第5話 迷宮
アクロダの迷宮は町外れの森に入り口がある。入り口は石塀で囲まれ、入室者を管理する建物が横にあり常時監視されていた。傭兵ギルドの依頼掲示板には、コレといった依頼もなく、常時依頼の薬草採取と魔石収集だけであった。グレイハルトとバニラは迷宮の受付でギルドカードを出し迷宮へと降りて行った。
「ほう。迷宮とはこんな風になっておるのか」
「はいぃ?お前、迷宮は初めてか?昨日の1つや2つつう話は何だったんだ?」
昨日、宿でバニラが言っていた『迷宮の1つや2つ、妾が攻略してやろう』にグレイハルトは疑問を持った。
「妾の力を持ってすれば迷宮など容易いと言いたかったのじゃ」
「・・・さいですか」
グレイハルトは迷宮に入ったことのない奴がいう事ではないと呆れていた。
迷宮1層目は洞窟でコウモリやトカゲの魔物しか出てこないので2人はサクサクと進んでいった。
「コウモリって吸血鬼の眷属じゃねぇのか?」
「ここのコウモリは違う。妾たちにも縄張りと言うのがあるのでな。迷宮の中までは知らん」
迷宮2層目は草原。ヘビ、オオカミ、ネズミが主に出てくるとは言ってもグレイハルトの相手ではない。剣で斬り、盾で殴るで特に問題無かった。
「中々やるではないか。スケルトンから逃げていた者とは思えんな」
「お前、バカにしてんだろ。これぐらい出来なきゃ傭兵なんか務まるかよ」
グレイハルトは話ながらも魔物を斬り、殴っていた。倒した魔物は魔石を残して消えていくという迷宮の不思議。バニラは袋を引きずりながら魔石を回収していった。
迷宮3層目の入り口で2人は休憩していた。
「何か珍しい物でもあったか?」
「いや。上と同じような植栽で珍しい薬草も無い。妾は詰まらん」
「まぁ。この階層じゃな。5階層あたりに行くと楽しめるかもな」
「早速、5階層に行こう。妾を楽しませるのじゃ」
「まだ、3層、4層が残ってんだろ。今日は4層で泊るからゆっくりでいい。焦るな」
グレイハルトに言われバニラは頬を膨らまし唇を尖がらせた。
「お前。そういう可愛い顔もできんだな」
「妾は元が良いからな。何をしても可愛い」
「・・・さいですか」
グレイハルトはバニラに呆れながらも肯首した。
迷宮3層目は2層と同じ草原、4層目は森になっているが出てくる魔物が違うだけでグレイハルト基準では弱い。苦労することなく歩き4層目の宿泊ポイントに到着した。5層目へ降りる階段近くの岩壁があるだけの広場だが魔物が寄り付かない安全な宿泊ポイントで何度も利用したであろうカマド跡があちこちにあった。
「今日はココで寝る」
「ふむ。では食材を出すが良い。妾が料理しよう」
「いやいや。その前に焚き木が必要だろ」
「妾にとって焚き木など必要ではない。カマドがあればよい」
グレイハルトは渋々カマドに使える石を集め、元々あったカマド跡を使えるカマドに整形した。
「これでいいのか?」
「ん。十分じゃ。ナベを出してくれ。来たれ!火の聖霊よ!」
バニラが呪文を唱えるとカマドに魔法陣が現われ、そこに1匹のトカゲが出現した。
「何じゃこりや?」
「火の精霊のサラマンダーじゃ。すまぬが火を頼む。うむ。もう少し強火で」
バニラが声を掛けるとトカゲ、もといサラマンダーは燃えだした。バニラは手から水を出しナベを満たしてカマドに掛けた。そして野菜や干し肉を適当に千切りナベに放りこむ。迷宮内での料理は珍しい。グレイハルトは心配そうに横目に見ながら寝る場所を整地し始めた。暫くしてスープと干し肉の炙りが出来上がった。
「美味ぇぇ・・・何だこりゃ・・・あの食材でこんな・・・俺が今まで食ってた保存食と同じものだと・・・」
「ふふふ。妾に掛かればこんなもんよ。どうじゃ?見直したか」
「あぁ・・・こんな美味いもんが作れるとはな・・・」
「もっと妾を
グレイハルトが使える魔法は身体強化のみなので、バニラの使う水、火、土、風などの魔法は使えない。水が出せればどんなに楽かと思った事は数知れず。
「その・・・サラマンダーか、それは魔法なのか?」
「こ奴は召喚じゃよ。妾が契約している精霊じゃ」
「精霊ねぇ・・・」
グレイハルトにはバニラのいう召喚や精霊が良く分からなかった。
「お前は、なんやかんやと凄いんだな・・・」
「今更じゃな?」
グレイハルトにはその後何も言わずに飯を食べていった。
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