった。


 2人は国境の検問を出て山間の街道を歩いて行く。山には木が茂り日の射さないところは少々肌寒い感じのする街道であった。時折、護衛を伴った行商の馬車が通り過ぎる。この辺には盗賊が出るので注意するようにと検問で言われていた。バニラは鞄の上からグレイハルトに声を掛けた。

「何やら見られているようじゃな」

「盗賊か?何人いる?」

「4人、いや5人か」

「何もしてこなけりゃ別にいいんじゃねぇか。面倒くせえし」

 グレイハルトは特に気にすることなく歩き続けた。

 2人は夕刻近くになり山頂近くの広場へと着いた。ここは旅人たちが野営するために木を伐採し整地した広場で、もうすでに護衛を伴った行商馬車が2台とグレイハルトたちと同じ歩きの旅人が数組、火を起こして夕食の準備に取り掛かっていた。グレイハルトもカマドのある適当な場所に荷物とバニラを下ろした。

「このカマド、使えんだろ。俺は焚き木を拾ってくる」

 グレイハルトは広場から森へと入っていった。バニラはカマドの横にあった丸太に腰かけ、周りに注意を払った。暫くすると街道を5人の傭兵風の男たちがやってきてバニラに近づいてきた。

「お!いい女がいるな。どうだ俺たちと良いことしないか。ケケケケケ」

「妾は盗人に用はない。消えろ」

「んだと!おい!」

 男が声を掛けると4人が他から見えないように壁になる。先頭の男がナイフを抜き、バニラに向けようとしたとき、森からオノが飛んできて男の胸に刺さった。

「うぎゃ・・・!」

 オノが刺さった男が飛ばされ、後の2人も飛ばされ地面を擦った。森からグレイハルトが駆けてくる。遠くで騒ぎに気付いた護衛の傭兵2人も駆けてくる。飛ばされなかっら男2人がバニラに飛び掛かった。バニラは腰の短剣に手を掛け一閃すると2人の男は地面の染みになった。飛ばされた男たちも飛び掛かろうとしたが、仲間がやられるのを見て逃げようとする。その背中にバニラが一閃し、背中から斬り倒した。

 助けに駆けていた傭兵は、その光景を見て足を止めた。グレイハルトは傭兵に手を上げて『大丈夫だ』と合図した。傭兵は踵を返し護衛へと戻っていった。

「相変わらず、見事な剣捌きだな」

「お主の投擲も見事じゃった」

 2人は称えあった。道中で気になったの盗賊は野営の時にでも襲ってくるだろうと2人は話し合っていた。わざとバニラが1人になる状況を作って盗賊を呼び込んだ。グレイハルトとバニラ程の腕があれば盗賊に遅れはとらないという自信もあった。

「こ奴らはどうするのじゃ」

「この辺じゃ衛兵も来ねえから埋めるしかねぇな。穴掘んの面倒だな・・・」

「埋めるのか。では適当な所に運んでくれ。妾が埋めよう」

 グレイハルトは森の隅に盗賊の遺体を運んでいった。バニラが前に出て『沼』と唱えると遺体の下に沼が出き見る見る沈んでいき、沈み切ると元の土に戻っていった。

「魔法は便利だな・・・」

「お主には無理じゃな」

「はぁー・・・さいですか」

 グレイハルトは溜息を付くのであった。

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