第6話 迷宮5層目

 翌朝、昨日の残りの朝食を済ませた2人は、いよいよ5層目と向かう。

「今日は5層に入る。ゴブリンを率いたオーガやオオカミも大型になるから気を付けてくれよ。それと5層には珍しい薬草もあるはずだ」

 グレイハルトはバニラに注意を促したが、バニラの強さなら言わなくても問題無かったかなと思った。

「どんや薬草があるのか楽しみじゃ」

 2人は野営の荷物を片付け5層に向けて歩き出した。

 階段を降りるとそこも森だった。4層と見た目の変わらない森で下草の背が高いかなぐらいしか違いは無かった。

「取りあえず、適当に歩き回るか。下草が多いから薬草の判別は難しそうだな」

「そうでもないぞ。ホレ!」

 バニラは雑草の下から何やら葉っぱをもぎ取った。

「雑草だろ」

「うんや。これは回復薬に使われる薬草じゃ。ギルドの買値も良かったと思うがな」

 バニラがいつギルドで買値を見たのかグレイハルトには分からなかった。

「お前は・・・いや何でもない」

 2人は5層の森の中を歩き回りグレイハルトは周囲を警戒し、バニラはせっせと薬草を採取していった。


「敵襲!前方から・・・バッファローボアか?何で走ってんだ?うん?ゴブリンに追われてんのか?隠れんぞ」

 バッファローボアは角の生えたイノシシで突撃して攻撃をしてくるが軌道を見極めれば容易に回避できる。バッファローボアをよく見ると角にゴブリンが1匹刺さっていた。仲間を助けるの追っているのかも知れないが、バッファローボアの後にはゴブリン20匹に隊長であろうオーガ2匹がいた。

 通り過ぎるかと思われたオーガが急停止して草むらを見ている。

「ウゴォォォォ」

 オーガが声を上げると先を走っていたゴブリンが戻ってきた。グレイハルトはオーガの見ている方を見る。そこにはバニラがしゃがんで薬草を採取していた。バニラはグレイハルトの忠告を一切聞いていないようであった。

「あちゃー。何してやがる」

 グレイハルトは盾を構え剣を抜きバニラの所に走った。ゴブリンの数が多くオーガ2匹ではバニラを守りながら戦うのは歩が合わない。グレイハルトは走りながらゴブリンを斬っていくがバニラまで辿り着けない。オーガはバニラに迫っていた。

 バニラは立ち上がりグレイハルトの攻防を見つつ、右手を上げ魔法を行使する。

「岩弾」

 迫っていたオーガはバニラの攻撃に頭を飛ばされた。バニラはオーガの持っていたボロボロの短剣を握り、迫ってくるゴブリンを切り裂いていく。最後のオーガがグレイハルトの剣に沈んだ。

「お前は俺の話を聞けってんた。あの数じゃ守れるか!?ったくよ!」

 グレイハルトが悪態を付く。

「妾を守ってくれたのか。すまんかったな。ありがとう」

 バニラは微笑んだ。グレイハルトは一瞬、動きが止まりバニラに見惚れた。それほどバニラの微笑みはキレイだった。暫くしてグレイハルトは再起動する。

「言ってろ・・・」


 グレイハルトはバニラの手にあるオーガのボロボロの剣を見た。

「なぁ。その短剣、ボロボロだが切れるのか?」

「妾の魔力があれば、ボロボロでも棒切れでも、名剣となるんじゃ」

 バニラは近くにあった木に横一閃。木はズルッと切り倒された。グレイハルトは驚いた。

「お前は何でも規格外だな」

「もっとあがめても良いぞ。くるしゅうない。町に戻ったら妾の為に見た目の良い剣を進呈するのじゃ。良いな。切れ味はどうでも良い」

「はいはい」

 グレイハルトは壁飾りに使うゴテゴテの装飾剣を想像した。


 ゴブリンとオーガの襲撃以外、これと言った魔物は居なかった。

「うぉぉぉぉ!これは!まさか・・・毒カヅラじゃ。こんな所にあろうとは」

「何だ?珍しい薬草か?」

 バニラの驚きにグレイハルトが声を掛けた。バニラはカヅラの蔦を手繰りつつ根を探しているようであった。

「これはな毒カヅラと言ってな根から抽出した液体を飲むと眠ったまま死ぬ。しかしじゃ、1000倍に薄めて痛み止めの薬草と混ぜると麻酔になるんじゃ。貴重な薬草じゃ。ギルドには売らん」

「貴重な薬草ね・・・何だか甘い香りがするな」

「何をしておる。根を掘るのを手伝え。根を折らんように慎重にな」

 バニラの示す場所をグレイハルトは掘り始めた。根は大きく深い所まであるようで、グレイハルトは寝そべりながら土を掻き出していった。

「甘い香りはカヅラの蔦を切ったからじゃ。この香りは魔物を寄せ付けん。安心して掘るが良い」

 この香りが魔物を寄せ付けないというのは、グレイハルトの長い傭兵経験でも初めて聞く話だった。グレイハルトは1時間近く掛け漸く根を掘り出した。

「ご苦労であった。これは良いものじゃ」

「こんなデカいの持って旅なんかできんぞ。どうすんだ」

「う・・・そうか。では・・・町に錬金術師はおるか?根から抽出するには機材が必要じゃ。出来れば熟練の錬金術師がよい」

「居るんじゃねぇかな。町中でポーション売ってるし、作ってる奴も居んじゃねか。ギルドで紹介して貰えりゃ合えるんじゃねぇかな」

 甘い香りを漂わせる根を鞄に詰め込み2人は迷宮を後にするのであった。帰りは甘い香りの効能で魔物は一切、寄ってこなかった。

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